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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第95話 伝説のカリーを作ろう!

それから王都を後にした俺たちは、約十日をかけて、竜骸平野を通ることなくスター子爵家のある平原地帯まで再び帰ってきていた。



「はあ、生き返るぜ。竜骸平野は暑すぎた!」



御者台のダボゼがようやく手うちわを止めて深呼吸をする。

確かに、平原地帯の小さな町の外れにあるその屋敷の辺りは通り抜ける風もどこか涼やかで、首元のボタンを一つ緩めたかのような呼吸の楽さがある。



「──長旅ご苦労様でした、メシウマのみなさん。よくぞ全てのスパイスを集めてくださいました」



屋敷に着くと、すぐに出迎えてくれた車椅子姿の老人、スター子爵はニコニコとした笑顔で俺たちを中へと通してくれる。

その車椅子を押すアニスもホッとした様子で、



「竜骸平野ダンジョンは大変だったでしょう? みなさんお怪我などはありませんでしたか?」



そう俺たちに問いかけつつ、その視線の先にいるのはやはりシナモン。

結局ダンジョンへとも一緒に連れて行ってしまったからな。

アニスにとっては気が気でなかったに違いない。



「みんな元気に帰ってこられましたですよ! わたしも、美味しいカリー鍋が食べられて大満足だったのです!」


「そう……ですか。それならよかった」



アニスは改めて頬を緩め、元気の良いシナモンへと微笑みで応じる。

それから俺へと向き直ると、



「本日こちらにご到着とのことでしたので、お茶菓子の準備などもしてはおりますが……どうなさいますか?」


「そうですね……」



今はすでに午後で、もうしばらくすれば夕食の時間。

お茶をごちそうになるのもいいが……。



「なあなあムギッ」



チョイチョイと俺の服の裾を引っ張ってきたのはウサチ。



「私、早く伝説のカレー食べたいぞぉ」


「わ、わたしもなのですよ、ムギさん」



そしてもう一人、ソワソワとした様子で話すのはシナモンだ。



「伝説のカリー、果たしていったいどれほどの……ジュルリ。考えただけで、カリー充填率が五十%、四十%とドンドン下がっていくのです」


「オイオイ、昼にたらふくカレー喰ったばかりだろ……?」


「カリーはスパイスの作用で胃腸が健康になるので、食べれば食べるほど空腹になるのですよ」


「なんだよその理屈は……」



呆れる俺に、ダボゼも同調するようにやれやれと首を横に振り、



「だいいちよ、喰い過ぎは太るぜ? マグリニカ時代の俺みたいになりてぇのか?」



その言葉に、パキリ、と。

昼に三杯以上カレーをおかわりした組のオウエル、マチメの動きが凍った。



「ふっふっふ、ご安心くださいダボゼさん、そしてみなさん」



不敵に微笑んで、シナモン。



「みなさん知らないようですが……カリーを食べると発汗率が百パーセントなので、摂取カロリーと相殺するのですよ!」


「なっ……そんなことが!?」


「なら、いくら食べても実質〇キロカロリーということか……!?」



オウエルとマチメが、愕然としたようにつぶやいていた。

いやいや、そんなワケがあってたまるか。



「ピスッ! 私はカロリー? とかどうでもいい! いっぱい食べたい!」



その一方で、圧倒的食欲でカレー五杯をおかわりしてなおぴょんぴょんと跳ぶウサチは、俺の背中に乗っては降りてを繰り返してカレーをねだり続けてくる。

そんな騒がしい俺たちの様子に、



「ワッハッハッハ! みなさん元気で素晴らしい!」



スター子爵は機嫌よく膝を叩いて笑って言う。



「この活力もまた、カレーの効果なのでしょうなぁ」


「すみません、お騒がせして……」


「いいえ、私も伝説のカリーは待ち遠しいです。少し夕食の時間には早いですが、さっそく伝説のカリーを作っていただいてもよろしいですかな、ムギさん。せっかくですからみんなで食べましょう」


「いいんですか? お気遣いありがとうございます!」



俺は忙しないウサチを捕まえて小脇に抱え、「ちなみにカリーを食べると脂肪が燃やされてむしろ痩せるのです。ダイエット食なのです」などと豪語し始めたシナモンの頬をムギュッと掴み、その嘘知識の披露会を止めると、厨房へと向かった。




* * *




「──伝説のカリーレシピって、改めて見てみると……普通のカレーの作り方なんだよな」



厨房に立ち、一通りの食材と調理器材の準備はし終わった。

あとはレシピの通りにカレーを作っていくだけだったのだが……。



「ムギ様、牛脂と小麦粉は炒め終わりました。あとはここにバターと各種スパイスを入れて、さらに十分炒めればいいのですよね?」


「ああ。それで良い感じにルウになると思う。よろしく頼むよ、オウエル」


「ムギ殿、タマネギが飴色になったぞ!」


「おお、良い色だな、マチメ。それじゃあ牛肉を加えて炒め始めてくれ」


「ムギさん、ひと口サイズのジャガイモとニンジンをたっぷり油で炒め終わったのですよ!」


「ありがとうシナモン。次は水を加えて煮込み始めようか」


「ムギムギッ、この茶色い砂糖、舐めててもいいかぁ?」


「……三温糖な。これでカルメ焼きを作ってやるからもうちょっと我慢しろ、ウサチ」



なんとも、カレー作りは順調だ。

というよりも、簡単だ。

めずらしく俺は調味料の分量を気にするのと肉を切ったくらいで、その後は自分の手を動かしてはいない……いやまあ、今はカルメ焼きを作ってはいるけど。

銅のおたまの上で溶けた三温糖に重曹を加え、お箸でグルグルグル。三温糖が重曹と混ざり冷えながらモクモクモクと膨らんで固まって、ハイ完成。



「おおおっ! カルメ焼き、面白い……!」


「熱いから気を付けてな」


「うんっ、いただきますっ!」



カルメ焼きに目を輝かせてかじりつくウサチの頭を撫でつつ、伝説のカレー作りのレシピを再度確認する。



……何度見てもコレ、一般家庭料理のカレーの作り方って感じなんだよな。



ちなみにレシピには作業手順以外にも一工夫の仕方などが載っていて、

『作業はみんなで分担して時短すべし』

『野菜は煮込む前にしっかりと炒めて油でコーティングすることで素材の甘みを凝縮すべし』

『タマネギは飴色になるまで炒めることで旨味を引き出すべし』

『砂糖は三温糖を使い香ばしさを際立たせるべし』

などと書いてある。

なんというか、ご家庭のレシピメモって感じだ。



「まあ、その分確実に美味しくできてると思うけど」



オウエルのルウとマチメのタマネギと牛肉を合わせて炒めたものを、シナモンが野菜を煮ている大鍋へと投入して、仕上げの香りにカリーノキノリーフの葉をたっぷり十枚入れると、それからはひたすらグツグツと時間をかけて煮込んでいく。

鍋底が焦げ付かないように絶えず鍋の中身をかき回すたび、フワリ。

ハバネリパウダーのツンとしたトウガラシっぽい香りと、それとは正反対のカリーノキノリーフのマイルドな柑橘系の香りが混じり合い、複雑で芳醇な空気が厨房に漂い始める。



──グゥゥゥと。



大きな腹の虫が合唱を奏でる。

まだ夕方に差し掛かった頃だというのに、もうみんな腹ペコな様子だ。

もちろん、俺も。



「やっぱりカレーは魔性の食べ物ですね」



ゴクリと喉を鳴らしながら、オウエルが言う。



「お昼にも食べたのに、こんなにも魅力的に映るなんて。もしや、これが伝説のカレーの本領なのでしょうか……?」


「カレーの本領発揮ってのは同感だが……」



伝説の、となるとどうだろう?

どちらかというとコレは……みんなで一緒に分担して作ったからこその結果な気もするが。

隠し味は『みんなで協力し合って作った楽しさ』みたいなさ。



「ピスッ! ムギムギムギィ~! もう我慢できないぞぉっ!」


「ジュルッ……ムギ殿、私ももう、理性の限界が……!」


「わたしも……もう大鍋にダイヴしたい気分ですぅ!」



どうやらみんな、食欲は臨界点に達しているらしい。

もうちょっと煮込んだ方が美味しい気もするんだが……いや、まあそれは明日の楽しみに取っておくとしよう。



「じゃあみんな、皿にご飯の盛り付けを頼むよ」



俺の言葉に、みんなパァッと表情を輝かせ、平皿にせっせとご飯を盛り付け始めるのだった。



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