3話 本屋
「観光客の人達、みんな同じ本持ってない?」
宿屋を探しつつ街を見て回ると、ルイーナはある違和感を覚えた。
ユマージォ島のガイドブックとは明らかに別の、重厚な雰囲気の表紙だ。
表情は一様に、純粋な少年少女そのものだ。
どこか懐かしさを漂わせる一軒の本屋の前に差し掛かると、一角に大勢の人々が群がっている。
客層は子供が比較的多め、親にせがんでいるのだろうか?
いや、大人もこぞって手を伸ばしている。
2人の道中に読書は欠かせなかった。
旅といっても、常に壮大な何かが起こるわけでは無い。馬車で回し読みしている方が多いし、好きな時間だ。
「あそこで売ってるのかな?」
「きっとそうよ、みんな抱えて出てくるわ!」
寄る?寄らない?
……示し合わせる必要も無く、2人は自然にその輪の方へ歩き出していた。
輪の中心に現れたのは、ユマージォ島で数十年もの間爆売れし続けている、超ロングセラーの2冊だ。
どちらも、遥か遠方にあるともないともされる、幻の国を題材にした書籍だそうだ。
【ミムメッショヴ】——
“実在した伝説秘技集”としてまとめただけでなく、多角的な切り口でその成り立ちを深掘りする、との紹介文だ。
表紙には何かの記号だろうか?
”鬼“?“斗”?……を合わせたような一文字が記されている。
なんのことかは解らないが、本文内容は翻訳されており、誰にでも読めるようだ。
【ユディリーロ】——
“複合的な伝達力学”として人間の限界への可能性を探求し、筆者そのものが概念、との紹介文だ。
表紙には直筆サインだろうか?
”NKを円で囲んだもの“が記されている。
こちらもなんのことかはさっぱり解らないか、しっかりと翻訳されていている。
「バスティ、この本屋……”当たり“ね」
「だね!」
即決だった。
直感?経験則?理屈じゃない……読まなきゃ人生の楽しみを半分放棄するのと同義、そんな気がした。
「間違いないわ!この本屋には、他にも掘り出し物があるはず!」
目を輝かせるルイーナに応えるように、バスティはその言葉に続く。
「うん、片っ端からチェックしよう」
時間を忘れて思い思いに店内を見て回るうちに、ルイーナはなにやら不思議な感覚に襲われた。
初めて見た背表紙の列、初めて入った書店の匂い、初めて訪れた島の風景。
なのに、どこか懐かしいような……
親の顔も産まれた場所も覚えていない。
物心ついた時にはマシルスにいて、同じような境遇の者達と育ったのだ。
とりわけ彼女は新生児で保護されており、俗世との接点は、買い出しの為にいつもの街に出る程度。
なのに、ここではまるで自分の幼少期が思い出されるような……
もしも平和な世の中ならば、このように過ごしていたのだろうか。
そんな雰囲気に包まれているようだ。
おそらくバスティも、そのように感じているのだろう——




