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噂と違う


 セフィードの姿が見えなくなってから、アーリちゃんがはあああ、と長い息をつく。

 私は彼女の背中をさすり、彼女の頑張りをねぎらった。


「すごいね、縫うのとっても速くて見入っちゃった」

「え、いやいや、私なんて大したことないよ。それよりセフィード様……初めて話したけどすごく優しいんだね」


 彼女は頬にまだ少し赤みを残したまま、セフィードの去って行った方向に熱いまなざしを送る。

 私は苦笑しつつもそれに同意した。


「そうだね、セフィードはすごく優しいよ。多分、普通に話しかけた方が嬉しいんじゃないかな」

「そっか、そうなんだ……。私、噂でセフィード様は誰が話しかけても無視するし睨まれるって聞いてたから、勝手に怖い印象持っちゃってたかも……」


 正直なところ、最初セフィードに良い印象を持っていなかったのは私も同じだ。

 申し訳なさそうにするアーリちゃんの横で、こっそり私も再度勝手な印象を持ってしまっていたことを反省した。



 やがて、衣装を身に着けたセフィードが戻ってきた。


 いつもの制服とは違い、豪華な装飾が入ったきらびやかな衣装がセフィードに良く似合っている。

 思わず見惚れてしまった私の横でズボンの丈を確認したアーリちゃんが言う。


「下はぴったりみたいですね。どうですか?動きづらくないですか?」


 セフィードはその場で少し剣を振る動作をしてみたあと、薄く笑って答えた。


「いや、特に問題ない」


 その答えに私もアーリちゃんもほっと安堵の息をもらす。

 あとは、本縫いすればセフィードの衣装は完成だ。


 もう一度更衣室で着替えてきたセフィードから衣装を受け取り、私たちは衣装係の集まる場所へと戻った。



「アーリちゃん、近くで見るセフィード様はどうだった?!」


 戻ってすぐ、アーリちゃんが衣装係のみんなに囲まれる。

 アーリちゃんは頬を染めながら答えた。


「もう、とにかくかっこいい。それに全然冷たくなかった。マフルちゃんが言ってたんだけど、セフィード様は普通に話しかけられる方が嬉しいって」

「えー、そうなの?!じゃあ、今度私も勇気出して話しかけてみようかな」

「じゃあ次小物合わせしに行くとき私行きたい!!」

「ずるい!私も!」


 アーリちゃんが話ができたことでハードルが下がったのか、みんなセフィードと話がしてみたくて盛り上がる。

 それをなんだかほほえましい気持ちで眺めていた私は、後ろでシャーリーが私を睨みつけていることに気が付くことができなかった。



◆◆◆


 次の日の朝、いつもの空き教室。


 シャーリーとその取り巻きたちがそこには集っていた。


「くそっ、あの女、やりやがった!」


 苦々しい表情で言うシャーリーを、取り巻きが心配そうにのぞき込む。


「こんな朝早くに召集だなんて、シャーリー様どうされたんですか?あの女とは?」

「マフル・ハーシェだよ!あいつ、私がせっかく苦労して流した噂を無効にしやがった」


 シャーリーが苦労して流した噂とは、“セフィードは話しかけられても無視する、最悪睨まれる”というものである。

 ちなみに最初のコンタクトでマフルにもセフィードは冷たいと吹き込もうとしたが、すでにマフルはセフィードの素を知ってしまっていたため無駄であった。


 セフィードと仲良くすんな、という含意をこめて悪口にならない程度に相手を気遣うそぶりで少しずつ少しずつ噂を浸透させていたのに、すべてが水の泡である。


 シャーリーの苛立ちも無理はなかった。


 取り巻きの一人が、眠そうにあくびをしながら言う。


「まあでも、シャーリー様の感触では両想いまであと少しなんですよね?もういいんじゃないですか?」

「よくねーよっ!」


 シャーリーの叫びに、あくびをしていた取り巻きは眠気も吹き飛び肩をすくめた。


「セフィードは私のものなんだよっ!誰も仲良くしちゃ駄目っ!」

「独占欲の強いシャーリー様、かわいい……」


 もう一人の取り巻きが、目をハートにしながら胸の前で手を組んで言う。

 あくびをした方は、名誉挽回のために慌てて言った。


「そしたら、マフル・ハーシェにも協力させちゃえばいいんじゃないですか?」

「え?」


 憤っていたシャーリーは、その言葉に驚いて取り巻きを振り向く。


「協力させるって何に?」

「シャーリー様にですよ。シャーリー様が、「セフィードのこと好きなの、協力して?」って言えばあの人お人よしそうだし、きっといちころです」


 シャーリーは腕を組んでしばらく考えたあと、すっかり機嫌を直した様子でにっこり笑った。


「それ、いい。とりあえずそれでいくわ」


◆◆◆


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