観察9日-再起動-
虫竜が再活動を始める。
元気だ。元気に育っている。健やかに、健康的だ。あんなにうるさく感じていた、犬や子供の声が聞こえなくなっていた。環境音、軋みの音もだ。世界は静かになった。少し不気味だ。
虫竜は、人間にとても近い形に変化している。日に日に、そうなっているようだ。それと、酷く甘えん坊になった。手のかかる姪っ子と暮らしているようだ。知能はすこぶる高く、すでにガスコンロや照明の使い方を覚えている。
私が教えたこと、与えたものをそのまま吸収して学習しているのだ。
私は恐怖した。
もし、私が当初の虫竜に、酷い実験や飼育をしていれば、彼女はどのような成長をしていたのだろうか?
彼女は、単一なようで無数の生命体の集合だ。完全に死なせることは難しく、記憶は簡単に拡散してしまい継承されるとすれば、仮に彼女を殺した行為は、殺し返される可能性もあるのではないだろうか?
今の彼女には、予兆は何もない。ただ、酷い甘えん坊で、なんでも挑戦したがる好奇心が旺盛な小さな妖精だ。
だが……彼女が生命体であるのなら、彼女だけではないだろう。他の場所にいる彼女達は大丈夫なのだろうか?
危険な能力を持っている。人懐っこい彼女でもそれはわきまえなければいけない。だが私は楽観思考だ。これほど愛くるしく甘えられるのであれば、人間にも好かれるだろう。人間は冷酷でも非情でもないはずだ。愛を知っている。
きっと良いパートナーにもなるのだ。
人類はきっと優しさに満ちている生命体だ。そう宣伝する人間が多いのだから信じよう。
暑い日差しの中で遊ぶ子供が、行き交う人々の声が、姿が見えない。
世界は……ずっと静かになった。




