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シャーリーのお願い

 セフィードの衣装合わせが終わった次の日、私はシャーリーに呼び出されて人気のない廊下にいた。


 突然どうしたんだろう、と思いながらシャーリーを待っていると、それほど時を置かずに私を呼び出した張本人が現れる。


 手を振りながらこちらに向かってくるシャーリーは今日も輝くように美しかった。


「突然ごめんなさいね、マフル」

「いいよ。どうしたの?」

「実は、マフルにお願いがあって……」


 シャーリーは少しもじもじしたあと、意を決したように私に向き直って言った。


「あのね、私、ずっとセフィードのことが好きだったの。マフルはセフィードと仲いいでしょ?協力してもらえないかしら」


 シャーリーの言葉を、私はすぐには飲み込めなかった。


「え……?シャーリー、もうカーフェくんじゃない別の彼氏がいるんじゃ……?」

「やだ、そんな噂があるの?いないわよ、次の彼氏なんて」

 

 恥ずかしそうに私の言葉をシャーリーが否定する。


 シャーリーには今彼氏がいなくて……好き?誰を?セフィードを……。

 ということは、二人は両想いだ。おめでたい。美男美女のカップル誕生。


 頭の中でばかみたいな格好をした天使がぱっぱらぱーとラッパを吹く。

 

 しかし、ふざけたことを考える私の頭の片隅で、別の私が何かを叫んでいた。


 私はその別の私を振り払うように頭を振り、笑顔でシャーリーに答えた。


「えー、そうだったんだ!でも、協力って何をすればいいの?私にできることがあるかな」

「そうね、例えばセフィードにそれとなく私のことを勧めてもらえたりすると嬉しいわ」


 そんなことをしなくても、セフィードはシャーリーが好きなのに。


 そう考えて思わず困った顔をする私に、シャーリーは何か勘違いをしたのか、慌てて言った。


「もちろん、無理にとは言わないわ!でもとにかく、私がセフィードのこと好きなことだけは知っててもらいたいの……」


 胸に手を当てながらもじもじとそう話すシャーリーはとても可憐で、私はなんだかとても複雑な気持ちになった。


 おそらく、これは牽制なのだ。シャーリーは、私とセフィードの仲を心配しているんだと思う。

 シャーリーが心配しなくても、私とセフィードは何もないんだけど。……本当に?


 私は無理やりぐちゃぐちゃに絡まった気持ちを振り払うと、精一杯の笑顔を浮かべてシャーリーに答えた。


「うん、わかった。何ができるかわからないけど、シャーリーのこと応援する」

「ありがとう、マフル……!」


 そう言って笑ったシャーリーはきらきらと輝いて見えて、それに反して私の心はどんどん重くなるばかりだった。



******



 それから二日後の昼休み、私はお弁当を持ってどこへ行くともなしに歩いていた。


 いつもはライシーと食堂へ行くのだが、今日はライシーが彼氏とお昼を食べるため、たまには一人で外で食べるのもいいかな、なんて思ったのだ。


 だがしかし、肝心の食べる場所が決まらない。


 今日は天気がいいため、日当たりの良いベンチはすでに他の生徒に使われてしまっていた。


 これはもう、あのセフィードがよく使っている広場に行くしかない。

 シャーリーに協力する、なんて約束をしたばかりでセフィードと関わりのある場所へわざわざ行くのもどうかと思ったが、別にあの広場はセフィードだけのための場所じゃないし、そもそも今セフィードがそこにいる可能性の方が低いし。


 そんなことを頭のなかで言い訳しながら広場へと足を向ける。


 だがしかし、タイミングがいいのか悪いのか、その広場には先客が――そう、他でもないセフィードがいた。


 ベンチに座って空を見上げていたセフィードは、私が広場に入るとこちらに目を向けて眉を上げた。

 そこにいるのに無視するのもどうかと思ったので、こちらを見つめ続けるセフィードの方へ向かう。


「ごめん、邪魔かな?ここでお昼食べてもいい?」

「好きにしろよ」


 セフィードの返事を聞いて、私はセフィードから離れたベンチへ向かうためにセフィードに背を向ける。


 しかし歩き出す前に私の腕がセフィードによって掴まれた。

 なんだかデジャヴだ。


「え、なに?」

「なんでわざわざ遠くへ行くんだよ。ここでいいだろ」


 言ってセフィードは少し横にずれ、一人分の座れるスペースを空ける。

 セフィードが私を座らせたい場所が“隣のベンチ”でもなく“同じベンチの隣”だったことに驚いて私は動きを止めた。


「どうした。早く座れば。そしてその弁当を俺にもくれ」


 セフィードの俺様な物言いに私は思わず勢いでセフィードの横に座ってしまう。


 座ってから、これはいいのだろうか?という思いが一瞬去来したが、よく考えれば別に私はセフィードと仲違いしたいわけではないのだ。


 これは友達として十分許容範囲だろう、と自分を納得させて、私は彼に向き直った。


「このお弁当大きいから少しくらい分けてもいいけど……セフィードお昼食べてないの?」

「食べたけど足りなかった」


 私がお弁当の蓋を開けて手でつまめるおかずをいくつか選び、蓋にのせて渡すとセフィードはめずらしく無邪気な笑顔を見せた。


「ありがと」


 あまり見ない種類の笑顔に、私の胸は大きな音を立てて鳴る。


 顔も赤くなってやしないだろうか。

 しかしセフィードはもう私ではなくお弁当に夢中だったのでこちらなど見ていなかった。


「やっぱうまいな。これ作ったのって、ハイキングのときの弁当作ったシェフ?」


 ぼーっとしていた私は、自分に喝を入れてからセフィードに返事をする。


「そうだよ。おいしいよね」

「ああ。お前んちのシェフおれんちで雇っていい?」

「えっ、絶対だめ」


 私の言葉にセフィードは声を出して笑う。

 

 機嫌の良いセフィードを見ていたら私もなんだか嬉しくなって、いつの間にか一緒になって笑っていた。

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