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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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第88話 ダンジョン攻略申請と再会

竜骸平野の東に位置するリデーから王都までは、竜骸平野の外周をグルッと反時計回りに沿って整備されている街道を使って行った。

王都も近く人通りも多いからだろう、道中にモンスターや野盗が現れることもなく、一週間近くの旅路を経て、俺たちは何事もなく王都へと到着した。



「おおっ……! ここが、王都なのですかっ!?」



幌の内側から顔を覗かせて、その目を輝かせていたのはシナモン。

まあ、初めて訪れるならその反応も頷ける。

俺たちのことを最初に出迎えるのは、その圧倒的な高さを誇る外壁だ。

六階建ての建物に匹敵する高さのその壁は、分厚さも相当なもので、たとえドラゴンがタックルしてこようが崩れないだろう堅牢さがある。

そして、その内側に広がるのもまた、摩天楼の街並みだ。



「ピスピスッ! 高い建物がいっぱいだなぁ!」



さすがは(みやこ)というだけはある眺めだった。

他の町じゃ高い建物なんていうのは大ギルドや高級宿、役所、銀行くらいのものだったが、ここではその程度の金持ちはたくさんいるということだろう。



「そういえばウサチさんも王都は初めてでしたね?」


「ピスッ!」


「マグリニカ以前はギルドに所属していませんでしたし、近くの町での討伐依頼がほとんどでしたものね?」


「うんっ。だから楽しみだぞぉ! 美味しい屋台、いっぱいあるかなぁっ?」



シナモンとウサチの一方で、オウエルやマチメは慣れた様子だ。

オウエルに関してはそれもそのはず。なにせ特待生として王都の学校へと通っていたのだから。

マチメに関しても、おそらくは馴染みある場所なのだろう。オウエルと同じく幌の中で座ったまま、外の景色には興味を示していない。



「まあ王都にも屋台が無いわけじゃないんだけどな……」


「? ムギは来たことあるのかぁ?」


「ああ。まあ俺も昔は冒険者だったからな。討伐依頼の経由地として滞在したことは何度もあるよ」



でも、長居をしようと思ったことはない。



「何というかな、食べ物に関して言うと……あまり良くはない」


「ムギ殿に同意だな」


「全くもってその通りです」



マチメとオウエルが勢いよく首を縦にする。



「王都には農地が無いから肉も野菜も他の町から運んできているのだ。だから……そこらの店で手に入る食材の鮮度は悪い。高級外食店にでも行かない限り、まともな料理は喰えんぞ」


「はい。なのでほとんどの一般人は自炊一択ですね。しかも、パンやシチューばかり……私は何とか週に一度、ムギ様直伝のハンバーグを自分で焼いて正気を保っていましたが」


「ウッ……そうなのかぁ?」


「楽しみが半減以下なのですよぉ……」



しょぼんと、ウサチとシナモンが肩を落とす。



「まあその代わり、街並みは整備が行き届いていて綺麗だぞ? 街の中心には泉も湧いてるし、遺跡なんかもある」


「泉……遺跡……」


「お腹は膨れないのですよぉ」



ダメだ。

やはりメシウマ一行は花より団子、食欲をそそられない場所に意味を見出せないらしい。



「ったく、これだからお子様たちはよぅ」



そう俺たちに言葉を投げかけてくるのは、幌馬車の御者台に乗ったダボゼ。



「王都はなぁ、酒が美味い大人の街よ! どれ、今日は俺がオススメの店を教えてや──」


「ムギ殿、サッサとダンジョン攻略を終わらせて王都は後にしてしまおう」


「美味しくない街ならあんまりいたくないぞ……」


「カリーにしてしまえば何でも美味しくなるとはいえ……食材も大事ですからぁ」


「私もマチメさんたちに同意見です、ムギ様」


「──オイッ!? ちょっとくらいは滞在してくれよなぁっ!?」



ダボゼの悲しい叫びを聞きつつも、残念。

俺も他のみんなと同意見なんだ、ダボゼ。

そんなわけで、俺たち一行が王都観光などの寄り道もなくまっさきに向かったのは冒険者ギルド・ヘラクレスの本部だった。




* * *




冒険者ギルド・ヘラクレス。

そのギルド本部は、王国最大冒険者ギルドという看板に違わず大きなものだった。

一つの村がすっぽりと収まるほど広大な敷地の中に、レンガ造りで統一された棟がいくつものそびえており、それぞれで一般の受付窓口や事務所、そして所属冒険者が使用できるトレーニング施設や宿泊施設、食堂や酒場などに分かれている。

さながら小さな町が一つ、王都の中に造られているようだ。



「──確かに、竜骸平野ダンジョン攻略の希望申請書を受け付けました。実績の審査をいたしますので、数日ばかりお待ちいただきます」



ヘラクレスの窓口の受付嬢は事務的にオウエルの書いた申請書と審査料を受け取ると、それからさっそく申請受付票の作成をし始める。



「数日か……まあそうなるよな」



きっと、ダンジョンのウワサが瞬く間に広がったからだろう。

ヘラクレスのギルド窓口は今も数多の冒険者チームで埋め尽くされている。

審査にも待ちが生じて然るべきというものだ。



──ダンジョンへは、決して誰もが挑めるわけではない。



「審査って……どうしてそんなものが必要なのですかぁ?」


「冒険者たちの足切りだよ」



俺はキョトンと首を傾げていたシナモンへと応える。



「実力の伴わない冒険者チームが入ってしまうと、その他のチームの足手まといになってトラブルの原因にもなるからさ。一番下級のB級ダンジョンでも、挑戦にはけっこう高めの条件をつけていることがほとんどなんだ」


「そうなのですか、じゃあ、今回のS級ダンジョンは……」


「いつもなら、少なくともドラゴンなどのSS級モンスターを討伐した実績が求められるな。でもまあ、俺たちに関しては問題ない」



メシウマではこれまでかなりのS級・SS級モンスターたちを討伐してきたし、その記録も実はオウエルなどがしっかりと残してくれていて、たびたび王国冒険者協会という冒険者ギルドの情報を一元化して保管してくれる場所へと送ってくれているのだ。

なのでちゃんとした審査を受けさえすれば問題はない……のだが、



「とはいえ、俺たちはヘラクレス所属の冒険者チームではないから。経歴の調査から実績の真偽までを審査されるのにはどうしたって時間がかかるんだ。こればっかりはどうしようもないな」


「と、いうことは……」



そう。

シナモンが勘付いた通りだ。



「よっしゃ! これでしばらくは王都に滞在できるっ!」



俺たちの後ろで喜ぶダボゼ。

それが全てを物語っており、その他のメンバーは思わずどんよりとした深いため息を吐かざるを得ない。

やはり、滞在場所が美味しいご飯が食べられる場所かどうかというのはテンションに直結するらしい。

どうしたもんかな……と俺が一人腕を組んで悩んでいると、



「──コイツらに審査は不要だ、受付嬢」



冒険者たちのひしめく受付ロビーを静まり返らせる、低い声が響く。

俺たちの後ろにあった人混みが割れ、そして姿を現したのは青髪の冒険者。



「……ジョウっ!」



つい先日、甲鋏竜の討伐依頼へと共に挑んだヘラクレス所属の冒険者、ジョウ・ゴウだ。



「オイ、見ろよ。死神の軌道だ!」


「アイツらもダンジョンに……? 勘弁してほしいぜ」


「せっかくのダンジョンモンスター素材がグチャグチャにされちまう!」



ジョウの姿を見て、周囲の冒険者たちもザワつき始めていた。

そのほとんどが否定的な反応だったが、しかしジョウはそれらを意に介した様子もなく、俺たちメシウマの申請受付票を作り始めていた受付嬢の正面に立つ。



「許可証を発行してやれ。ついでに、俺たちの分もな」


「ジョ、ジョウ・ゴウ様たちの分は構いませんが、しかし……他ギルドの冒険者チームには審査が必須という規則でして……」


「コイツらの実力は俺が保証する。上には俺から言っておく」


「……は、はい。承知いたしました……」



受付嬢はそう言うや、作成中の申請受付票を脇に退けると、今度は許可証の発行へと取り掛かる。



「……ありがとう、ジョウ。助かったよ……でも、どうして?」


「勘違いしないでもらおうか。別に、おまえたちを助けたつもりはない」



ジョウはキッと吊り上げた目で俺のことをまっすぐと見やる。



「甲鋏竜討伐の際は後れを取ったが……今度はそうはいかん」


「え?」


「ダンジョンを先に攻略するのは俺たちだ。覚えておけよ」


「え、いやあの……俺たちは──」



ダンジョン攻略ではなくて、カリーノキノリーフの採取が目的なんだけど。

そう俺が言い切る前に、ジョウは受付嬢から許可証を受け取ると踵を返し、立ち去ってしまった。

さっそくダンジョンの攻略へと向かったのだろう。



……にしても、一体何なんだ?



別にダンジョン攻略は競争ではないと思うんだがな。

まあもちろん、ダンジョンの最奥へと一番最初に訪れた冒険者たちの名前は冒険者協会に刻まれることにはなるから、名誉なことではあるんだけど。



「審査が省けたのはよかったですが……なんだか一方的にライバル視されてしまっているようですね、ムギ様」


「やっぱりそう思うか?」


「昔、あの方にお会いしたことが?」


「……みたいなんだけどな。また聞きそびれた」



呆気に取られていると、俺たちメシウマの許可証もできたようだ。

受付嬢からそれを受け取ると、窓口を離れる。

すると、その時だった。



「──あっ、あの! スミマセン!」



背後から、唐突に声をかけられた。

振り返ると、そこにいたのは細身のメガネをかけた若い青年。

歳は恐らく、マチメと同じくらいといったくらい。



「えっと……? 君は?」


「僕は……ああいえ、わたくしはですね、クミンという者でして!」


「はあ、クミンさん」


「ああっ! ですよねそうですよねっ!? 当然、名前が知りたいわけじゃあないですよね! スミマセン!」



クミンは慌しくペコペコと頭を下げると、懐から一枚の名札を取り出した。

そこに記載されていたのは、『王国考古学研究所所属 ゴーレム文明研究者 クミン』という文字。



「ゴーレム文明の研究者……?」


「ええはいっ! それで、わたくしどうしても竜骸平野に現れたというダンジョンに足を踏み入れたく思い……どうか、わたくしをみなさまへと同行させてはいただけないでしょうかっ!?」



唐突なその申し出に、俺とオウエル、そしてシナモンは互いに顔を見合わせた。


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