6話 特訓
「この【ミムメッショヴ】が伝えたいのは……与えられたものが全てじゃない、本質を見失うな、ってこと!」
ルイーナはネタバレしない程度に該当ページを開きながら、持論を展開する。
突飛な見解にあっても、このあたりのモラルは守っている。
「お、おぅ……(ただの爆売れ娯楽本じゃないってこと!?)」
「つまり!あなたがトラウマの払拭に必要なのは、闇雲な努力じゃななかった……意識の外側からのアプローチなのよ!」
兵士育成機関に在籍しているバスティは、幼少期の練習中による事故以来、相手を攻撃する際に身体が縮こまり動けなくなってしまう。
彼もルイーナ同様、重大な欠陥により卒業要件を満たせていないのだ。
「ってことで!朝ごはんの後、バスティの部屋に集合ね、運動着に着替えて置くように!」
パンっ!とひとつ手を叩き、ニッコニコだ。
バスティの意向は聞かず一方的にそう伝えると、2人は食堂へと向かった——
「よい、しょっと」
(ルイーナ、食べてる間もずっと鞄を膝に抱えて……そんなに気に入ったんだな)」
自室に戻り、旅の荷物から取り出したグレンディア指定の運動着に着替えたバスティ。
伸縮性のある黒地に、前面にのみ胴体はもとより腕から足の先まで、白銀の鎧がデザインされている。
襟元には黒刺繍で『SHIKKOKU』と書かれている。
グレンディア生は体育で全員これを着用しており、昨年は組体操の扇の練習に多くの時間を割いた。
白銀色部分に太陽光が反射し、離れて併設するマシルス教室が眩しく、授業が中断された。
コンコンコン「ど〜ぞ♡」ギィ……
「準備はできてるわね……早速、今日のカリキュラムを説明します」
「(カリキュラム?何が始まるんだ?)は、はい……」
不穏な予感とともに、彼女が大雨で予定未達にも落胆しなかった理由はこれか、と察した。
ルイーナはおもむろに“実在した伝説秘技集”【ミムメッショヴ】を開く。
「この技を身に着けなさい……その為の練習をします。」
無数の付箋から、夜を徹して選定した様子が窺える。
(そうか!いつもと違う練習からヒントを掴め、ってことか!)
話半分で捉えていたバスティも、本気で取り組むべきだ、と表情を引き締める。
提示された内容は——
【棒で地面の石を打ち、遠くの目標に当てる技】
ルイーナは裏庭で拾ってきた、腰の高さほどの棒を手渡し、素振り1万回を課す。
ご丁寧に予備として、もう1本用意されている……
(素振り1万回……できなくは……ない、か?)
イメージを膨らませて聞いていたバスティの耳に、追加のお知らせが届けられる。
「それと……これね!」
【両手指の間に小枝を挟み、跳びながら回転し、自分ごと突き刺さる技】
これは“複合的な伝達力学”【ユディリーロ】から選定したものだ。
同じく付箋がいっぱいの本とともに、8本の小枝がルイーナの麻鞄から取り出され、スクワット
1万回が課される。
「(いつ使うのこの技っ!?)あ、あの〜……」
「ここからがいちばん大事なこと!よく聞いて」
バスティの声を意に介さず、続ける。
「何事も、心よ!コ・コ・ロ!」
彼女は、技術習得と併せて“守るべき対象の重要性”に着目した。
自身がどれほど【健気で、可憐で、儚く、愛らしい存在】であるかを刷り込む為の、座学の時間も今後の予定に組み込まれた。
ここは独自の要素なのだろう。右手を胸に置き、ドヤ顔だ!
これはヤバい……バスティは別の提案で回避を試みる。
「そ、それならこれはどうかなぁ……?」
昨夜就寝前に読んだ【キャツトゥバ】を持ち出し、該当ページをめくる。
この書籍も国民に深く刺さり続ける聖典として、個人的に書店で見つけたものだ。
少年達の友情を描く物語だが、とっさに戦闘に応用できる可能性へと捻じ曲げる。
【ルイーナを土台にバスティが天高く舞い目標に頭突きを見舞う技】
【2人同時に目標にWキックする技】
しかし、ルイーナに負荷がかかるとして、あっさりと却下された。
「では、始め!」
パンッ!と合図の手が鳴る。
食事の時間は座学、それ以外の時間は特訓、のタイムスケジュールだ。
必死の形相のバスティをよそに、ルイーナは朝食で出されていたシャナッコジュースを片手に【キャツトゥバ】に心酔している——
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