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呪い かけてみた  作者: やなぎ怜


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3/4

(3)

 カラオケボックスの一室で、私は失敗を悟った。けれども、楽しそうにしているみんなの空気に水を差すのも気が引ける。


 なんてことはない――合コンの席。とは言えども私たちはまだ二〇歳未満だから、お酒は飲めない。となると合コンの場所は健全に居酒屋ではなく、カラオケボックスになった。そのカラオケボックスで、私はため息を吐きそうになり、あわてて噛み殺した。


 みんな……私以外のみんなは、とても楽しそうにしている。しかし私は、「楽しそうにしている」という解像度の低い捉え方しか出来ないほどに、この席に興味を持てずにいた。


 合コンに誘われたのは、最初から欠員を埋める目的の、頭数合わせのもの。だから、いるだけでいい。そのようなことを言われて、軽率に着いて来てしまったのが間違いだった。


 都という特定の人物に気持ちがあるのに、合コンに参加などするべきではなかった――。


 初めての発情期。巣作りが空振りしてから早半月。勝手に気まずい思いをして、都を避けていた私は、合コンの誘いを最初は断った。だが先述の通り数合わせに来て欲しいと頼み込まれたのと……もしかしたら、新しい出会いがあれば私の気持ちも変わるかもしれないという下心があり、参加を決めたのだ。


 だが、それは完全な失敗だった。


 やっぱり、私は都が好きだ。都が好きで、そんな初恋をあきらめきれない。都がアルファだろうがベータだろうが、そんなことは些細な問題だ。……そんな自分に気づいた。


 そうなると、合コンの場は居心地が悪い。私は周囲の雰囲気に合わせるように愛想笑いを浮かべ、出来る限り空気に徹して合コンの場を乗り切った。


 しかし、ようやくお開きの時間と思いきや、今度は肝試しにでも行かないかと誘われてしまう。


 私は門限があるからと嘘をついて、集団から抜けることにした。どうやら、私以外のひとたちは存外と意気投合できたらしい。私はすっかり輪の外であったが、私が抜けても他のひとは特別気にした様子はなく、安堵する。


 別れの言葉を口にして、「今日はありがとう」だなんてひと通りの、お定まりのセリフを並べ立てて、手を振って。


 さあ帰るかと踵を返した。


「家まで送ってくよ」


 余計なひとことに、私の足が止まる。私の目の前でへらへらと笑っているのは、今日の合コンのお相手のひとり。


「え、いいよ。悪いし。みんなと肝試し、行かないの?」

「大丈夫大丈夫。それよりもさあ雪ちゃんと話したいし」


 先ほど知り合ったばかりの関係性で、馴れ馴れしく下の名前で呼ばれて、笑みを作っていた口の端が引きつりそうになった。合コンの場でいい雰囲気になったとか、そんなことはぜんぜんなかったからなおさらだ。


「いいよいいよ、悪いから。私ひとりで帰れるし」

「えー、送ってくって。女の子ひとりじゃ危ないでしょ?」


 セリフだけを額面通りに受け取れば、こちらを心配しているということになるだろう。


 けれども名前も思い出せないお相手の、下心がありありと伝わってくる。あわよくば、という思いが透けて見えるのだ。


 一方で、言葉として表れていない部分をそのように推測するのは、邪推ではないかと私の良心が咎める。


 しかし私の本音としては、今日初めて会ったばかりの男性に、自宅を知られたくない。


 こういうときは私の経験上、直感に従ったほうがいい。直感を捻じ曲げて、言い訳しながら別の選択肢を取り、あとあと後悔したことは数知れない。


「送ってあげるよ。ほら行こう」


 馴れ馴れしくノースリーブで露出した肩を触られて、鳥肌が立った。顔が引きつる。しかし、肝心なときに言葉に詰まって、上手いかわし方が出来なかった。


「雪さん!」


 聞き慣れた声に振り返る。


「は? オッサンだれだよ」


「――都!」


 私は飛び跳ねたい気持ちで都に駆け寄った。


 つい先ほどまで私に粘着していたお相手は、ぽかんとした顔でこちらを見る。


「都、ありがとう。迎えに来てくれて助かった~」


 私が早口にまくし立てると、都はこちらの事情を悟ったらしく「はい。遅れてすいません」などと言う。


「あの、じゃあ、そういうわけで、送ってもらわなくて大丈夫だから。今日はありがとう。おやすみなさい!」


 相手が間抜けに口を開けているのをいいことに、私は都の腕を取ってその場から急いで離れる。そのまま、まだひと通りの多く明るい駅に飛び込んだ。ちょうど電車が停まっていたので、都の腕を引っ張るようにして乗り込む。


「雪さん、もう大丈夫ですよ」


 暗に、もう腕から手を離して欲しいと言われて、私は素直に都から半歩離れた。電車の中は帰宅の途上にある会社員や、飲み会の帰りらしい大学生ばかりで、私たちに特別目を向ける乗客はいない。


「ありがとう都、助かった」

「困ってたんですね? なら良かった。声をかけて余計なことをしたんじゃないかと……」

「ううん、助かった。こっちが断ってるのに送るってしつこくて」

「同じ大学のひと……じゃないですよね」


 私が通っているのが女子大なのは都も知っている。


「違うよ。今日初めて会ったひと」

「それは……」

「えっと、合コンに誘われて……あ、でも数合わせに呼ばれただけで。そうだ、お酒は飲んでないよ? カラオケに行ったんだけど――」

「雪さん」


 発車メロディが鳴り響く。アナウンスののち、ドアが閉まり、ゆっくりと電車が動き出した。しかしそれらの音や出来事は、どこか遠くに位置しているような気持ちだった。


「雪さんに、お話したいことがあります」

「え、なに、急に改まって……」

「すいませんが、往来の場では出来ない話ですので、雪さんの家か俺の家で話したいんですが……」

「それは、ぜんぜん、いいけど」

「では、どちらがいいですか?」


 私は、下心があってこう言った。


「……私の部屋でいい?」

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