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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第93話 ゴーレム文明を滅亡させた者

「──さて、それじゃあムギ殿、みんな! カリーノキノリーフも手に入ったことだし、これからは改めてゴーレム文明の遺跡探しをしようじゃないか!」



喝を入れるようなマチメの声が俺たちのいる一角へと響く。

カレー鍋を終えて大鍋や食器などを片付け終わり、いよいよダンジョン探索の再開、というところだった。



「カリー充填率も十分なので、いくらでも歩けるのですよぉ!」


「ピスッ! 私も余裕……!」


「まあ、ダンジョンに入ってから、探索よりもお料理を作って食べる時間の方が長かったくらいですしね」



シナモンやウサチ、オウエルらも元気いっぱいといった様子でそれに答えていた。



「ああ、そうだな。遺跡が待ってるからな!」


「うん! その意気だぞムギ殿、どこまでも歩いてやろうではないか!」



俺もその調子に乗っかると、マチメはホッとするように表情を崩す。

オウエルもウサチもシナモンも、みんな柔らかに微笑んでくれている。



……ああ、まったく俺ときたら。最年長だっていうのに、みんなに気遣われてしまっていたらしい。



先ほどのジョウとのやり取りで昔のことを思い出し、少し気分が落ち込んでしまっていたのも確かだった。

気持ちを切り替えなきゃな。



「クミンさん、次はどこを探してみようか」



さっそく、地図を覗き込んでいたクミンの元へと歩み寄る。



「いちおうここも二階層目の中ではかなり真西な方だと思う」


「そうですね……」


「もうちょっとこの辺りを探してみるか、あるいは下の階層に行ってみるかって感じになると思うんだけど」


「……なんか、怪しいんですよねぇ」


「怪しい?」


「ええ。ここのダンジョンの構造なんですけど……」



クミンはそう言うや、地図の上に薄い二枚の紙を重ねて俺に見せてくる。



「こちらの一枚が、先ほど一階層目を探索した時に行き止まりだった西側の通路の、だいたいの位置に点を打ったものです」


「えっ……通路を記録してたのかっ?」


「あくまで歩幅と方角の感覚だけなので、厳密にではないんですけど、参考程度にはなるかと思って」



クミンは照れたように言いつつ、二枚目の薄紙を取り出して、一枚目の紙の上に重ねた。



「こちらが二階層目……今この階層で行き止まりだったところに打った点です。これ、一枚目と二枚目を透かしてみると、何か気づきませんか?」


「……ん~?」



一階層目の点と二階層目の点の両方がハッキリと見えるが、それが何だというのだろう?

別に行き止まりの位置が重なったりしているわけではなさそうだ。

なんて俺が頭を悩ませている隣から、



「点を繫げると、綺麗な弧になりそうですね」



そう口を挟んできたのはオウエルだった。



「弧?」


「円の一部の曲がった線のことです。ホラ、この一番端の点から、一つ一つの点を通って線を引くイメージをしてみてください」


「……あ、本当だ」



オウエルの言った通り、点と点を繋ぐと変にジグザグになったりはせず、滑らかな曲線になった。



「その通りなんです。これが僕には、何となくなんですけど、ナニカを避けてダンジョンの行き止まりが作られているように思えてしまって」


「ナニカって?」


「たとえば……丸い外周を持つ大きな建築物、とか」


「! 神殿かっ!?」



俺の言葉に、クミンは無言で頷くと、



「ただ、あり得るんですかね? 遺跡がダンジョンの発生に巻き込まれずに、元の形を維持したままで地面の下に存在し続けているなんてこと」


「普通の建物ならあり得ないだろうけど……」



でも、ゴーレム文明の技術力は普通じゃない。

だとすれば、あり得ないとは言い切れない。



「つまりクミンの考えだと、今まさに俺たちがいるこの場所、その行き止まりの壁の向こうに遺跡があるかもしれないってことなんだよな?」


「可能性としては、ですが」


「よし、わかった」



俺は拳に魔力を込める。



「ブチ破るか、この壁」


「えっっっ! いやいやいや、ちょっと待ってくださいムギさん! そんなことをして、もし神殿に傷でも付いたら──」



クミンが必死の形相で俺のことを止めようとして、しかしちょうどその時。



「──へっくちょい、ちくしょい、火竜砲ぅめぃっ!」



シナモンのくしゃみ。

それと同時にキィィィンッと、シナモンの口元に集める謎のエネルギー。

それは赤い光線となって行き止まりの壁を粉々に破壊し尽くしてしまっていた。



「うぅ……ずるっ。申し訳ないのですぅ。鍋で一気にカリーを摂り過ぎて、カリーエネルギーが漏れてしまったようなのですぅ」


「えっ、えぇぇぇっ!? なっ、なんですか今の!? 光線!? 壁がっ! というか遺跡がぁっ!」


「ま、まあまあ落ち着いて、クミンさん……」


「むっ、無理ですっ!」



うん、ですよね。

まさか突然火竜砲が出るとは俺も思ってもみなかったので、どうフォローすればいいやらだ。

だが、当のシナモン本人は大して気にした様子もなく、



「ムギさんムギさんっ! 来てください!」


「何かあったか?」


「はい! 行き止まりの先に、とても広い空間があったのですよぉっ!?」



俺はオウエル、そしてクミンと顔を見合わせる。

どうやらビンゴだったらしい。

俺たちは少し早足気味で行き止まりだったその場所を踏み越える。

すると目の前に広がっていたのは、暗闇。



「光源がない……ってことは、ダンジョンの外ってことだ」



その俺の声は広く響き渡っていく。

どうやら、相当広い空間が広がっているらしい。

行き止まりの先はは天井との距離も、地面との距離もわからない洞穴だった。



「……」



とりあえず、地面に落ちていた石のカケラをポイッと投げてみる。

するとすぐにカランという音。

どうやら、地面との距離は数メートルというところらしかった。



「ちょっと俺、降りてみるよ」


「……ムギ様、危険ではっ?」


「大丈夫。何か起こっても何とかするさ」



俺は行き止まりの先の暗闇へとひと息に飛び込んだ。

先ほど石を投げた先へと向けて。

次の瞬間だった。



──カチッ!



その音と共に、一気に周辺が明るくなった。

灯りが点いたのだ。



「なっ……!?」



驚きのあまり着地がおろそかになるところだったが、それを何とかグッと堪えて、光の差してくる天井を見る。

そこで光を発しているのは魔力灯。



「……間違いない。ここはゴーレム文明の遺跡だ」



シナモンを見つけた遺跡でもこの仕組みは存在していた。

人が来たことを感知して自動で灯りが点く……そんな技術を数百年以上も前から備えている文明など他にありはしない。



「ムギさん! ありがとうございます、おそらくここが僕が探していた神殿ですっ!」



後ろから聞こえるクミンの声に、俺は辺りを見渡してみる。



──そこはまるで、王都にある観劇ホールのようだった。



おそらくはダンジョンの一階層の半ばほどの高さに構えられた天井に、地面は今俺たちがいる場所よりも数メートル下にある。

そして縦にも横にも広大なスペースに敷き詰められていたのは、恐らくは石材でできた椅子。それが階段状にいくつも連なっていて、椅子の向かう先にあるのは祭壇のような舞台。

今にも舞台袖から演者たちが飛び出してきて、何かの神話を題材にした演目を披露しそうな、そんな荘厳とした雰囲気が漂っている。



「なんか、すごいっ……」


「神殿、というより教会にも見えるな」



ウサチ、マチメがそれぞれオウエルとクミンを連れて降りてくる。

オウエルも辺りを見渡して、その目を知的興奮にキラキラと輝かせている、



「すごいですね、ムギ様っ。こんな場所が、地下に埋もれていたなんて……」


「だな。しかしどうしたってこんな地下に……」



俺が首を傾げていると、



「ゴーレム文明の重要施設は、そのほとんどが地下に造られているようなんです」



そう答えてくれたのはクミン。



「竜骸平野は数百年前まではかなり肥沃な大地で、山から流れてくる川のおかげもあり、水源にも恵まれた緑豊かな土地だったんです。でも、そのせいで大型のモンスター……ドラゴンなどもよく集まってきたんだとか」


「じゃあもしかして、そのドラゴンから身を守るために地下に施設を?」


「はい。研究者の間ではそうだと考えられています」


「そうだったのか……ん? シナモン?」



そういえば、シナモンの声を聞いていない。

慌てて辺りを見渡した。



「シナモンッ!?」


「──あっ、はいっ。ここにいるのですよっ」



その声が聞こえてきたのは、舞台の方からだった。

シナモンは神殿の舞台の後ろの壁をジッと見つめていた……いや、違う。

その壁に描かれている奇怪な絵を見ているのだ。



「そっ、それはっ!」



クミンが弾かれたように反応すると、そのままシナモンの元へと駆けていくので、俺たちもまた追った。



「その絵はっ! ああっ! 間違いないですっ!」



興奮したように叫ぶクミン。



「それは、<天嘗あまなめ>です!」


「天嘗めって、確か……」


「ご存じのはずです! ムギさんたちメシウマがかつて撃退したという <町呑(まちの)み>、あのモンスターに比肩する、王国が指定している三体の討伐難易度不可能級モンスターの内の一体ですよっ! その中でも天嘗めは、誰もその姿を直接見たことはなく、伝承にだけ残っている個体だったはずです!」



俺たちはまじまじとその絵を眺めた。

それは、まるで逆さにしたクラゲ……いや、イソギンチャクと言った方が伝わりやすいだろう、その触手が地面から天に向かって無数に伸びていて、空を飛ぶドラゴンを捕らえている光景が描かれているものだった。



「これはきっと、天嘗めから逃れ、この神殿へと避難した人々が残した最期の絵に違いありません!」


「最期って、それじゃあ……」


「はい。墜ちてきた一万を超す竜たちの衝突により、この土地は死に、そしてゴーレム文明も滅びたのです。これまでその竜の墜落については天嘗めの仕業だろうと言われていましたが、仮説に過ぎませんでした……しかし、これはその証拠となる貴重な資料ですよ……!」


「……そうか」



チラリ、と。

俺はシナモンの様子をうかがった。

もし辛そうだったら、すぐにでもシナモンを連れてここを後にしようと思って。

しかし、



「……」



シナモンはその絵をジッと見つめたまま、身じろぎ一つしていなかった。

その表情はあまりにも無感情で、ソコには悲しみも苦しみも見いだせない。



「天嘗め──」



ボソリ、と。

シナモンは注意していなければ誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。



「──コレが、敵」

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