降光祭当日(3)
こういうことは、ためらうとよくない。
タイミングを計っていたらきっと言えずに終わってしまう――
そう考えた私は、先輩が椅子に座ると同時に、一度大きく息を吸ってからはっきり言った。
「マルディー先輩、好きです。付き合ってください」
言い終わってから、顔に熱が集まるのを強く感じる。
先輩の方をうかがうと、ふいうちにあったかのように固まっていた。
お互い、どのくらい動かずにいただろうか。
やがて、先輩がゆっくりと口を開いて、言った。
「……ごめん。俺は、マフルちゃんとは付き合えない」
半分は、予想していた返事だ。
それでも、私はそれを聞いた瞬間頭を殴られたような衝撃を受け、急速に世界が光を失うのを感じた。
先輩は私の方を見ずに続ける。
「マフルちゃんが、俺のこと好きなのはわかってた。だから、ずっと考えてたんだ。マフルちゃんはとっても良い子だし、頭もいいし、この間のハイキングの日の服もかわいかったし…。でも、やっぱり、どうしても恋愛対象としては見られない。だから、ごめん」
私はしばらく何も返事ができなかったが、先輩を待たせてはいけない、と思い、やっとの思いで口を開いた。
「いいえ、先輩と過ごせた時間は本当に楽しかったです。たくさん私のことを考えてくださって、ありがとうございました」
正直、それを言うだけで精一杯だった。
絶対に涙だけは見せてはいけない、と思い、無理やりにでも微笑んで見せる。
先輩は心配そうな顔をしていたが、私の顔を見て、自身もまたほっとしたような笑顔を浮かべた。
「いや、こちらこそ俺を好きになってくれて、本当にありがとう。きみを好きになれなくて、ごめん」
それは先輩なりの誠意をこめた言葉だったのだろう。
しかし、私にはその言葉が何よりも私を否定する言葉に感じられた。
好きな人に好きになってもらえない自分を、嫌いになりそうだ。
先輩は椅子から立ち上がり、続けた。
「そろそろまた空も明るくなりそうだし、俺、そろそろ行くね。マフルちゃんも一緒に出る?」
「……いえ、私はもうちょっと残ります。今日はありがとうございました」
「わかった、それじゃあ……またね」
おそらく、もうないであろう“また”。
そんな言葉を残して、先輩はテントを後にした。
先輩がいなくなった瞬間、私の目から大粒の涙がぼたぼたと零れ落ちる。
涙はあとからあとから溢れて止まらず、結局空が明るくなってまわりのテントから誰の気配もしなくなっても、私はそこで泣き続けた。
私の初恋は、こうしてあっけなく終わってしまった。




