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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第97話 催眠魔術

ふと気付けばもうじき、日が沈む頃合いだった。

屋敷の掃除も、まだ終わってないところは明日へと持ち越して、ちょっとした夜食の準備でもしておこうかと一階へと降りる。

たぶん、今日は夕食の時間が早かった分、夜にみんなお腹を空かせることだろう。



「あら、ムギさん」



降りた先の玄関ロビーでバッタリと、アニスと出くわした。

アニスはペコリと頭を下げて、



「お屋敷のお掃除ありがとうございます。本来、ご客人にしていただくことじゃないのですが……」


「いえいえ。気にしないで下さい。俺たちもやりたくてやってますので」


「私一人じゃ全然手が回らないので……本当に助かります」



困ったように言って、アニスは微笑んだ。



「ところで、シナモンさんはどちらにいらっしゃいますか? 少しお話がしたくて……」


「シナモンなら確か、浴場の清掃をしていると思いますよ」


「ありがとうございます。行ってみますね」



アニスはそう言って会釈をし、立ち去ろうとする。



「あ、そうだアニスさん」


「はい?」


「さっきまでオウエルと玄関前にいましたよね?」


「……!」



驚いたようにアニスが振り返ってきた。



「……どうして、それを」


「いや、だって……二階の窓から見てましたから」



俺は二階の廊下の窓の拭き掃除をしてたのだ。

外から。

内側は明日拭こうと思う。



「アニスさんをお話していた後、オウエルが外に歩いて行ったみたいなんですけど……どこに行ったかご存知じゃありませんか? まだ帰ってきていないと思うので」


「……ああ、そう、だったんですね」



アニスは玄関の方へと視線を向けると、



「オウエルさんなら……町の冒険者ギルドへと行くと仰っていましたよ。なんでも、用事を思い出したとかで」


「えっ? この時間からっ?」



この屋敷は町外れにある。

ここから冒険者ギルドまで歩いていくとなれば、少なくとも一時間はかかってしまうはずだ。

そろそろ暗くなるというのに……よほどの急用でもあったのか。



「ちょっと俺、オウエルに付き添いに行ってきますね。申し訳ないんですけど、ダボゼかマチメに町へ行くと伝えてもらえませんか?」


「はい、もちろん」


「ありがとうございます」



そうして屋敷の外に出る。

玄関の横にはオウエルが使っていただろうホウキが立て掛けたままになっていた。

いつもなら使った道具を片付けくらいするだろうに、どれだけ急いでいたのやら。

俺は急ぎ足で、オウエルの向かったであろう町の方面の道を進む。

五分ほどで、町を目指してまっすぐに歩いているオウエルの後ろ姿を見つけることができた。



「おーい! オウエル!」



大きめの声をかけるも、しかしオウエルは無反応だった。

人違い……じゃないよな?

辺りには民家もなければ、人通りだってないのだから。



「オウエル?」



俺は走り寄って、オウエルの横へと並んだ。



「……!?」



オウエルはそれでも無反応で、ボンヤリとした目で正面だけを見据えて歩き続けている。

そしてその体に、わずかにオウエルのものではない魔力が宿っていた。

おそらくは、催眠の魔術がかけられている。



「は、なんで……!?」



俺はオウエルの正面に回り込むと、その両肩を掴んで揺する。



「オウエル! 目を醒ませ!」


「…………え」


「オウエル、俺がわかるかっ?」


「…………ムギ、様……?」


「そうだ、ムギだ。じゃあ、自分が誰だかわかるかっ?」


「…………わ、私は、オウエル、です……?」


「そう。君はオウエル・マルノウチャー。俺たちメシウマの頼れる仲間の一人だよ。しっかりと、自分のことをよく思い出してみて」



俺はオウエルの両手を取るとその手のひらをオウエル自身の頬へと当ててやる。

催眠魔術はこれまでも何度か見たことがある。

かけられたその催眠を解くには、何か現実の感触を与えてあげるのが一番なのだ。

じわじわと、オウエルのボンヤリとした瞳に光が戻っていった。



「……ムギ様? あれ、どうしてムギ様が私の前に……?」


「よかった、治ったか……」


「えっ?」



オウエルは辺りを見渡して、自分が屋敷にいないことに気が付くと動揺した表情を見せる。

まあ、そうなって当然だろう。

多くの催眠魔術は、それをかけた対象の意識と無意識を入れ替えて、そうして無意識下に陥った相手の体へと命令を刷り込むもの。

オウエルは自分で歩いていたという記憶はあるだろうが、どうしてそうしたのかもわからずにここまで来ていたハズだ。



「オウエル、よく聞いてくれ」


「は、はい……」


「オウエルに催眠をかけたのは、恐らくはアニスさんだと思う。さっきまで玄関先で喋っていたよな? 何を話していたのか思い出せるか?」


「アニスさん……アニス・スター……」



オウエルは彼女の名を口の中で呟くように言って、それからハッと何かを思い出したように、その目を見開いた。



「ムギ様っ! そうです、アニス・スター!」


「ああ、何を話した?」


「ムギ様、早く屋敷へ! シナモンさんが危ないです!」


「……えっ?」



唐突に出てきたシナモンの名にあぜんとする俺へと、しかし構わずオウエルは言葉を続ける。



「アニスさんの狙いはシナモンさんを手に入れること! 彼女がこうして強硬手段に走った以上、これ以上詳しく話している時間はありませんっ、とにかく今は急いで!」


「おっ、おうっ!?」



オウエルに両手で背中を押されて、俺は走り出す。

何が何だか、まるで理解できていない。

けれど、



──『ところで、シナモンさんはどちらにいらっしゃいますか? 少しお話がしたくて……』


──『シナモンなら確か、浴場の清掃をしていると思いますよ』



ああ、そうだ。

さっき俺は、アニスにシナモンの居場所を尋ねられていた。

アニスがシナモンを探している、という事実は確かなのだ。



「なんだよ、何が狙いだっ!? アニス・スターッ!」



俺は思い切り地面を蹴り出して、全速力で屋敷への道を駆けた。


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