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え?ギルド内で唯一【コック】を極めてる俺をクビですか?  作者: 浅見朝志


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101/102

第101話 お姉ちゃん

「──シナモンッ⁉ 俺の声が聞こえているんだなっ⁉」


『……ムギ……さん……?』



巨大ゴーレムの内側から、シナモンの声が聞こえてくる。

俺たちが叩き込んだ連続攻撃の衝撃のためか、あるいは俺の発した『家族』という言葉のためか、あるはその両方か……それはわからないが、しかし、アニスにかけられていた催眠魔術からシナモンが目を醒ましつつあることは確かだ。



「シナモン、よく聞くんだ! アニスはな、シナモンの『家族』! シナモンの『お姉さん』だった!」


『……アニスさんが……?』


「そうだ! リデーの町でフェヌとグリークたちきょうだいを見て、シナモンは言ってたよなっ? 自分にもあんな家族がいるのかなって。いたんだよ、シナモンにも! お姉さんが!」


『……お姉、ちゃん……』



言葉を重ね、シナモンの覚醒をうながした。

しかし、



『──やめてッ!』



そう叫んだのは、アニス。



『私をお姉ちゃんなんて呼ばないで……! 私たちは、普通の姉妹とは違うっ、私たちには天嘗めを倒さなければいけないという使命があるのですから!』


「……それは、アニスたちの博士がそう言ったのか? それともアニスがそう思っているだけなのか?」


『それはッ……』


「だよな、言わないだろうよ、そんなこと」


『わかったような口を……っ!』



仰向けになった状態から巨大ゴーレムの腕が動いて、その顔の上の俺を跳ねのけようとしてくる。

だけど、



「わかるさ、それくらいのこと」



間髪入れずに、俺は言う。



「シナモンに、自由な意思と、カレーが大好きだって心を与えてくれた人なんだろ? そんな人がさ、『玉砕覚悟で天嘗めを倒す』だなんて残酷な使命を残すハズがないじゃないかっ」


『……ッ』



ピタリと、ゴーレムの動きが止まった。



「そしてそれは君にもだよ、アニス」



息を呑んだまま押し黙るアニスへと、俺は言葉を続ける。



「伝説のカリーを食べて涙していたよな? そのときの君は、どんな懐かしい記憶を見た?」


『……私はっ……』


「さっきは『わかる』と言いはしたけど、俺はやっぱり君ほどには、君たちの博士がどんな人かはわからない。君の記憶の中で、博士は天嘗めを倒してほしいと願っていたのか?」


『……違う……』


「じゃあ、教えてはくれないか?」



巨大ゴーレムは、しばらくウンともスンとも言わなかった。

しかし、



『博士の作ってくれた、よく似た味のカリーを……思い出していたんです……』



ポツリと、アニスは話し始めてくれた。



『博士はカリーが大好きで……私も、博士が作ってくれるカリーが大好きでした。町の発展と、天嘗めという脅威への対抗手段の研究の合間に、二人でよく食べていたんです』


「穏やかな思い出じゃないか」


『はい……そう。思い出すのはそんな光景ばかり。タマリンド博士は、調整中のシナモンを見てこう言っていました。『この子にもこの味を知ってほしいね』と。博士は、私たちに戦ってほしいだなんて……一度も口にしたことはなかった』



胸に詰まった想いを吐き出すようにして、アニスは言葉を紡ぐ。



『この地を守るための私たちであり、そのための研究をしていたのは確かです。だから博士は私に魔術を、シナモンに武力を搭載しました。でも天嘗めが予測より早くこの地へとやって来て……タマリンド博士は、結局、私たちを戦わせなかった。戦わせてくれなかった。そしてシナモンは起こさないまま……私のことも眠らせたんです。研究所のシナモンの隣のカプセルへと、三百年以上も閉じ込めて』


「……どうしてだろうな」


『どうして……? そんなのっ、わかりませんよ! 私にはわからなかったっ!』



悲痛な声で、アニスは叫ぶ。



『シナモンとたった二人でこの世界に残されてからのこの二十年……博士と、博士の作った文明を壊したモンスターへの復讐の他に、私には何もできることはなかった! 今だって、そう……』


「『今だって』? 悲しいこと言うなよ。そんなワケないじゃないか」



確信がある。

だって、



「タマリンド博士がシナモンに振る舞いたかった『カリーの味』を教えてあげることができるのは……もうこの世でアニス、君一人だけじゃないか」


『……!』


「だってそうだろ? 姉であり、タマリンド博士のことをよく知るアニスにしかできないことだ。それでも、生きる道は復讐だけしかないと言えるのか?」


『それ、は……』



俺の言葉の後は、静寂。

再びアニスは口を閉ざしてしまった。

何を言うべきか、あるいはこれからどうしたいか、それを考えてくれているのだろうか。

じゃあ……その間に、コレについても話しておこう。



「あのさ、もう一つ……これは勝手な推測なんだけど」



物言わぬ巨大ゴーレムへと、改めて俺は独り語り掛ける。



「君が起きた二十年前にシナモンのことも一緒に起こさなかったのってさ、復讐心が鈍るかもって思ったからじゃないか?」


『……な、なんでそれをっ⁉』


「いやぁ、そりゃあわかるよ。だってシナモン、起きてみたらあんな底抜けに明るい感じだもんな。シナモンが横にいたら、どんなに研ぎ澄まされた包丁だってナマクラ同然になっちまう」



一言目からカリー、二言目にもカリー、三と四を飛ばして五言目にもカリー。

カリーへの熱意だけとってみれば、メシウマ三人娘だって敵わないほどの熱意を見せており、カリーのためなら危険さえ顧みない。

本当に、『世話の焼ける末妹』って感じだった。



「実際、思い返してみれば……シナモンと話してる時のアニスは、なんだかちゃんと


『お姉ちゃんをしてる』ように思えるよ」


『……』



少なくとも、俺にはそう思えた。

アニスは大きく一つ息を吸うと、



『……私は……取り返しのつかない、酷いことをしてきました』



静かに、そう切り出した。



『メシウマのみなさんにも、シナモンにも、叔父様……コリアンド・スター子爵にも。色んな人を騙し、利用して、迷惑をかけました」


「そうかもな」


『そんな私に、今さら帰る場所なんてあるのでしょうか? どう償ったら? どこで生きたら? こんな私が今さら引き返して、誰に許してもらえるのでしょうか……?』


「さあな。それは俺にもわからない」



俺には神通力があるわけじゃないのだから。

他人の気持ちなんて、本当のところはわかりはしない。



「やってみる前からわかることなんて少ないもんさ。でもさ、知りたいならやってみる他はないんじゃないか」


『……そう、ですよね』



ガション、と音がする。

それは巨大ゴーレムの顔の側面、そこに出口のような穴が出現した音だった。

そこから出てくるのはアニスと、その背におぶさって眠るシナモン。



「ムギさん、マチメさん、ウサチさん」



アニスは巨大ゴーレムの顔の上にいた俺を、そしていつの間にかアニスたちの側へと歩み寄ってきていた二人を順番に見て、



「本当に……申し訳ございませんでした」



深々と、その頭を下げた。



「酷い自分勝手だとは思いますけど、今さらだとも思いますけど……それでもシナモンに、私は……博士のカリーの味を教えてあげたいです……!」


「許すよ、俺は。シナモンもきっと喜ぶんじゃないかな」


「ピスッ! 私もそのカレー食べてみたいぞぉ」


「私もだ。全て水に流すから、その代わりのカレーをごちそうになりたい」


「……! ありがとうございます……!」



アニスはまた深々と頭を下げて、しかし。



「くぅー……くぅー……」



その背中のシナモンが寝息を立てているものだから、イマイチ締まらない。

そんな俺の視線に気づいてか、



「たぶん、初めてカリーエネルギーをフル活用したことで、シナモンは疲れているんだと思います」



アニスはそう言って、後悔するように表情を曇らせる。



「本当に、悪いことをしました。私、この子にも許してもらえるでしょうか……」


「それはきっと──」



大丈夫だと言おうとした、その時だった。



──ゴゴゴッ、と。



地面が揺れる……いや、揺さぶられる。

それは明らかに地震ではなかった。

不規則で、地面がせり上がるような感覚のそれは……実際の現実となって俺たちの前にそびえ立つ。

先ほど巨大ゴーレムによる <(シン)火竜爆砲(カリーノヴァ)>が直撃した崖の岩肌が崩れ、隆起し、天高く立ち上がっていた。



「……これは、マズい……!」



大きな土煙を立て、その姿を現したのは──天嘗め。

その触手の一つが、鎌首をもたげる蛇のようにユラユラとその体を波打たせて、俺たちの存在を感知すると、その次の瞬間だった。



──その触手の先端が枝分かれして、鋭い無数の槍に変化し地上へと降り注ぎ始めたのは。


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