決意
セフィードは人気のないところまで私の手を引いて、突然ぽいっと離す。
そして立ち止まり、私を見て言った。
「お前あれからちゃんと先輩に会ってる?」
「え?いや、会えてない……」
まだ少し混乱が残りながら答えると、セフィードはあからさまにため息をついて再び歩き出した。
「そんなことだろうと思った。行くぞ」
「え、行くってどこに?」
「決まってんだろ、先輩のとこだよ」
「ええっ!?いや、でも、迷惑じゃないかな」
セフィードに付いていきながら思わず不安を吐露すると、セフィードはこちらを見ずに返す。
「会わなきゃ何も始まらないだろ。考えすぎなんだよ」
たしかに、そうだ。
先輩に会って話ができたのはたかだか二回。
それなのに、どこか降光祭の約束ができたことで安心してしまっている自分がいたことに気が付いた。
でも、結局それも私のお誘いに先輩がうなずいてくれただけ。
私は先輩に好きになってもらうためにまだまだ努力しなければいけない立場であることを、今更ながら思い出す。
私は歩調を速めて、セフィードの隣に並んだ。
「セフィード、場所だけ教えて?私一人で行く」
私の言葉にセフィードは驚いた顔で立ち止まる。しかしその表情は一瞬で、すぐに優しい顔になって言ってくれた。
「……こないだと同じ、第四研究室」
「ありがとう。あの、ほんとにいつもありがとね。そうだ、私もセフィードに協力したくて、こないだシャーリーと話をしたんだけど、結局大した話は聞けなかったの。ごめん」
今そんな話をされるのはさすがに予想外だったのか、セフィードは虚を突かれた顔をしたあと呆れた声で言った。
「今そのことはいいって。それより早く行け。マルディー先輩が帰る前に」
「うん、ありがとう。行ってくる」
私が何度目かになるお礼を言って歩き出すと、私の背中にセフィードが言葉を落とす。
「……シャーリーから降光祭誘われたから。だから俺のことはもう気にすんなよ」
「えっ!?」
私はさすがに驚いて、一度足を止めて振り向く。
しかしセフィードはすでに来た道を戻り始めていた。
追いかけて詳しく聞こうか一瞬考えたが、それで時間を使って先輩とすれ違ってしまったら、せっかく連れ出してくれたセフィードの厚意が無駄になる。
また今度会えたときちゃんと聞こう、と思い直し、私は先輩のいる第四研究室へと向かった。
******
それからまた、何日か経った。
しかし変わったのは、私がマルディー先輩に会いに行くようになったこと。
セフィードが私を連れ出してくれた日に先輩からクラスを聞き、たまにお昼を一緒に食べたり授業に関する質問をしに行ったりするようにしていた。
先輩から誘ってくれることも数回あったけれど、ほとんど私から用事を作って会いに行った。
先輩といい雰囲気になれているかは、正直よくわからない。
でも、いろんな話をしてかなり仲良くなれたんじゃないかな、とは思う。
セフィードには、結局あの日以来会えていない。
先輩に会いに行っていて時間がなかったのもあるし、単純にテスト期間があって勉強に忙しかったのもある。
でも心の片隅で、セフィードとシャーリーがどうなったのかいつも気になっていた。
ちなみに、セフィードとのことはライシーがうまくクラスメイトに説明してくれていて、私とセフィードは良き友人だ、というところにみんなの認識は収まっている。
私の容姿を理由に、セフィードを狙う女の子たちがセフィードと私の関係をあまり心配していないのが少し複雑な気持ちだが、実際何もないのだから別にかまわない。
そうしてついに、降光祭の日がやってきた。




