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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第92話 対抗心の理由

青髪の剣士、ジョウ・ゴウ。

その男は元から吊り上がったその目を、さらに刃物の切っ先もかくや、というほどに鋭くして俺を見る。



「こんなところで、いったいどうして油を売っているんだ……ムギ・ウォークマン」


「別に油を売ってるわけじゃ……手に入れたモンスター食材で昼飯を作ってただけだ」


「俺たちはもうすでに四階層目の階段を見つけたところだぞっ? まさかそれで後になって『手を抜いていた』などと言い訳する気じゃ──」


「──ウニャア! やあやあメシウマのみんな! この前ぶりだねっ!?」



喋りかけのジョウの言葉を遮るように勢いよくその背中を押し、そうして俺たちのいる一角に足を踏み入れてくるのは、ジョウの仲間のネコ耳獣人種のニャコ。

すると、その後ろからゾクゾクと、



「すごい匂いだね。一個下の階層から上がってきた瞬間に匂ってたよ」


「おかげさまでお腹が鳴っちゃったわ」



聖職者のプレイボが感心した様子で鍋の中を覗き込みにやってきて、魔術師のツンスもまた胃の辺りをさすりながら入ってくる。



「腹が減ってるのか? じゃあ、おまえたちも喰うか?」


「ニャッ! いいのぉっ!? それじゃあお言葉に甘えて!」


「俺もいただこうかな。神は『カレーは喰える時に喰っとけ』と聖典で仰ってる」


「ウソつけダメ神父。あ、私もちょうだい。肉マシマシで」



やはりこの前同様、ジョウ以外の面々に俺に対する対抗心のようなものは見られない。

少しホッとする。

三人にカレー鍋を配り終えると、俺は改めてジョウへと向き直る。



「で、ジョウは……やっぱり喰わないのか?」


「喰わん……以前も言っただろう」



渋々と言った様子でジョウは壁際に腰をかける。



「俺はこの世全てのモンスター根絶のために冒険者となった。モンスターは素材としても扱わなければ、ましてや食材にもしない。俺にとってはずっと、ただ倒すべき悪に過ぎん」


「どうしてそこまでモンスターを敵視する?」


「俺の人生を壊したのがモンスターだからだ」



ジョウは淡々と口にする。



「子どもの頃、モンスターの群団が俺の済んでいた町を襲撃しにきてな、俺の両親や街の人々を殺し回った。唐突に、理不尽に、その日から俺の人生は全てが変わったんだよ」


「……そうか」


「目を伏せるな。同情なぞ要らん」



ジョウは気に入らなそうに鼻を鳴らす。



「問題は、そんな理不尽がいまだにこの世にありふれていることの方だ。俺が一番許せないのは、そのことだ」


「だからモンスターの根絶を……ってことか」


「そうだ。おまえはどう考えているんだ? ムギ・ウォークマン。おまえは、それが美味いモンスターであれば、他の人間にいくら被害が及ぼうとも繁栄してほしいと願うのか?」


「いや、それはないよ」



さすがにそこまで食欲に理性を突っ込んじゃいない。

人々の幸せは大事だし、その障害となるモンスターは討伐すべきだとも思っている。



「だけど、相手がどんなに人間にとって凶悪なモンスターだろうが、美味しく喰っちゃいけないなんてことはないと思ってる」


「なに?」


「だってさ、そうだろ。討伐が終わったら、そこにあるのはただの肉だ。放置して腐らせたら、それは正しいことなのか?」


「……」


「別に、それを正しくないと言うつもりはないさ。だけど、俺はそれをもったいないと思う」


「……そうか」



ジョウは俺の言葉に反発するわけでもなく、ただ静かにそう応えた。



「……ところでさ、ジョウたちは下の階層から戻ってきたんだよな? 四階層にはどうして進まなかった?」


「三階層の奥にいたドラゴンと交戦した。それは倒したが、ツンスの魔力回復用のポーションが少なくなったので買い足しに戻る」



ジョウは隠し立てたりもせずにそう教えてくれると、



「今なら三階層でおまえたちメシウマを阻むモンスターもそう多くはないだろう。俺たちを出し抜くチャンスだぞ?」


「いや、出し抜くつもりはないし」


「どうして」


「俺たちの目的はさ、ダンジョンに自生してるカリーノキノリーフってスパイスと、あとはゴーレム文明の遺跡だけなんだ。ダンジョン攻略それ自体じゃない」



俺の答えに、ジョウは深く大きなため息を吐くと立ち上がった。



「張り合いのないヤツだ」


「悪かったな」



後ろでも続々と立ち上がる音。

どうやらニャコたちもカレー鍋をササッと食べ終えてしまったらしい。



「もう行くのか? にしたって早喰いだな……ちゃんとよく噛んで食べたか?」


「お母さんみたいだニャ、ムギさん」


「ごちそうさま。美味しかったわよ」



ニャコとツンスは二人とも満足そうな笑みを浮かべていた。

プレイボも同様のようで、



「本当に、モンスター肉とは思えないほどの味だった。神もこう仰っている。『むしろ、若干クセが残ってる感じが好きだったかも』と」


「適当過ぎないか? その神のお言葉」


「アハハハ。あと神はもう一つこうも仰っている。『美味いカレーには美味いスパイスで報いるべし』と」



プレイボはそう言うと、背負っていたリュックから中くらいのサイズの瓶を取り出した。

そこに満たされていたのは黄緑色をした、手のひらサイズの大きな葉っぱ。



「それ……カリーノキノリーフじゃないかっ!?」


「そうそう。このダンジョンの三階層目で生えているのを見つけたんだ。実は俺も、このカリーノキノリーフで包み焼きにする肉が好きでね。ダンジョンに潜った時は採るようにしてるんだ」



プレイボはキュポンと瓶の蓋を開けると、その中身の半分……葉の枚数にして二十枚近くを分けてくれる。



「いいのか……? 市場にはなかなか流れないレアものだぞ? それをこんなにたくさん……」


「いいんだよ。カレーをごちそうになったし、この前の討伐でも助かった。それに俺たちの目標はダンジョン攻略だから、結局また戻ってくるし」


「そっか……そういうことなら、ありがたく」



プレイボからカリーノキノリーフを受け取ることにする。

まさか、自生場所を見つける前に手に入れられるとはな。

情けは人の為ならずとはいうが、カレーのお裾分けもまた同じなようだ。

カリーノキノリーフも確保して、いよいよ伝説のカリーレシピに書かれていたスパイスは全て調達できたことになる。



「オイ、負傷冒険者ども。俺たちは今から地上へと向かうが、おまえたちはまだここに残るのか?」


「えっ!? お、俺たちも付いて行っていいんですかっ!?」


「勝手にすればいい。だが、追いついてくるのを待つつもりはないぞ」


「い、今すぐ支度しますッ!」



カレー鍋にがっついていた他の冒険者たちは、慌てたように器の残りの中身を胃袋に流し込んで荷物を背負い武器を掴むと、「鍋ごちそうさまでしたっ!」「マジ美味かったっす!」「支払いは現金でいいっすかっ!?」と次々に俺に硬貨を押し付けてくる。

食堂じゃないんだから、別に代価とか要らないんだけど。

まあ、気持ちということで、コレもまたありがたく受け取らせてもらおう。



「じゃあメシウマのみんな、またどこかで会おうにゃあっ!」



元気よく手を振るニャコを先頭に、ツンス、他の負傷した冒険者たち、そしてプレイボと列を形成して俺たちの元を後にしていく。

最後にジョウも立ち去ろうとして、



「あっ、そうだ! ジョウ、最後にもう一つ聞きたいんだけど」



そこで思い出した。

ずっと聞こうと思っていたことがあったのを。



「俺、昔にジョウとどこかで会ってたか?」


「……」



ジョウは視線だけで振り返ってくると、



「俺の両親を殺したモンスターの群団……町の誰も手も足も出なかったソイツらを、たった一人で蹂躙してたのがおまえだよ、ムギ・ウォークマン」


「……!」


「あんな理不尽な苦難や救いは他になかった。 <心底楽しそうにエモノを狩り尽くす>おまえのあの姿を、俺は今でも鮮明に憶えている」


「……そうだったのか、すまない。けど、その時の俺は……」


「今さらどうだっていいさ。俺はただ、俺の記憶の中のおまえを超えるまでだ。俺はもう二度と、俺の前に立ちふさがる理不尽を許すつもりはないからな」



ジョウはそう言い残すと、他の者たちを追って歩いて行った。




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