牽制
翌日から本格的に演劇祭の準備が始まった。
基本的には最終授業のコマと、足りなければそのまま放課後が準備の時間として割り当てられる。
彼氏とともに小道具係になったライシーと別れ、私は衣装係の集う場所へと向かった。
衣装係は、採寸やサイズ合わせのために、基本的にはキャストの近くで衣装の制作を行うらしい。
私の向かう先には、セフィードやシャーリーもいるのが見えた。
私がセフィードたちの方に近づくと、数名の女子たちが意味ありげな視線を向けてくる。
なんだろう、と思っていると、その中でも目つきの悪い別のクラスの女子が、突然私をぐいっと引っ張って言った。
「マフルさん、あなた昨日の放課後セフィード様と一緒に帰ったらしいわね?」
非難するようなその声に、私は思わず怯む。しかし何も悪いことはしていないので堂々と返した。
「帰ったけどなに?引っ張らないで、痛いよ」
しかしその女子は強くつかんだ腕を離してくれず、強い目線で私を睨みつけて言う。
「あんまり調子に乗らないでよね。あなたなんかセフィード様に釣り合うわけないでしょ」
彼女の言葉の裏には、あんたみたいな地味な女が、という気持ちがはっきり透けて見えた。
地味であることと恋愛をすることに関係があるとはどうしても思えない私は、彼女に言い返してやろうと思い、口を開く。
しかし、私が言葉を発するより早く、別の第三者の声が私たちの間に割って入った。
「どうしたの?」
そこに立っていたのは、シャーリーだった。
遠くにいた彼女がいつの間にか近くに来ていたことにびっくりする私に対し、相手の女の子は味方が増えたと思ったのかシャーリーにまくし立てるように話す。
「この子が、最近セフィード様とちょっと話したことがあるからって調子にのってたんで、注意したんです。セフィード様はシャーリーさんのものなのに」
最後のセリフはおそらく、シャーリーに媚びを売るためのものだろう。
知っていることのはずなのに改めて第三者から言葉にされると、なんだかその言葉が胸に刺さった。
シャーリーは困ったように笑って言う。
「セフィードは誰のものでもないわ。それに、この子はただのセフィードの友達よ。そうよね、マフル?」
覗き込むようにして言ってくるシャーリーに、私は慌てて首を縦に振る。
そんな私を見て、絡んできた女の子は不機嫌そうにぶつぶつ呟いた。
「友達ねえ……。まあ、言われてみれば、あんたとセフィード様がどうこうなるわけないし、セフィード様にとっては友達以外ありえないか」
だから、なぜそんなに上から目線なのか。
イライラが再燃した私だったが、仲裁してくれたシャーリーの顔をたててぐっと我慢する。
その女子は、シャーリーにだけ「お騒がせしました」と頭を下げて去って行った。
シャーリーは彼女を見送ったあと私に笑顔を向けて言う。
「お疲れ様。セフィードの友達でいるのも大変よね。でも、他のほとんどの子はあなたとセフィードがただの友達であることくらいわかってるから大丈夫よ」
念を押すようにセフィードと私が友達であることを強調するシャーリーに少し違和感を覚えたが、私はそれを流してうなずいた。
「ありがとうシャーリー。来てくれて助かった」
「いいえ。セフィードも心配してたわ。彼が来ようとしてたけど、女の私が行った方がいいからって止めたの」
シャーリーに言われてセフィードの居た方を見ると、たしかにセフィードが心配そうにこちらを見つめていた。
しかし彼は私と目が合うと、知らんぷりするかのように目をそらしてしまう。
なんだかそれがおかしくて私は思わず笑った。
「…だから仲良くすんなっての」
「えっ?」
突然物騒な物言いが聞こえてきて私は思わずあたりを見回す。
「シャーリー今何か言った?」
「何も言ってないわよ?どうしたの?」
「いや、なんでもない……」
確かに聞こえたと思ったのだが。
首をひねる私の背中にそっと手をあて、シャーリーは言う。
「それより、早く行きましょ。もう始まってるわ」
「あ、そうだった!行こう!」
気味の悪い呟き声は気になるが、私はひとまず忘れることにしてシャーリーとともに走り出した。




