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竹の子

いつも俺と咲さんだけで食べてる部屋は、昔道具入れに使われていた壊れかけの倉庫。


まだ使えるけれど、扉の建てつけが悪くたまに開かなくなる時があり、少し前に眩が世永に頼まれて新しいものを作っていた。


それを咲さんが俺との食事のために譲ってもらったらしい。


あそこで食べる時は必ず口で食べさせてくれる。

久しぶりに食の楽しみに心踊らせていると、咲さんが2つのどんぶりを持ってやってきた。


凌太「持ちます。」


咲「ありがとう。」


俺は咲さんの持っている天丼を持ってあらかじめ開けていた倉庫の入口を2人くぐり、備え付けられている棚に天丼を置きランプをつけて扉を閉める。


俺はその場で座り込んで咲さんが俺の口の中に天丼を入れ込んでくれるのを待つ。


咲「今日はなんで天音を攻撃したの?」


咲さんはタレに天ぷらを漬け込みながら聞いてきた。


凌太「…斬られたくなかったからです。」


咲「逃げればいいじゃない。」


凌太「…逃げるだけでは、斬られてしまいそうと思ったので。」


咲「天音が怖い?」


凌太「…。」


咲「質問に答えなさい。」


凌太「…俺よりも成長が早く、一言で30は吸収してしまう能力に嫉妬してます。」


咲「…そう。」


咲さんはそれを聞くと俺の脚の間にしゃがみこみ、後ろの壁に両腕をついて顔を迫らせてきた。


咲「まだ、あなたは自分の力を出し切れてない。多く見積もっても5厘程度。」


そう言いながらいつものように俺の膝下に自分の脚を入れ持ち上げて、俺の腰を軽く浮かす。


凌太「…もっと俺にも教えてください。」


咲「ひたむきな凌太は好きよ。」


俺は咲さんに言われる前に自分から咲さんの細腰に腕を回す。


咲さんは自分の口に水をふくみ、俺に冷たくレモンの味がする水を飲ませてくれる。


久しぶりに感じる咲さんの温度に冷えた水。

久しぶりに感じる水の甘さと果実の酸味。

久しぶりに感じる痛いほど冷えてる咲さんの舌。


俺にとってそれは幸せの始まり。


どんなに冷えてしまった食事でも、咲さんが俺に食べさせてくれるなら味は生まれるし、ただ飲み込むだけでいい。


咲さんと倉庫で必ず訪れるこの食事の時間は、俺にとっても生きがいでもある。


あの日、自分の人生を終わらせようとしなければ咲さんに出会う事はなかったんだろう。

俺に降りかかった災難は全てこの人に出会うためだったのかもしれないなと思うと少し気が紛れる。


ゆっくりと味わいながら食べ進め、天丼があとふた口で終わるところで咲さんは手を止めた。


咲「人が来る。」


耳をすますと男女が何か話しながら庭を歩いて来ていて、この奥の倉庫までやってきたらしい。


声の持ち主は…、アーコと世永か?


天音「んー、2人ともどこ行っちゃったんですかね?」


世永「気がつくとどこかに行っちゃう2人だからねー。ここら辺にもいなさそうだよ?」


天音「残念。私が作ったご飯、凌太さんたちに食べてもらおうと思ったのに。」


世永「あまちゃんご飯作ったんだ!でも食事係の人がいるのになんで作ったの?」


天音「私はいつも美味しくご飯を頂いてるんですけど、あの2人はいつも表情を変えずに黙々と食べちゃうんですよ。だから普段の味と少し違ったら驚くかなって!」


世永「あまちゃんは人のこと良く見てるね。感心しちゃう。」


天音「…そういう癖がなかなか取れなくて。そうしないと自分が守れないんです。」


世永「もう、守ろうとしなくても大丈夫。ここのみんなはあまちゃんの事、傷つけようとしないよ。」


天音「…はい。」


世永「そうだよね、そんなにすぐ信頼は築き上げられないものだもんね。でも俺たちはあまちゃんの事、大好きだから嫌なことはしないよ。」


天音「…はぁ…い。」


世永「部屋に戻って2人のこと一緒に待とうか。」


そういうと泣きじゃくるアーコと世永の声と足音はどんどん遠ざかっていった。


咲「あの子はいつになったら泣くのを辞めるの?」


凌太「アーコ次第です。」


咲さんは呆れながら残りの天丼を食べさせてくれて外に出る。


だいぶ長い時間いたのか、月が高く上っている。

腹は満腹だけどアーコが作ったご飯も食べないとな。


俺は食器を片付け、アーコの無味の食事を嘘をつき作り笑顔をしながら全て食べた。


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