観察6日-触手-
触手とは、クラゲ、イカ、タコ、イソギンチャクなどにとっては捕食器官である。
触手でなくとも、イモガイの銛、ヤゴの下顎など、捕食のために体の一部を射出する生物というのは多い。
虫竜の触手が、なにを目的とする器官なのかは不明だ。少なくともまだ、捕食や歩行などに利用していることは観察できず、無意味に風になびいているだけに見えた。あるいはそう見えるだけであり、風を感じたり、匂いを捕まえる受容体の塊でセンサーなのかもしれない。
広い視野が必要なのだろうが、触手という先入観が強い。
刺激を与えてみた。使った道具は爪楊枝だ。鋭利なほうで虫竜の触手状器官を突いた。ぶよりとした感触はなく、むしろ硬質な甲虫のように弾かれる感触があった。筋肉とも違う。
数度繰り返すと、虫竜がわずらわしくこちらを見た。耐えていたのだ。神経の反射だけなら、最初の刺激で反応を示すはずだ。虫竜の知性は虫とは別種であり、より高度な、反射以外の思考できる可能性が高い。
虫竜は、爪楊枝をとりあげると、二度と使わせないように腹に抱えてうずくまった。寝ているのではない。ジッとこちらをうかがっている。まだ、何かをされるのではないかと疑っているのだと考えた。竜虫の目に、主観的すぎるが、知性と想像力を感じた。
すまなかった、と頭を撫でて謝意すればコオロギとスズムシを足したような音を聞いた。




