予感
「これだけの戦利品を手に入れたのですから一度後退する。これは十分に理解します。問題はどこまで後退するかということですが……」
「さすがに松明守に任せるのには不安があります。ですから約一日後退したところに組合の補給所に預けるというのはどうでしょう?勇者アーベルの名前を出せばごまかしなど怒らないでしょうし」
フランシーヌはそれまでとは表情と、それ以上に言葉使いを変えてそう提案した。
これは時間のロスを減らし、より早く前に進める方法でもある。
当然アルキタスとタウルスの脳筋兄弟もすぐに賛意を示す。
だが、決定権を持つアーベルはそれに応えず、長い沈黙に入る。
そして……。
「いや。一度外界に戻り、組合に報告した方がいいだろう」
「戦果を?」
「状況を、だな」
自身の言葉にすぐさま反応し皮肉を投げかけたフランシーヌに目をやりながらアーベルはそう応じた。
「一応尋ねる」
「合計二十七体のマネフィスクスとポネロス。奴らはここまでどうやって来たと思う?」
フランシーヌはその言葉でアーベルが何を考えているかを察した。
だが、そのふたりに比べればまだまだ経験が浅い脳筋兄弟にはそれがわからない。
そして、アーベルが考え、フランシーヌが察したものとは別の推論に突き当たる。
「魔法で……」
「ないな」
「ええ。それはあり得ない」
「なぜ?」
「簡単なことだ。奴らは賢い。他の種族を囮や犠牲にしても、自らがそれをおこなうことなどあり得ぬこと。仮に魔法で移動したとしても向かう方向はこちらではなく逆。つまり、前線にいる冒険者たちの背後を襲う」
「これはこれまでの奴らの戦い方から十分に想像できる。だが、実際は違う。では、どのような状況になったら、奴らがこちらに向けて進攻してくる?」
そこまで言ったところでアーベルはふたりの年少者を眺める。
わからないのか。
それとも、気づいたがそれを言いたくないのか。
まあ、どちらでもいい。
時間の無駄だ。
アーベルは大きく息を吐く。
「奴らは正真正銘前線を突破しここまでやってきた。しかも、背を気にすることなく進み続けていた」
「そして、それが何を意味するかといえば……」
「これより先にいる冒険者たち。その大部分は……」
「奴らに狩られた」
「狩られた?」
「だが、この辺はまだ中間地点付近などだろう。この先にだって冒険者は相当いるはず。もちろん松明守だって。しかも、前線付近の冒険者は皆名うての者ばかり。その中には有名な『スーブラキ』、『墓知らず』、『虹色の夜明け』も含まれている。それ以外にも『血色の祭典』や『戦斧』、『破壊の翼』だって……」
「アーベルはそれら全部のチームが狩られたと考えているのか?」
「ああ」
「私も同じ。そうでなければ用心深いマネフィスクスとポネロスがここまで進んでくるはずがないのだから」
「なるほど」
「つまり、ふたりは魔物の大攻勢が起きており、俺たちが倒したマネフィスクスとポネロスはその先陣ということか」
「そういうことならすぐに下がらねばならないな」
「そういうことだ。もっとも……」
「魔物の大攻勢がここ第二洞窟コラシだけかは疑問なのだが……」
そして、第三洞窟でも同じような大攻勢が始まっていれば……。
カッシーニたちも巻き込まれているかもしれない。
そうなれば、強化されたとはいえ、さすがに生き残るのは厳しいだろうな。
そのおこないにふさわしい惨めな死に方をするわけか。
あいつらは。
「……まあ、それも運命というものだ」




