観察8日-予兆-
死亡した竜虫だが、死後に外殻が変化していることを発見した。活動の停止を死亡したと断じたわけだが、違うのだろうか?わからない。だが、標本としてピンを打つことをやめて、適当なケースにしまうことにした。クッキー缶を利用する。観察を継続するが死体だから大きくは変化しない。あるならば分解されることだろう。だが、あるべきことがない、ということが異常に感じる。
外皮を採取して顕微鏡で調べると、驚くべきことがわかった。この竜虫は、その体を無数の生命体で埋め尽くしているのだ。
クラゲ類が、複数の個体の連結で、あたかも単独の生命体のように振る舞っている姿に似ている。つまりは、細胞の集合が多細胞生物を構成しているように、竜虫もまた複数の細胞相当の生命体が巨大な連合となって体を構成しているのだ。
ならば、竜虫の死というものは間違いだろう。単独の死というものは、このコロニーあるいは群れの死であるのだ。まだこの生命体は生きている。
点描で形態を描き残す。
イセエビやウチワエビの妖精のような、極めて平べったい、透明な生命体であるようだ。だがどうもこれ一種ではない、形態の差異が部位ごとに激しい。少なくない個体は、癒着している姿を見受けられる。また肉眼での補足は極めて困難なサイズを越して不可能である。形状的に、空気中を滞留できるようであるが、それならばこの部屋の空気は、この未知の生物に汚染されているということになるのではないか?
花粉症は治癒して、嗅覚を取り戻した。屋内は少し、新鮮な肉類の香りで満ちている。冷蔵庫の中身は、それらしいものは何もないのにだ。
竜虫の観察は継続することにした。




