4話 宿屋
「……野宿はイヤ〜」
すっかり夕方まで書店で過ごしてしまった為、宿泊施設はどこも観光客でいっぱいだった。
「大丈夫だって〜。今、空いてそうな所聞いてきたよ!」
今しがた断られた宿の店主が、穴場の宿屋を教えてくれたのだ。
描いてくれた手描きの地図を頼りに、街を歩く。
「ここだ!」
「おぉ!思ったよりちゃんとしてるじゃん♡」
大通りを脇に入った立地の不安を払拭する、ごくありふれた小ぶりの建物だ。
しかし、宿泊客の気配は無い……
「安っ!!」
2泊3日で、近隣相場の半額。
目立たない場所だ。客の入りが思わしくなく、どうにか呼び込みたいのだろう。
手続きを済ませ、各部屋へ向かう廊下の窓から、裏庭が見える。
それは自身の目を疑うとともに、極端な価格設定の理由を物語るものだった。
「ん?なにあれ……」
バスティの視界に、畑を耕し【種モミ】を撒いている、大柄な男達の姿が飛び込む。
米は自家栽培なのだろうか。
まるで、今日より明日といった表情だ。
そのすぐ脇では【何かを燃やしながら火を噴く筒を抱える人物】が、なにやら叫んでいる。
目を凝らすと、汚物を消毒しているようだ。
まるで【彼らの血はなに色なのだ?】と思わされる場面だ……
(なんなのここっ!?)
「ル、ルイーナの部屋はあっちだね、どーぞどーぞ……」
「?……うん、また後でね」
(よし、気づいてない!あんなものを見られたら、また宿探しに逆戻りだ……)
バスティは胸を撫で下ろし、ドアノブに手を掛けた。
ギィ……
部屋は少し狭いが、数日間凌ぐには充分か。
「よい、しょ!ふぅ〜〜……(あれは見せちゃいけない……!)」
背中の荷物を隅に置き、決意を新たに夕食へ出かけた。
「この島、気に入ったわ!船に乗れなくてどうなることかと思ったけど、たまには良いこと言うのね〜♪」
マシルス卒業試験中であることを忘れ、17歳の少女に戻っている。
本人は無意識のようだが、前髪を上げてピンで止め、おでこを出しているのは、リラックスしている時だ。
宿の夕食も一般的だが、ここでもシャナッコジュースが味わえたことに感激する2人。
「おやすみなさい、また明日〜」
「うん、おやすみ!」
バスティは自室に戻り恐る恐るシャワーの栓を捻る。
(……お湯が出る!)
これまで、水しか出ない宿がいくつもあったが、このあたりもしっかりしていた。
(さっきの人が沸かしてくれてたりして!)
勝手に想像して、感謝の心が芽生えていた。
「ふぃ〜さっぱりした!」
そのままベッドに倒れ込み、お楽しみの読書の時間だ。
(よし!これにしよ〜)
先ほどの書店で見つけた本の中から、今の気分に合いそうな、さらっと読めそうなものを選び、ページをめくる。
(おぉ……おぉぉ……っ!おぉぉぉぉ〜!)
どこで止めればいいのかわからないほどの没入感。
この本も大当たりだ。
一気に読破し、いつの間にか眠りについた——
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