サイズ合わせ
それから数日が経った。
「マフル、衣装係はどんな感じ?」
いつものように私の席にやってきたライシーに尋ねられ、私はうーん、とうなりながら答える。
「まあ、順調かな?今布の裁断が終わるところ。とにかく量が多くて大変」
「今回そんなにキャストがいないのは救いだよねえ」
「ほんとそれ。これでさらに衣装が必要だったら、絶対間に合わないよ」
私たちの会話を後ろから聞いていたタージェルが、こちらもいつものように話に割り込んでくる。
「大道具だって大変だぜ!うちのリーダーがこだわり強すぎて、なかなかドラゴンの制作が進まん」
「あー、ドラゴンねー。見せ場だからしょうがないかもね」
「ちくしょー。俺は……俺はなあ!大道具の制作で頼りがいのある男を演出して、女の子にきゃーきゃー言ってもらう予定だってのに……!毎日あれが足りないこれが足りないって買い出しばっかだよ、くそっ」
机に拳をだんだんと打ち付けてくやしがるタージェルに、ライシーが尋ねた。
「その買い出しって一人で行くの?」
「いや、何人かでだけど」
「えー、それこそチャンスじゃん!女の子誘って行って、重い荷物持ってあげたら、“頼りがいのある”タージェルくんだよ」
「……!!ライシー、お前天才か!!!」
感激するタージェルを私は冷めた目で見つめた。
こんなことも思いつかなかったということは、今までの買い出しでは重い荷物を人任せにしていたということだ。あほすぎる。
今更頼りがいを演出しても無駄だと思うが、それを教える義理はないので余計なことは言わずに黙っていることにした。
タージェルは放っておいて、ライシーに向き直る。
「ライシーの方はどう?小道具チームは仲いいの?」
「うん、わりといいかんじ!恋人持ちが多いから、皆和気あいあいとまったりやってるよ」
もしかしたら、小道具は今回一番平和なチームかもしれない。
去年は女子だけだった照明も、今回は男女同じくらいいてすでに恋が始まりそうな人たちもいるようだ。
私はうらやましさにそっとため息をついた。
******
それからさらに時間が流れ、ついに布の裁断と仮縫いが完成しキャストに実際に着させて調節するときがやってきた。
当然のように私はセフィード担当である。
しかし、何度も言うように私は裁縫初心者なため、私は基本的にお手伝いでアーリちゃんという服作りの経験者が縫うのを担当してくれることになった。
「アーリちゃん、マフルちゃん、セフィード様は主役だから!失敗は許されないから!よろしくね!」
「プレッシャーかけないでよー!」
泣き言をいう私とアーリちゃんを、サムズアップで衣装係のメンバーが送り出してくる。
私はいろんな意味で緊張しながらセフィードと向き合った。
「ええと、よろしくね。私たち、針持ってるから動かないでね」
「こえーな」
セフィードがかなり真剣な声色で呟く。
アーリちゃんも緊張で顔面蒼白になっている。
ここは私が場を主導しなければ、と思った私は、さっそくセフィードに仮縫いした衣装を着せてみる。
「あ、すでにわりとぴったり。よかったー」
私の言葉に、アーリちゃんが若干自分を取り戻して丈を確認しはじめた。
「ほんとだね、この分ならほとんど直しもなさそう。あ、でもちょっと肩幅ずれてるかな……」
言いながらアーリちゃんがセフィードの肩に手を伸ばす。
しかし、彼女は自分の指がセフィードの肩についた途端、びくっと大げさに飛び上がって後ろに後ずさった。
「す、すみません!!触れてしまいました!!!」
彼女の大げさな動きに、セフィードは一瞬驚いたのち困ったように笑って言った。
「俺は触れると死ぬ呪いの人形か何かか?」
「……!い、いえ、そういうわけではなくて……!」
間近で見るセフィードの笑顔に、アーリちゃんは真っ赤になりながら慌てて弁解する。
しかし、この会話でアーリちゃんの緊張は少し解れたようだった。
真っ赤な顔のままおそるおそるアーリちゃんは再びセフィードの肩に触れ、少し早口でセフィードに言った。
「や、やっぱり若干大きいので、直しますね!し、失礼します」
アーリちゃんは素早く針を動かしていく。
私はアーリちゃんが縫いやすいように布を抑えた。
彼女の針裁きは正確で、無駄がない。あっという間に丈を調節すると、玉止めをして糸を切った。
「お、終わりです!ありがとうございましたっ!」
私もセフィードもアーリちゃんが縫う姿に感心して見入っていたため、アーリちゃんの言葉にはっと我に返る。
「あ、そしたら次は下かな?」
「はい!セフィード様、これ履いてきていただいてもいいですか?」
「わかった」
セフィードは衣装であるズボンを受け取ると、更衣室の方へ歩いて行った。




