放課後のお誘い
その日の放課後、私はセフィードのいるクラスへ向かった。
授業が終わってすぐ出てきたが、もしかしたらもう帰ってしまっているかもしれない。
まだいますように、と思いながら教室を覗き込むと、果たしてそこにはまだセフィードの姿があった。
もう教室を出るところのようで、ちょうどこっちに向かってきており、教室を覗き込んだ私とばっちり目が合う。
私が手招きしてみせると、少しだけ速足になってこっちに来てくれた。
「なに」
「制服、洗ったから返そうと思って。こないだは本当にありがとう」
私は紙袋に入れたセフィードの制服の上着を、セフィードに手渡す。
ちなみにセフィードは制服を何着か持っているようで、今日は別のものを身に着けていた。
「それだけ、じゃあね」
用事がすんだので私も帰ろう、と踵を返すと、そんな私の手をセフィードがつかんでくる。
そして、びっくりして振り返った私に言った。
「お前も、もう帰り?」
「そうだけど」
「なら一緒に帰ればいいだろ」
セフィードの言葉に、私はちょっと嬉しくなった。
なんとなく、セフィードは誰かと一緒に帰ったりするのは嫌かと思っていたのだ。
「セフィードがいいならいいよ」
「なんだそれ。行くぞ」
「あ、待ってよ」
掴んでいた私の手を離すとすたすた先に歩き始めたセフィードを、私は慌てて追いかけた。
******
セフィードと並んで校舎を出る。
周りからの視線が痛かったが、気にしないようにしてセフィードに話しかけた。
「セフィードの家はどのあたりなの?」
「ダルーハネ通りのあたり」
ダルーハネ通りは、この学園からみて、私の家がある区画であるファフマン通りのあたりからさらに奥へ行ったところにある通りだ。
ファフマン通りのあたりもダルーハネ通りのあたりも、どちらも高級住宅街だが、ファフマン通りは昔からの歴史ある建物が多いのに対し、ダルーハネ通りは最新設備の揃ったモダンな家が多い。
「うちは、ファフマン通りにあるよ」
「知ってる。将来商いに役立つからって、名のある家のあるところはほとんど親に覚えさせられた」
「そうなんだ」
セフィードの言葉に、私はハーシェ家を継ぐ兄たちの姿を思い出した。
私の三人の兄も、幼少期から将来のために昼夜問わず一心不乱に勉強していた。
セフィードは一人っ子だから、私の兄たちが三人がかりでやったことを一人でこなしてきたことになる。
なんだかその事実は私の胸をしめつけた。
「セフィードは絶対良い経営者になるよ」
頭もよくて、努力家で、ぶっきらぼうなくせに人から頼られると断れない。そんな彼が周りから慕われる姿が、ありありと想像できた。
私の言葉に、セフィードは目を丸くして私を見つめた後、はっとして顔をそむける。
その耳はなんだか赤かった。
「照れてる」
「うるせーな」
彼は手の甲で口の当たりを抑え、相変わらずこっちを見ずに言う。
「お前、ほんとそういう唐突にくるのやめてくれる?」
「はい?」
何のことだかわからなくて首をかしげたが、セフィードは何も説明してくれない。
私は気を取り直して別の話をすることにした。
「そうだセフィード、せっかくだから今日ちょっと時間あるかな?」
「なんで?」
「先輩とのこと協力してくれたお礼がしたいな、と思って。うちの近くにおいしい揚げ菓子やさんがあるの。通り道だし、よかったら寄ってかない?おごるよ」
なるべくなんでもない風に提案したが、実は制服のまま寄り道するのは初めてだ。
でもどうしてもお礼がしたい。
ドキドキしながら返事を待つと、セフィードはゆっくりうなずいた。
「遅くなんなきゃ平気」
「よかった!うちもあんまり遅いと皆心配するから、ちょっとだけね。じゃ、行こう!」
私が張り切って歩き出すと、セフィードは苦笑しながらもついてきてくれた。




