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演劇祭当日(2)

 

 衣装の最終確認も終わり、私が衣装係のみんなと一息ついていると、私たちのところへタージェルが駆け込んできた。


 たくさんの女子の視線を浴びて露骨に嬉しそうな顔をしながら、タージェルは私に声をかける。


「マフル、ちょっと手伝ってくんない?手が足りないんだよ」

「えー、いいけど」


 タージェルのお願いを聞く義理はなかったが、暇だった私は仕方なく重い腰をあげた。

 手を振って見送ってくれる衣装係の面々を背にして歩きながら、私はタージェルに問いかける。


「何を手伝えばいいの?」

「いやー、他の皆がドラゴンの最終調整にかかりきりになっちゃってさ。俺一人で他の木とか石とかの張りぼてを運ばなきゃいけなくなったの。それ手伝って」


 つまり、役立たずのパシリ要員とみなされたようだ。

 なんてかわいそうなタージェル。

 しかし、本人は気付いていないのが幸いだろう。

 私は憐れみの視線をタージェルに向けながら、作られた大道具が置かれている場所へと向かった。



「マフル、そっち持ってくれる?」

「はいはい」


 タージェルの指示で、大きな木の張りぼてを二人がかりで持ち上げて運ぶ。

 もう何度も舞台とこことを往復してあらかた運び終わり、これが最後の舞台上に設置する大道具だった。


「タージェル、段差あるよ。気を付けて」

「おう!……っととと!」

「え、ちょっと!!」


 気を付けて、と言ったそばから、タージェルが段差につまづきバランスを崩す。

 つられて足を取られた私は、気が付けばタージェルと木の張りぼての下敷きになって倒れていた。


「いったー……あっ」


 転んだ衝撃で一瞬気が緩んでしまったが、慌てて眼鏡とカツラが取れていないか確認する。

 両方ともしっかりついていて、私はとりあえず胸をなでおろした。


「どうしよ、動けねっ!動いたらせっかく作った木が壊れるっ!」

「お願いだからどいてよっ」


 私より木の心配で起き上がろうとしないタージェルにイライラしながら、自力でタージェルの下から這い出ようと試みる。

 こんなやつと10秒以上密着していたらお嫁にいけなくなる。


 しかし、私が動くより先に、木の張りぼてがひとりでに持ち上がった。

 いや、正確にはひとりでに、ではない。持ち上げてくれた人がいる。


「なにしてんだよ」

「おおー、助かった!ありがとう!」


 言いながらタージェルはまだどかない。私はタージェルの下からその人を見て驚いた。

 

 木の張りぼてをどかしてくれたのは、セフィードだった。


 セフィードは持ち上げた張りぼてを横の壁に立てかけると、タージェルを転がすようにどかして私に手を差し伸べた。


「あ、ありがとう……」


 転がっていったタージェルが壁にぶつかるのを横目で見ながら、私はセフィードの手を取って立ち上がる。

 セフィードは私を感情の読めない目で見つめて言った。


「あいつ、なんなの」

「あ、えっと、クラスメイト……」


 答える私のもとに、「なにすんだよー!」と騒ぎながら立ち上がったタージェルが戻ってくる。

 タージェルは私の肩にがしっと腕を回してにこやかに言った。


「クラスメイトってなんだよ!薄情だなー!友達だろ?戦友でもあるよなっ!」


 お願いだから、空気を読んでほしい。

 タージェルの言葉に、セフィードが絶対零度の視線を私たちに向けてくる。

 おおかた、私たちが仲良くふざけ合っていて倒れたと思っているんだろう。


 セフィードに誤解されたくなかった私は、タージェルの腕を払いのけてセフィードに言った。


「あの、ごめん。これはほんとに事故だったの。助けてくれてありがとう」

「……ああ」


 セフィードは答えながら今度は私ではなくタージェルをじっと見る。

 しかし結局何も言うことはなく、そのまま背を向けて立ち去ってしまった。


「セフィード・オスカー、何考えてるかよくわかんねーなあ。とりあえず思ってたよりお前ら仲良くなさそうだな?」


 頭の後ろで手を組みながらあっけらかんと言うタージェルの横で、私はがっくりと落ち込んだ。

 久々に話せたと思ったら、とんでもなく情けないところを見られてしまった。

 しかも、一度も笑ってくれなかった……。


 タージェルの言う“思ってたよりお前ら仲良くなさそう”という言葉は、的を射ているかもしれない。

 私が思ってるより、セフィードは私のことなんてどうでもいいのかも。


 私は大きなため息をつきながら、とりあえず運び終えてしまおう、と再び木の張りぼてに手をかけた。


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