憎まれ者世に憚る
自分の能力を奪い、そして、捨てた「チーム・黄金の盾」の元仲間たちは魔物たちの大攻勢に巻き込まれ、洞窟の隅で無残な死体となっている。
アーベルのその予想。
実をいえば、それは半分ほど当たっていた。
アーベルたちがマネフィスクスとポネロスと出会った時から数日ほど遡った第三洞窟ヴァシス。
そこで前線へ向けて進んでいた「黄金の盾」の一行。
まず、異変に気づいたのは、先行していたセルシードだった。
「……やばいな。これは」
そう呟いたセルシウスは踵を返すと、舗装された道ではない薄暗い洞窟を物凄いスピードで引き返す。
途中で数組のパーティと出会うものの、挨拶もなしで通り過ぎ、たどりついたのは、のんびりの水を飲み、干し肉を齧る仲間のカッシーニとダレスト、そして、今回臨時に雇っていた女魔術師のアフア、それから荷物持ちの駆け出し冒険者カレーニョとバラウカが待つ岩場だった。
「カッシーニ。すぐに撤退だ」
「どうした」
顔色の変えたセルシウスの言葉にすぐに立ち上がったカッシーニの問いに、セルシウスは微妙な笑みを浮かべる。
「実際のところ、俺にもよくわからない。だが、前線で何かが起こっている。しかも、それは並みの出来事ではない。大量の悲鳴。しかも、次々と」
「あれはこちらが一方的にやられている証拠だ。しかも、それが次々と起こっているということは単なる奇襲ではない」
「どちらかといえば、掃討戦に近いものだ」
「とにかく、この戦いはやばい。どのような奴らが来るのか確かめたいところだが、ここは生き残ることだけを考えるべきだ」
「もし、反対なら、俺だけも逃げるが……」
「冗談ではない」
「俺もダレストもおまえの危機感知能力を疑ったことはないぞ。当然俺たちも逃げる」
「全員、最低限の荷物だけを持って逃げろ。ただし、水、食料、武器、治癒薬、毒消しは忘れるな」
「戦利品はどうしますか?」
「廃棄だ。そんなものはまた手に入る。とにかく、おまえたちがまず逃げろ」
「行け」
臨時雇いの三人を先行させて逃がすと、カッシーニは大きく息を吐く。
「セルシウスが言うような状況なら大丈夫だとは思うが、この前のように転移して待ち伏せしているということもあり得るからな」
そう。
カッシーニがアフアたち三人をまず退避させたのは、やさしさなどではなかった。
自分たちに先行させ、待ち伏せを確認させる役として放ったもの。
つまり、自分たちが生き残るために生贄にしたということである。
「さて、俺たちもそろそろ行こうか。背中を襲われぬうちに」
「セルシウス。先行しろ」
そして、そこから「黄金の盾」の逃避行が始まる。
それから、二日後。
ついに三人の耳に小さいが悲鳴が聞こえ始める。
「間違いない。あの様子では俺たちがあの場に留まっていれば魔物どもと接敵していたことは避けられなかった」
「ああ」
「だが、このまま後退しているわけにもいかないだろう」
「足止めする」
「迎撃するのか?」
「いや。天井を落とし、道を塞ぐ」
「前方にいる奴らには申し訳ないがやむを得ない」
「ああ。ついでに周辺に松明を積み上げ火をかけよう。ただでさえこの辺は出口から遠く空気が悪い。それだけやれば、進めるのは下級種族だけだ」
「承知した」
そして、それはすぐに実行に移される。
「とりあえず助かったようだな」
「ああ。だが、恨まれるだろうな。残された奴らからは」
「だが、生き残るためだ」
結局、カッシーニたちの行動は功を奏す。
炎で熱した岩を急激に冷やして割り、さらに雷撃を落石により衝撃を与える。
人間、魔物双方が使う魔法を使った伝統的な落石術により道を防がれただけでも進むのが困難なうえに大量の薪が焚かれたことによって起こる、某世界の知識を使えば、酸素濃度の低下、一酸化炭素か二酸化炭素かはわからぬもの、とにかく人体に害になる気体の濃度の上昇による空気の悪化。
それはカッシーニの言葉通り、人間だけではなく、魔物側にも害となり、そこで影響を受けることがないのは下等生物風のものだけ。
やむを得ず、これ以上の進撃は中止され、洞窟を一気に抜かれる危機は脱した。
むろん、「黄金の盾」の行動を非難する者も多かった。
だが、それによって最悪の事態が免れたことも事実。
罪を問われることはなかった。
そして、この出来事を知ったアーベルはこのような言葉を残している。
「悪人ほど長生きする。この格言が正しかったことをカッシーニたちは証明したことになる。さすが、悪党の悪党ということか」
「まあ、そうは言っても、俺がその場にいても同じ判断をしただろうからカッシーニたちの行動は間違っていない。だが……」
「それと同時に、第二洞窟、第三洞窟。その両方で主力冒険者チームの大半を失ったのだ。これから我々は相当厳しい戦いを強いられることになるだろう」
「もっとも、それは、生き残った俺たち、それからカッシーニたち『黄金の盾』の価値が格段に上がったということでもあるのだが」




