2話 シャナッコ屋
「バスティ見て、あれ!」
立て看板には、ユマージォ特産【シャナッコ】ジュースの文字。
堅い実の一部をナタで切り落とし、ストローで飲むようだ。
「チャンスタイム!寄っていこう〜」
すっかり気分を切り替えたルイーナは、ニッコニコのルンルンだ。
マシルスの制服ではしゃぐ見習い魔法使いの姿からは、傍から見れば修学旅行生にしか見えないだろう。
開店直後だからか、店内に客の姿は見られない。
観光客が押し寄せる前に、ゆっくりと当地の楽しみを満喫できそうだ。
バスティは店の前の地面に、ある違和感を抱く。
大きな馬の蹄の跡がくっきりと残っている。
辺りを見回しても、馬はどこにも見当たらない。
なにやら不穏な気配を感じながらも、おそらくこの土地でしかありつけないであろう誘惑が勝った。
この辺りに他のシャナッコ屋は無さそうだ……
ギィ……木製の扉を押し開けると、店主が迎えてくれた。
白髪のお団子頭に、楕円眼鏡をちょこんと鼻に乗せた、前ポケットのエプロンがよく似合う、2メートル強の老婆。
(デカッ!……婆!?いゃ爺?……えっ??)
「シ……シャナッコジュースを一杯いただけたらと……」
バスティは圧倒されながら注文すると、着席を促された。
店内を見回すと、天井の一角が抜けそうな老朽化はしているが、ごく一般的な木造の建物だ。
「ねぇ、ルイーナ……」小声で会話を始める。
「この国はみんな、【あの人のようなおばあさん】……なのかな?」
「バスティ……」深刻な表情で続けるルイーナ。
「失礼でしょ!元・お姉さん、て言いなさい!」
警戒心、ゼロ。
好奇心旺盛なのは旅向きな性格、と言えば聞こえはいいのだが、それが危うさでもある。
シャナッコの実を2つお盆に乗せ、店主が運んでくれた。
「けえ〜〜〜い!!」とテーブルに置く声は、どうぞお召し上がりください、の意味なのだろうか。
実の切り口を上から覗くと、薄くピンクがかった色をしている。
「これ……ホントに飲めるの……?」思わず口走ってしまったバスティは、ハッと老婆を見上げると、発汗し狼狽している。
まさか老婆に飲んでみて、などとは言えない。
せめて、少し観察してから……
「おいしーっ!」
ルイーナはパッとした笑顔で味わっている。
その様子を見たバスティと老婆は、ホッと一安心の表情。
実の収穫時期と個体差によるもので、品質には問題無いそうだ。
人は見かけによらない……でかい老婆とも打ち解け、和やかな時間を過ごした。
それぞれの施設で被災孤児として育てられた2人は、初めて触れる異国の文化にすっかりご満悦だ。




