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感覚

あの日、慰撫団に入る決意をした俺は凶妖から流し込まれた妖力をうまく使うために自我穿通じがせんつうというものを教わっている最中。


咲さんは『怒り』を原動力にするのが1番効率的だと教えてくれた。


3週間近く、俺は地下室のベッドの上で心臓の痛みを感じるまで怒りを追い込む訓練をする。

歯止めが効かなくなると咲さんが止めてくれてるらしいが俺にはその記憶がない。


記憶がなくなるのは酒を呑み狂った後と同じようなものだから気にしなくていいと、咲さんが教えてくれたので安心する。


自我穿通は自分の自我を保ち、妖力を使う時の他我に抗うための手段。

他我に襲われた後は欲を抑えられない妖怪になるらしい。


大体は殺人鬼と化して動物も人も見境なく殺すような生き物になるらしく、そうなった場合は慰撫団の人がその首を切り落とすしか今は方法が分からないらしい。


そんなことを普段からしてやっと凶妖という妖怪と戦える舞台に立てる。


少し前に俺に煮込みうどんを運んできてくれた人もこんなことをしているのかと考えると、ここにいる人がすごく高みにいるように感じる。


今日、俺は咲さんから許可が出て久しぶりの外に出る。


咲さんは俺に白いワイシャツとタイトな黒いズボンをくれた。

それを着て、外に出ると久し振りに嗅いだい草の匂いと突き抜ける冬の匂いを感じる。


咲「庭に行きましょう。」


俺はそのまま咲さんに着いて行き、庭に出ると一面真っ白で柔らかそうな絨毯が広がっていた。


凌太「寒いですね。」


咲「そう?」


咲さんはそのまま雪の絨毯に寝そべり気持ちよさそうにする。


咲「凌太、おいで。」


せっかくもらった服を濡らしたくなくて躊躇していると、脚を引っ張られ雪の上に落とされる。


凌太「…さむ。」


咲「冬は好き。全てを浄化してくれてる。」


凌太「…?」


咲さんは笑顔のまま目を閉じて自分の背中にある雪を感じて気持ちよさそうにしてる。


「おお、雪遊びか。」


と、大きい人影が現れた。


咲「大一だいいちもやれば?」


大一「寒いだろ。新人も震えてるぞ。」


大一と言う大柄で福耳が印象的な男は俺に手を差し伸べる。


俺がその手を取ろうすると間に咲さんの手が入り、大一さんを雪の上に落とす。


大一「おい!風呂上がりだぞ!?」


咲「最高。」


大一さんは慌てて縁側に戻り、雪を払う。


凌太「信大 凌太です。これからよろしくお願いします。」


大一「おう。嘉田苛かたいら 大一だいいちだ。よろしくな。」


ここにいる団員の中ではダントツに年を取っているシワの入り具合。

多分この慰撫団の中で最年長だろう。


俺は雪の上でそのままお辞儀をする。


大一「遊びもほどほどにして飯食えよ。」


咲「遊んでないわ。感じてるの。」


呆れ顔の大一さんはそのまままた風呂に入るために屋敷の中へ戻っていった。


凌太「寒くないんですか?」


咲「これがいいの。」


俺は咲さんが感じている雪を感じるために寝そべってみたけれど、冷たいのが痛く感じ何度も体制を変える。


すると咲さんが俺の手を掴み、こちらを見る。


咲「一緒に食べる?」


凌太「…はい。」


咲「行きましょう。」


咲さんは立ち上がり軽く雪を叩いて屋敷に入る。

俺は置いていかれないように咲さんに着いていく。


この3週間、味のないご飯を何度食べただろうか。

ただ栄養を取るだけのために口には含んできたけど、無味で食べる喜びは感じられなかった。


今日は咲さんと一緒に食べられる。

けど、またあの日のようにしてもらえるか分からない。

俺は淡い期待を抱きつつ、台所に向かった。


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