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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第90話 ダンジョン探索~ゴーレム文明の遺跡を探して~

おそらくは百段ほどの長い階段を下り切った先、広がっていたのは左右に広がる大きな通路だった。

天井は高く、五メートルほど。

通路や壁は、そこが地面の中だとは思えないほどにスッキリと整備されている。

質感は地面そのもので、その中に時折、竜の骨や岩などが混じって露出していた。

きっとこの迷宮が構築される際に退けられたものだろう。

俺の後に続いて、オウエルたちもまたダンジョンの第一階層目へと足を踏み入れた。



「……! 明るいですね……!?」



それがオウエルの第一声だった。

まあ、そうもなるか。



「ダンジョンはさ、どこでもそうなんだけど何故かちゃんと天井か壁に光源があるんだよ。たぶんそこでモンスターが活動しているからなんだろうけど……不思議だよな」



光源となっているのはダンジョンにのみ存在する鉱石であり、それ自体を採掘することも可能なのだが、天井や壁から引き抜くやすぐにその光を失ってしまうため、残念ながら市場価値はゼロ。ランプにすることもできない。



「さて、クミンさん。どちらに進みますか?」



ひとしきりダンジョン初挑戦者たちが驚き切ったのを見て、さっそく行き先を尋ねる。

クミンはハッとわれに返った様子で懐から地図を取り出すと、



「え、えぇと……僕たちの調査では、あの地上に空いていた大穴から西へと百メートルの範囲に、ゴーレム文明で神殿のような役割を果たしていた施設があるそうなのです」


「神殿?」


「ええはい。神殿が存在する場所には基本的に町があるので、神殿の遺跡さえ確認できれば、ここに町があったという確信が得られる、ということです」


「おお……なるほど。面白い絞り込み方だな」



どことなく狩りにも似ている。

まだ新しい糞が落ちていたから、この辺りにエモノが潜んでいるだろう……的な。



「よし。じゃあ、ひとまずはその神殿に向かって歩いてみるか」



階段の後ろが南方面なので、左が西で右が東となる。

俺が先頭となり、通路を左方向へと進んでいく。



「何というか……非常に分岐が多いですね?」


「まあ、迷宮だからな」



分岐に差し掛かるたび、注意を払ってそっと角の先を覗き込む。

だが、やはりと言えばやはり、モンスターの気配はない。

先に入った冒険者たちがもう全部狩って上に引き上げたのだろう。

俺たちはクミンの示した西側へと進み、行き止まりに行きつくやその区間のくまなく探して回ったが、しかし、まったく痕跡は見当たらない。



「もしかして、もっと深くに紛れ込んでるかもな……」


「え、ですけど、ゴーレム文明が興ったのは数百年前ですし……いくら竜の衝突があったとはいえ、それほどまで地面の奥深くに埋もれるはずがないのですが」


「いや、ダンジョンの発生に巻き込まれるとそうとも限らないんだよ」



何せ、地中の形を大幅に変えるのだ。

表層にあったドラゴンの化石が、ダンジョンの最深部へと巻き込まれている可能性だって存分にあり得る。



「じゃあ、もしかしてダンジョンの下の階層まで降りないといけない……ってことですかっ!?」



クミンの顔がサッと青ざめた。

どうやら一階層付近を探すだけで済むだろうと高を括ってしまっていたらしい。



「そっ、それはマズいっ! こ、こんなS級ダンジョンの下の階層まで降りたら……いったいどれほど強力なモンスターが出てくるかっ!」


「まあ、ドラゴンくらいは出てくるかもな」


「ひぃっ!? ぼ、僕っ、ドラゴンとの戦闘なんかに巻き込まれたら死んじゃうかも……!」


「そうか……じゃあどうする? 一度引き上げるか?」


「…………いっ、いえっ!」



クミンはものすごく渋い表情をしつつも、しかし首を横に振った。



「可能な限りは調べて帰らないと……! 予算をつぎ込んだ意味がありませんから……!」



そう言って、再びおっかなびっくりな様子で歩き始めた。

その時だった。



「おっ」



再びの分岐。

その先に一体の死骸が転がっている。

それは大きなモグラ型のモンスターだった(・・・)らしい。

しかし、



「……ムギ殿、なんだコレは? 酷い有様ではないか」


「これはもう、食べられなさそう……」



マチメとウサチの言う通り、そのモンスターのやられ方は無惨なものだった。

普通、冒険者というのはモンスターから素材を回収するためにも、なるべく綺麗に殺そうとするものだが……目の前のモグラ型モンスターは、毛皮や爪もおかまいなしに斬り刻まれている。



……こんなことをするのは、アイツらしかいないだろう。



「死神の軌道、ですね」


「だな。ジョウたちもすでにこのダンジョンに入って、攻略を進めてるんだ」



そしてそれは、ダンジョンで先に進むにあたって何とも都合がいい。



「この死神の軌道を、今回に関しては辿らせてもらおう」


「? どういうことだ、ムギ殿?」


「ヘラクレス所属の冒険者たちは、すでにこのダンジョンの上の階層の構造は把握してるし、互いに共有もし合っているだろう。つまり、ジョウたちも下の階層へと進むための最短ルートを知ってるはずなんだ」


「……! そういうことか! ヤツらの通った痕跡がある通路は、下の通路へと通じる正解の道というわけだなっ?」


「そういうことだ」



俺はマチメへと答えると、さっそくそのモグラ型モンスターの横を抜けて通路を進む。

すると案の定、その付近の半径五十メートル以内には別のモンスターの死骸が捨て置かれていて、俺たちはその道に沿って進んでいく。

すると十分もしない内に、



「ピスッ! ムギ! 階段見つけた!」



ウサチから呼び声がかかる。

集まってみれば、ビンゴ。

一つ下の階層へと進む階段だ。

さっそくそこを降りていく途中、



「──どうか強いモンスター出ませんように、強いモンスター出ませんように……!」



クミンは一人、小声で祈り続けていた。

まあ気持ちはわからんでもないが……おそらく、いやきっと、その願いは無駄になるだろう。

そうして俺たちが二階層目に到着すると、その直後、



「グルォォォッ!」



一階層目と比べて少し暗くなった通路、その奥から勢いよくこちらに向けて飛び掛かってくるのは、一本の長い角を持つ大きなトラ型のモンスターだった。

背にはコウモリのような翼が生えており、地面と壁、そして天井を自由自在に駆けて迫りくる。



「ひっ、ヒィィィッ! 出たぁぁぁっ!」



悲鳴を上げるクミン。

モンスターが出るのは仕方ないさ。

だって、一階層目よりも二階層目の方が、圧倒的に人の手が入っていないんだもの。



「ムギ殿! 反対側からも来るぞ。こちらは目つきの悪い鹿が三頭……いや違う! 三つ頭がついた一頭のモンスターなんだ! しかも二本足で立ってるぞ!? あと、腕と脚がムキムキだッ!?」


「なんだそれは……! 面白過ぎるだろ……!」



どんな姿なのか見たい。

とてつもなく興味をそそられる。

となれば、仕方がない。



「みんな、討伐クッキングの時間だ」


「「了解!」」



俺は躊躇なく、俺たちへと目掛けて駆けてくるトラへと目掛けて跳躍する。

空中という俺にとっては一番無防備になるその場所を、そのトラは見逃さない。

鋭い頭の一角を突き出して、翼で勢いをつけ、急降下するように俺へと迫った。



──だが、一切問題なし。



俺はグーの形に握った拳に魔力を蓄えて、金づちでも振り下ろすかのようにしてそれを迎え撃つ。

振るうそれは料理拳・漬物石の型。

ズドンッ、と。

その型の名が示す通りの重さとなった拳は、トラの角を砕き、そしてその体をおはじきでも弾くようにして地面へと叩きつけ、地面へと深くめり込ませた。

おそらくは即死だろう。



「フナァァァッ!」


「セェェェイッ!」



そして後ろから聞こえるのは、ウサチとマチメの発する気炎。

それと共に大地を揺るがすようなズシン、とした衝撃が足の裏から伝わってくる。

振り返れば巨大なムキムキ鹿型モンスターは地面に倒れており、余裕そうに微笑む二人がハイタッチを交わしていた。

どうやらこちらも圧倒して勝負を決めたらしい。



……よしよし。幸先がいいな。



このS級ダンジョンで、みんなノーダメージで初戦を乗り切ることができている。

この調子ならこの先もきっと安泰だ……と思っていたのだが、



「なっ……ななな……あっ、イタッ!?」



ドシン。

そんな光景に腰を抜かして尻もちをついたのは、クミン。

戦闘に関係ないところで、地面へと強かに腰を打っていた。



「大丈夫か?」


「あっ、はい! だ、大丈夫ですイテテテ……」


「いや、大丈夫じゃないだろ。腰でも捻ったか?」


「ちょっとだけ……でも、立てないほどではないですから。すみません、ご心配をおかけして」



クミンは腰をさすりながら立ち上がる。



「まさか、みなさんがここまでお強いとは思わず……ああいいえ、決して弱いのではなどと思っていたわけではなくてですねっ!?」


「わかったわかった。とりあえず落ち着け」



軽傷者も一名出てしまったことだし、そろそろ休憩の頃合いだろう。



「よし。じゃあ……ちょっと早いけど、コイツらを捌いて昼飯の時間としようか」


「「「「了解!」」」」



モンスター討伐の際の返事よりもやる気と食い気に満ち溢れた、オウエルたちの声がダンジョンへとこだました。


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