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目を覚ますと見覚えのある女性が屋敷の中を案内してくれた。


名前は新見 (あらみさき)という。


どこで見たのかどうしても思い出せずにいると、咲さんは屋敷の主に俺を紹介してくれた。


華宮はなのみや 世永せいえいと言います。この屋敷の臓方で華宮家当主の弟でもあります。何か分からない事があったら聞いてください。」


俺より少し若い着物を着てストールを巻いている男の口元には、獣に噛まれた傷跡がくっきり残っていて痛々しい。


凌太「えっと…、慰撫団ってなんですか?」


世永と言う男は古い書物を取り出してきて、俺では読めない文字を指したり、癖が強い絵が描かれた物を見せながら説明してくれる。


慰撫団とは元々、妖怪退治をしていた団体で今多発している災害のほとんどが妖怪の仕業だと教えてくれた。


その妖怪は“凶妖きょうのけ”と言って山なんかで死んだ動物の怨念が死にかけた動物の生命を繋ぎとめて妖化させるらしい。


凌太「…妖怪って本気で言ってますか?」


世永「今屋敷には妖力を抜いた凶妖たちしかいないので現物を見せられませんが、あなたの脚を噛んだ熊も凶妖です。そうですよね?咲さん。」


咲「そうよ。食べられた子は凶妖に魂が取り込まれて災害を引き起こす妖力として使われるから食べられないようにしてね。」


そんな事あるのか…?


俺が生きてきた24年間でそんな話聞いたことないぞ。

この2人は俺に何を求めてる?


…金か?

治療費を俺から巻き上げようとする気か?


凌太「俺はなんでここにいるんですか?」


世永「この本に凌太さんの名前が載っていたので、病院ではなくこちらの屋敷に連れてきてもらいました。」


と、手渡されたのは駅前で置いてある求人ペーパーのように薄い小説サイズの本。

題名は[自然災害と妖]と書かれている。


咲「後ろから5ページ目にあなたの名前があるわ。」


咲さんが俺の本を手に取り、そのページを広げてくれる。

そこには『信大しんだい 凌太りょうた・24歳・住所不定』と書かれている。


咲「凌太は家ないの?」


凌太「…はい。金なくて追い出されました。」


世永「よかったらここに住んでください。慰撫団として働かなくても家を見つける間、ここで体を治してください。」


凌太「…慰撫団って給料出ますか?」


世永「一度のお勤めにつき10万円、その他の出来高で金額が上がります。」


は?一回働いただけで10万?

どこの世界にそんな金回りがいい企業があるんだよ。

今の日本の10万の価値を知ってて言ってるのか?


咲「私は今一回で50以上は貰ってる。災害を止めて人の命を救って大金がもらえるなんて素敵じゃない?」


世永「出来るならお金目的でやってほしくはないですが、命を張っていただいているので現代で人が価値を感じているお金でその対価を払わさせて頂いています。」


凌太「死んだりするんですか?」


世永「はい。凶妖は人への怨念の塊なので、俺たち団員や一般の人を殺しにかかってきます。

それでも人助けをしたい、災害を止めたい、大切な人を守りたいと思う方が命を燃やし戦ってくれています。」


だからこんなにも給料が高いのか。

人が拒む仕事ほど、金を積んで妥協点を作ってるのか。


咲「一度やってみれば?私がいるから。」


世永「咲さんが惚れ込むなんて珍しいですね。」


咲「凌太は私が育てるから。」


凌太「ちょっと待ってください。やるとは言ってません。」


咲「ここに住めば三食寝床付き、家賃もいらないし給料は使わない分だけ貯まるわよ。」


今の俺にとってこんなに魅力的な物件、他にはない。

…けど、いいのか?


こんなに怪しい団体に『はい。入ります。』と簡単に言っていいものなのか?


世永「そんなにすぐには決められませんよね。それが普通です。起きてからまだご飯食べてないですよね?ご飯を食べながらゆっくり考えてください。」


と言って、世永という男は部屋を出て外にいる団員に俺と咲さんのご飯を持ってくるように頼み向かった。


咲「一緒にやりましょう。私たちで次の時代を作るの。」


その言葉はどこかで聞いたことがあったけれど、咲さんとはこんな話をした覚えはない。


凌太「どんな時代ですか?」


咲「私たちが幸せになる時代。」


俺は咲さんの掴めない答えを何度も聞いていると咲さんと同じ紫色のダボっとした服を着た団員が俺たちのご飯を持ってきてくれた。


凌太「ありがとうございます。」


「直火で熱してたのでまだ鍋が熱いと思います。お気をつけて!」


と言って、笑顔で部屋を去っていった。


俺と咲さんの目の前には使い古した1人前の鍋に煮込みうどんがまだグツグツと熱せられている。


咲「いただきます。」


凌太「いただきます。」


俺はレンゲにうどんを入れ、丁寧に冷まして口に入れる。


…まあ、味はしないか。


愛が死んで以降、だんだんと食べ物の味がしなくなっていって、あの朝ついに梅干しの酸っぱさまでも感じられなくなったことを思い出した。


咲「ちゃんと冷まさないからよ。」


凌太「…はい。」


俺の目が潤んでいるのは熱いものを無理に食べたからだと思っているんだろう。


腹は減っているのに食う気になれない。


俺はそのままレンゲを置いて目の前の歪んだ鍋を見つめていると、咲さんの冷たい手が俺の頬に触れ強制的に咲さんの方に向ける。


すると、咲さんは俺の口に自分の口を合わせ冷たくなったうどんを入れてきた。


凌太「…美味しい。」


ほのかに香る鰹出汁。

いつも愛が味噌汁に入れてそのまま具として食べていたな。


咲さんは俺の鍋が空になるまで食べさせてくれた。


久しぶりに味があるご飯を食べれた俺は心の中で咲さんに感謝した。

また、味が食べたくなったらお願いしてみよう。


俺はただ熱いだけのお茶を飲み干し、慰撫団に入る決意を咲さんに話した。


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