5話 疑惑
翌朝、木窓を打ちつける音に目を覚ましたバスティ。
(……えっ?ウソでしょ!)
飛び起きて外を確認すると……大雨だ。
(えぇ……楽しみにしてる温泉、行けないなぁ)
バスティは、昨日の夕食時の会話を思い出している。
(「ここ見て!【風呂屋主人の、ロウソクが消えるまで油のお風呂で我慢するパフォーマンス】!午前と午後に一回ずつだって!もちろんどっちも見るわよね!」)
悲しむルイーナの顔を思い浮かべながら、とりあえず顔を洗って目を覚ま……(!お湯が出ない!?)
(……そうか!この雨で【あの人】来れないんだ!来てもあの筒から火を噴けないんだ……)
着替えを済まして時計を見ると、8時を回っている。
ルイーナはもう起きてる頃だろう、と思考していると、部屋の木戸を叩く音が聞こえる。
コンコンコン「ど〜ぞ♡」ギィ……
ルイーナのノックに、
ルイーナちゃんが応え、
ルイーナ様がバスティの居室扉を開ける。
いつもの流れるような自作自演入室だ。
あまりの自然体に、バスティ自身が居場所を間違えたと錯覚することすらままある。
2人の間に、彼のプライバシーだけ存在しないのだ。
「お、おはよう!」
「おはよう……」
ルイーナは身体の前で腕を組みながら、つかつかと入ると、角の椅子に腰掛け足を組む。
「温泉、残念だね」
彼女の様子を窺う様に投げかけると、意外な答えが返ってきた。
「うん……だけど、今はそれどころじゃない。今まで私達がしてきた事は、間違いだったのよ……」
神妙な表情だ。髪はポニーテール。真剣な時のそれだ。
(間違い?……僕達はルイーナの卒業試験の旅をしている。これまでしてきた魔法道具メンテナンスが不充分だったのか?……ルイーナは卒業したら他のマシルス生同様、どこかの国へ魔法使いとして派遣される。キラキラのお城勤めへの憧れは幻想なのか?)
ルイーナは続ける。
「九九はできるわよね?……九の段、言ってみて」
「(九の段?それになんの関係が?)九一が九、九二十八……」
知りたい。素直に実行するバスティ。
これを言い終えた時、何かが壊れてしまいそうな予感を抱く……
「九九……八十……一」「そこ!」
間髪入れず指摘し、さらに続けるルイーナ。
「私もそう教わった。バスティ……九九……八十八、だったのよ!」
「!!!……?」
彼女の麻の肩掛け鞄から、2冊の本が見え隠れしている——
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