約束
歩く先で若い女の子たちがセフィードを見てきゃあきゃあ言うのを少し眺めたあと、私は一度ぐっと拳を握ってマルディー先輩の方を向いた。
「あの、先輩」
「ん?」
先輩は首をかしげながら笑みを浮かべてこちらを見る。
「先輩は……あの、降光祭に誘う相手、決まってますか?」
私の言葉に、マルディー先輩は驚いた顔をしたあと頬をかいて言った。
「いや、まだだよ」
どう誘おうか考えてはみたが、小細工はよくない。やっぱり直球勝負が一番だろう。
私は覚悟を決めて言った。
「じゃあ……じゃあ、もしよかったら降光祭の日、私と一緒に居ていただけないでしょうか……?」
ぎゅっと目を瞑って先輩の返事を待つ。
時間が永遠にも感じられたころ、先輩が口を開く気配がした。
「いいよ」
マルディー先輩の返事に、私はぱっと目を開けて先輩を見た。
先輩は真っ赤になって向こうを向いていた。
「い、いいんですか!?」
「うん……」
なかなかこっちを見てくれない先輩だったが、私は嬉しくて胸がいっぱいになる。
「ありがとうございます!嬉しい」
「いや、こちらこそ誘ってくれてありがとう」
目の縁まで真っ赤になりながら、やっと目をみてくれる先輩。
でも、今度は私が恥ずかしくなってぱっと目をそらしてしまう。
私は下を向いてもじもじしながら言った。
「っ、そしたら、用紙に先輩の名前を書かせてもらいますね」
「うん、よろしく」
その後私たちはセフィードが戻ってくるまで、こそばゆい空気の中過ごしたのであった。
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帰り道、私は先輩が前を歩いている隙に、すすっとセフィードに近寄った。
「あの、ありがとう」
私の言葉にセフィードはこちらを一度だけちらっと見て言った。
「その様子だと、成功したみたいだな」
「うん、あの、ほんとにセフィードのおかげ」
感謝の気持ちをこめてえへへ、と笑うと、セフィードもつられたように口端に笑みを浮かべる。
「別に、俺は何もしてない。お前ががんばったんだろ」
この言葉には思わずキュンとしてしまった。
セフィードをみて騒ぐ女の子たちの気持ちが少しわかった気がする。
私は気持ちを切り替えるように頭を振り、尋ねた。
「セフィードは、結局あの紙出さないの?」
「出さない。もともと出すつもりもなかったし」
それならなぜわざわざシャーリーさんの名前を書いたのだろう。
やっぱり、シャーリーさんに彼氏がいるのがダメなのだろうか。
普段俺様な態度のくせに遠慮するようなその態度になんだかモヤモヤして、私はセフィードにえいっと体当たりした。
「いたっ。なんだよ」
「別にぃ」
「意味わかんねー」
出しちゃえばいいのに。
もしかしたら、奇跡が起こってシャーリーさんと一緒に降光祭の日を過ごせるかもしれないのに。
そう思ったけれど、なぜだかそれを口には出せなかった。




