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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第91話 カレー鍋~魔除け効果もあるよ~

ダンジョン第二階層目、俺たちは行き止まりで比較的広い小部屋になっている場所を見つけるや、さっそくそこで調理器材を広げ始めた。



「ほ……本当に料理をし始める気だ……!?」



テキパキと作業を進める俺たちへと、クミンが驚きに目を見開いている。

同行者にこんな反応をされるのも懐かしい。



「クミンは腰を休めていてくれ。料理は俺たちの方でやるからさ」


「は、はい……」



俺はさっそく清潔にしたバケツに入れて運んでいたトラ型モンスターとシカ型モンスターからとれた艶やかな赤身肉を横に置く。



「ムギムギッ! 今日は何を作るんだっ? ステーキっ?」


「いや……トラの肉もシカの肉も臭みが強そうだから、鍋にしようと思う」


「ピスッ! 鍋も好きだぞぉっ!」


「じゃあウサチ、鍋にたっぷり水を入れておいて。そっちで先に野菜を煮ておこう」



俺はその間に、肉をスライスしてひと口サイズに薄く切り分ける。

オウエルにはその間に持参したハクサイ・ネギ・ニンジンなどの野菜を切っておいてもらい、マチメには火の準備を、そしてシナモンに依頼しておくのはさらに別作業。



「ふっふっふ……ムギさんっ! 完ぺきな調合ができあがりましたのですよっ!」



一人で荷物を広げて、皿の上にパウダースパイスを積み上げていたシナモンがほくそ笑む。



「わたし特製調合スパイス、その名も<お肉の臭みなんてカリーの強い香りで一撃必殺・ガラムマサラ>なのですぅ!」


「そのまんまの名前だな」


「ガラムマサラとは本来、クミン・コリアンダー・ターメリックといった定番のパウダースパイスの割合を高めに調合することの多い複合調味料ではありますが……今回はあえてそのバランスを崩し、クローブにタイムといった強い香りが特徴のスパイスを多くブレンドしてみましたのです! これによって、お肉特有の臭みをかき消すほどの強い香りを放つカリーができあがること間違いなしでしょうっ!」



饒舌に語ったシナモンがズイッとガラムマサラの載った皿を突き出してくるので、手のひらで扇いでその香りを嗅いでみる。

確かに強く濃厚なスパイスの風味を感じられた。

確かに、これなら肉の臭みもかき消してくれそうだ。



「じゃあさっそく、鍋で肉と一緒に炒めるか」


「はいっ!」



マチメが起こしてくれた火の上にはすでに大鍋が置かれていて、そこではオウエルが切ってくれていた野菜が水と出汁、砂糖、そして酒でグツグツと煮込まれている。

俺はその隣にフライパンを置いてサッと油を敷くと、さっそく薄切りの肉を適当にバラバラと載せていく。

ジュワッ! と。油が爆ぜる音。

それと共に、肉本来の独特で強烈なニオイが立ち込めていく。

にじみ出る大量の油をふき取りつつ、ここぞというタイミングで、



「スパイス投入!」



シナモンの掛け声と共に入れられる特製ガラムマサラ。

それがフライパンに入るやいなや、周囲へと立ち込めるのは圧倒的なカレーの香りだった。

肉のクセの強いニオイに、カレーの香りが完全に勝り切る。



「さらにそこへと、オウエルが切ってくれていたショウガも投入するぞ!」


「ああ~、もうそれは抜群なのですよぉ! ショウガなんてあったらとりあえず入れておけば、香りも引き立つしキリッとした辛味も際立つし、体の内側からポッカポカにもなれるのですから最高の薬味なのですぅっ!」



塩を適量加えてさらに炒め、そして完全に肉に火が通り切ったらカレーの肉炒めの完成だ。

油にはたっぷりのガラムマサラが溶け込んでいて、もはやコレを白米の上に載せて食べるだけで十分に美味そうですらある。

だが、今日のメインは鍋。



「このフライパンの中身を鍋に投入するぞ」



こってりカレー風味の肉と油がサッパリ出汁味の大鍋の具材と交わることで、サッパリとしたカレー鍋に仕上がるのだ。

そしてまたしばらく煮込んで……完成。



「ダンジョン・カレー鍋の完成だ! さっそく食べるとするか!」


「はいっ! いただきましょうっ!」



オウエルを始め、みんながさっそうと自分の器を持っては鍋の前に並んでくるので、一人一人の器に盛りつけて、それからもう一つ。

座って休んでいるクミンの器にも盛り付けた。



「ほら、クミンさんもどうだ?」


「えっ……いえ! そんな、申し訳ないです……僕には携帯食がありますし、それに勝手に転んでケガをして迷惑をかけたあげく料理までごちそうになるなんて……」


「そんなご馳走なんて大したもんじゃないさ。ダンジョンで得られた食材で作った即席料理だよ。遠慮することない」


「……それじゃあ、ご厚意に甘えまして」



クミンは箸と器を受け取ると、その中身の黄色いスープとたっぷりと入った具材に目をパチクリとさせながら、恐る恐る器の端に口をつけ、ズズッと啜る。



「……ッ! これは……!」



カミナリが体に奔ったかのような、一瞬の硬直。

その後クミンは箸を構えると、まずは浮いていたネギを掴み、それを熱そうに頬張り始める。お次はハクサイ。これは熱すぎたのか、様子を見るように前歯でハフッと嚙みついた。

ジュワッとにじみ出る旨味汁が器に落ち、それを『おっと、もったいない』とでも言うかのように、慌ただしくまた器へと口をつける。


ズズズッ。



「……フゥ」



さっそく額に滲み出してきた汗を長袖でグイッと拭うクミン。

そして次にその箸が掴んだのはメインのモンスター肉だった。

一瞬の躊躇はあったみたいだが、クミンはその薄肉を一気に口へと詰め込み、咀嚼。

その目が驚きに見開いた。



「ああ、美味っ……」


「おお、口に合ったようでよかった」


「えっ、あぁっ!?」



どうやら俺がまだ隣にいたことを忘れるくらい鍋に夢中になってくれていたらしい。その肩を、どこかへと飛ばして失くしてしまうんじゃないか、というくらいに大きく跳ねさせて驚いていた。



「たっ、大変失礼しましたっ!」


「謝ることないだろ。美味しく喰ってくれてただけなんだから」


「ああはい、いや本当に……美味しいですね」



しみじみとしたように言うクミン。



「鼻に抜ける香りはスパイシーなのに特別辛いわけではなく、むしろ野菜と肉の油の甘みが口いっぱいに広がって……とてもホッとする味です。カレーって、もっと辛いイメージがあったものですが」


「入れるスパイスによるな。今回はレッドペッパーは加えていないから。あれ、喉渇くし」



ダンジョン内で貴重な水をゴクゴクと飲みたくなるような味付けにはできん。

ただしそんな水も鍋をする際は躊躇せずに使う。

だって鍋のメインって具材から出たエキスの染み込んだスープだろ?

アレをゴクリとやるのが至福の瞬間なんだから、たっぷりと水を使わなきゃ損というものだ。



「それにモンスター肉も初めて食べましたが、まさかこんなに美味しいとはっ」


「ああ。今回のは当たりだったな」


「今回の……あの、かなり調理も手慣れていらっしゃるご様子でしたが、もしかして普段からモンスター料理を?」


「まあな。俺たち、料理ギルドだからさ」


「……えぇっ!? 冒険者ギルドではなかったのですかっ!?」


「え?」



あれ?

そういえば、クミンへとはちゃんと名乗ってはいなかったんだったっけ?



「俺たちは料理ギルド、メシウマだ。普段は討伐クッキングって言って、討伐依頼のあったモンスターを狩って、その素材を使って料理を振る舞ったりしてる」


「メ、メシウマ……!? それって確か、あの討伐難易度不可能級のモンスターも撃退したとかいう……!?」


「いや、撃退はしてないんだけどね」



単純に、一度吞み込まれてから生還しただけだ。

なんて話し込んでいると、



「──おい、こっちだ! こっちから臭ってくるぞ!」


「──カレーがあるのはこっちだ! こっちに行けば助かる!」



ダンジョンの通路の方からそう叫ぶ男たちの声が聞こえてくる。

はて、なんだろう?

しばらく待っていると、俺たちがやってきたのと同じ道から、ボロボロになった冒険者の男たち数名が、荒い呼吸と共に駆け込んできた。



「オイオイ、どうした? 大丈夫か? 血出てるぞ?」


「た……助かった……もうオレたち、ここで全滅かと……」


「はぁ?」



なんのこっちゃと思っていると、



「──オイみんな、こっちだ! こっちからカレーの匂いがする!」


「──よかった、安全地帯だわ!」



さらに別の冒険者と思しき男女がまた現れて、俺たちの前に転がるようにして倒れ込んでくる。



「次から次へと来るなぁ……ホントに何なの?」


「……お、俺たち、この階層まできたのはいいものの、トラやらシカやらのモンスターに全然敵わなくって」



俺の問いへと、一番最初に駆け込んできた屈強な男の冒険者が、肩の力を抜くような大きなため息交じりに話し始める。



「それでずっと逃げてたんですけど、その内フッと、カレーの匂いがすることに気が付いて」


「ああ。俺たちが作ってたカレーの匂い、もしかしてこの階層中に蔓延してたのか」


「はい……。それで、モンスターたちがそれを嗅いだらウッとしたように顔をしかめるのがわかったんですよ。だからもしかして……このカレーの匂いには、モンスターを退ける力があるんじゃないかと思って」



その男の言葉に、他の冒険者たちも一様に頷いて、



「だから走ってきたんです。カレーの匂いの強い方向へ!」


「そしたら案の定、モンスターたちが追ってこなくなったんです!」


「退魔のカレーなんですよ、それっ!」



マジか。

どうやら、知らずの内に多くの冒険者の命を救っていたらしいな、ウチのカレーは。



「わたし特製ガラムマサラのおかげなのかもしれないのですよっ!」



エヘンと胸を張るシナモン。

他の冒険者たちは「おおっ」とか言ってありがたがっているが……どうだろう?

ガラムマサラのおかげというよりも、カレー鍋にトラとシカのモンスター肉が入ってるせいじゃないか?



「えっと……じゃあみんな、どうする? カレー鍋だけど、食べる?」



俺がそう聞くと、



「「「いただきますっ!」」」



冒険者たちによる威勢のいい返事が響き渡った。

たっぷり作ってあるし、なんならまだまだ肉も余ってるから追加で作れもする。

冒険者たちはそれぞれ自分の器を持っているようだたので、俺がそれによそって振る舞ってやっていると、



「──いったいなんだ、この有様は」



続いて通路から姿を現したのは、またもやボロボロな姿の冒険者──ではなく、この過酷なダンジョンにおいて、しかしいまだ涼しげな表情を保っている青髪の剣士。

ヘラクレス所属冒険者のジョウ・ゴウとその仲間たちだった。



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