獲物が狩人になるとき
アーベルたちを除く人間。
そして、知性を持ったすべての魔物。
その全員が前線に取り残された人間たちは食料が尽きぬうちに補給路を遮断する魔物たちの排除をおこなうため、まもなく後退を始める。
むろんそこにはアーベルが率いる最強冒険者チームも含まれる。
まず動いたのは取り残された人間たち。
各冒険者チームのリーダーが集まり善後策を検討する。
そして、当然のように常識的な結論に達するわけなのだが、彼らはひとつの問題を抱えていた。
肝心のアーベルがその会議に参加していなかったのである。
もちろん誘いの使者は送った。
だが、アーベルの答えは不参加。
なにしろ、自分たちが対峙することになる魔物は、合計で五十を超えるクヌピとマイムー。
もちろんこれだけならとりあえずなんとかなる。
だが、居座る魔物はそれだけではなく、ネクロエデッセとネクロドラコの集団が少なくてもふたつとリュコスの一集団。
この時点でまともにぶつかれば、勝負の天秤はどちらに傾くかわからない。
そして、そこにマネフィスクスとポネロスが加わったとき、ほぼ勝算がなくなる。
さらに、自分たちの背を撃つ者が現れれば、全滅は確実。
そのような悲しい結末を避けるためには、単独で大軍を粉砕できるというアーベルのチームの参加が必須条件。
というより、自分たちは安全な場所にいてアーベルたちにすべての敵を打倒してもらい、無傷で外界に戻るというのが本音である。
むろん言葉に出すことはなかったが、その場に集まったリーダーたちが漏らす心の声が皆同じ。
いわゆる異口同音だった。
ちなみに、このようなことをこの世界とは無縁な場所では「他人の褌で相撲を取る」というのだが、もちろん冒険者たちの格言でいえば、「他人の松明をアテにする」ということになるだろう。
これは、洞窟探索をする際に進むためには明かりが必須。
つまり、松明をしなければならないわけなのだが、当然使用すれば松明はなくなる。
そこで、松明を節約するため、他の冒険者が使用している松明の明かりで進むというものである。
まさに「他人の褌で相撲を取る」不埒なことを考えていた彼らにはとってアーベルの不参加は不本意の極み。
なんとか魔物の排除に動くよう「たてまえ」を並べ立て説得を試みるものの、アーベルの返答は変わらない。
そして、渋い表情を浮かべる面々を見やり、やや黒味かかった笑みを浮かべたフランシーヌが助け舟を出すように言葉を口にする。
「アーベル。彼らも同じ冒険者。頑なに拒否するのではなく、何か条件を付けて参加するということも考えてはどうなのかしら」
まさに身動きが取れなくなった者たちにとっては助け舟そのもの。
たしかにその場の状況だけを考えれば、フランシーヌの言葉はそう思える。
だが、実際はそのすべてが事前の段取りどおり。
当然そうなれば、それに続くのはやむを得ず妥協を受け入れるアーベルの言葉となる。
「……ただ働きは御免こうむる。だが、何か満足できる報酬が示されれば考えないまでもない」
つまり、戦ってやってもいいが、それに見合うものを出せということである。
一見すると仲間から金をむしり取る悪行に思えるが、もう一方の要求も他者に働かせて実った果実を得ようというようなものだから、必ずしも善良な被害者とは言えないであろう。




