吸収
「アーコ、咲さんが刀持ってこいって。」
天音「はい!今取りに来ます!」
俺は『天音』という名前がどうも呼びづらくてあだ名で呼ぶことにした。
アーコもあんまり自分の名前を気に入っていないらしく、あだ名で呼ばれる方が嬉しいと話してくれた。
アーコはあの日から咲さんに体を鍛え抜かれて貧相だった体から驚くほど筋肉質でいい体になり、季節はまた冬を迎えようとしていた。
俺は咲さんに言われた通り、体が動かなくなるまでかかり稽古をアーコにしろと言われたのでやることになった。
アーコは俺の腹に貼られた布を切れば稽古は終わるが、今までアーコの意識がなくなるまで終わることはなかった。
今日はどうだろうか?
アーコは毎回稽古を始める前に数秒瞑想をしているのか、目を閉じて深呼吸をする習慣がある。
今日もまたそれをしているが普段より長い。
俺は普段との違いを感じていつもより気を張って稽古に臨むことにした。
天音「始めます。」
凌太「おう。」
その言葉でアーコが普段より速く動き、俺の腹めがけて刃を振るう。
俺はその刃を竹刀で傷つけないように受け流し、攻撃を避け間合いを取りながらアーコの様子を見る。
この間、咲さんと稽古をしたからなのか格段にスピードが上がっている。
教えがうまい咲さんも素晴らしいが、アーコの吸収力の速さに脱帽する。
もし、俺がアーコと同じタイミングでこの慰撫団に入団していれば確実に俺が意識を失ってる側だ。
けど、ここで俺の腹にある布を切られれば今の俺さえアーコ超えることになる。
それは俺が嫌だ。
助けた人間に自分の努力を超えられるのは耐え難い。
今まで俺が積み上げてきた鍛錬がアーコの一振りで無くなってしまいそうで寒気がする。
俺はそう思い、逃げから攻撃に行動を変えるとアーコは少し驚いた表情を見せるがそれでも布を切ろうとする。
凌太「日暮れまで体力が持つようになったんだな。」
天音「はい。凌太さんと咲さんのおかげです。」
少し息切れしてふらつく足元で必死に俺の攻撃に耐えるアーコ。
あと少し、俺が耐えればこの布は切れない。
俺は姑息だとは思ったが、ふらつくアーコの脚を自分の脚ですくい上げ地面に倒す。
天音「…えぇ、ずるいです…ぅ。」
凌太「俺はまだ切られたくない。」
天音「…なーんてね。」
と、アーコが俺の脚を払い、持っていた刀を躊躇なく俺の腹めがけて突くのを寸前で体制を立て直し避ける。
天音「あぁー…!外したぁ…。」
凌太「女は嘘つきの天才だな。」
「素敵な褒め言葉もらったじゃない。」
と、稽古場の扉付近に咲さんが立っていた。
天音「すみません。作戦立ててもらったのに…。」
咲「いいのよ。これだけ体力が持つなら戦闘しても大丈夫。」
咲さんは悔しがる天音の頭を撫でて俺を見る。
咲「この3人で班を組む事を世永が了承したから、次からは脚の払い合いはしないでね。」
「「…はい。」」
咲さんとあれから凶妖の戦いに何度か出向いたけれど、咲さんの一振りで凶妖の首は切られて仕事が終わってしまう。
俺はただ見学に来ただけに過ぎない。
だからこそ、まだ布を切らせずにいたのにもう戦闘を一緒にするのか。
俺は自分の歩みの遅さに落ち込んでいると咲さんが俺の耳元に寄ってくる。
咲「食べさせてあげる。」
咲さんは小さい声で俺に伝えて食事を取りに行った。
凌太「アーコ。立て、晩ご飯だ。」
俺はそのまま咲さんについていこうとしたが、アーコからの返答がなく後ろを振り返るとそのまま気絶してしまったらしく、床の上で寝ていた。
俺はアーコをおぶり、部屋で寝かせたあと咲さんが待ってるいつもの部屋に向かった。




