勇者の狩り
死に直結するポネロスの毒剣を頂戴しないように戦う。
それは間違っていない。
そして、そうであれば、その方法は徹底した魔法攻撃。
遠距離攻撃であればもちろん弓矢という飛び道具を使う手段もあり、遭遇戦でもないかぎり、剣での戦いの前にまず弓矢を用いた攻撃がおこなわれるのが洞窟内の戦いの常道なのだが、残念なことにアーベルのチームにはその使い手がいない。
双方がほぼ同時に接敵に気づいたものの、敵の種族を確かめたところで攻撃を始めたアーベルたちに対し、魔物たちはすぐさま攻撃を始めたため、先手は魔物側となる。
ただし、クロエの魔法の盾は強力であり、第一波としてやってきた弓矢、それから火球群をすべて跳ね返す。
そして、接敵額実になった以上、視界はできるだけ確保すべき。
「気づかぬ場所から接近されては面倒だ。松明を前方に投げ、明かりを確保しろ」
「クロエは氷剣で応戦。ポネロスの排除の優先的に。もちろん全部倒しても構わない」
一瞬後、大量の光が魔物の集団に目掛けて放たれる。
「第二射」
反撃はない。
相手が数十とはいえ、わずか二射でほぼ制圧。
しかも、それは魔法の盾を展開した敵。
アルキタスたちにはあのように言ったが、これだけの結果を見てしまうと、これに頼りたくなる誘惑を打ち払うのは相当難しいな。
敵の反撃がないのを確認したところでアーベルは自身に言い聞かせるように心の中でそう呟く。
ただし……。
「死んだふりをしてこちらが近づいてくるのを待っているかもしれない。クロエ。さらに氷剣をさらに二射」
そして、それからしばらく経ったところで、ようやくフランシーヌ、アルキタス、タウルスを前進させる。
むろん、三人は動かくなくなった魔物たち一体ずつに剣を刺していく。
戦いが終われば、敵も味方もない。
双方の死者を丁寧に埋葬すべし。
これがこの世界の騎士道のひとつ。
だが、洞窟での戦いでは、そのような考えは通用しない。
死んでいるとわかっていてもさらに剣を刺し、自らの手で死を確認する。
それを怠って背後から襲われ自らが死者となった者たちのことを考えれば当然のことである。
そして……。
「では、始めようか」
アーベルが一撃で敵を確実に仕留められる巨大な火球ではなく、氷剣で攻撃するようにわざわざクロエに指示した理由。
それは……。
魔物たちが持つ武器や治癒剤などを奪うため。
特に今回の相手はこれまでは自身の持つ力のすべてを出さなければ勝つことができず、切り札である火球を使用しないなどという贅沢なことは言っていられなかったマネフィスクスとポネロス。
つまり、クロエという圧倒的な力を持つ魔術師がいる今なら彼らの持っている武器やアイテムを灰にすることなくほぼ完品で手に入れられるチャンス。
それにもかかわらず、戦いを素早く終わらせることができるという一点のためにこれまで誰も手に入れたことがない品々を無に帰してしまうなどありえないこと。
つまり、始めるというのは、魔物の死体から持ち物を奪い取ることであり、当然ながら、騎士道は対極にある行動といえるだろう。
ただし、アーベルがこれだけ戦利品に拘ったのは、金儲け以外にも理由がある。
ポネロスの剣に塗られた毒を手に入れる。
これによって薬師たちがワフアーの命を奪った毒の解明をおこなうことが出来、解毒剤の開発ができる。
むろん、これだって自分のたちの利となるわけなのだが、それとともに多くの冒険者たちの命を救うことにもなる。
「俺たちは洞窟の中を這いずり回る冒険者であって騎士道精神溢れた正義の味方などではない」
「それに俺たちは常に命を張って戦っている。だから、安全な場所にいる奴らに「邪道」、「人の道を外れている戦い方」とどれだけ批判されようがその戦い方に恥じ入る気持ちは全くないし、倒した敵から遺品を奪うことも生き残った者の当然の権利だと思っている」




