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仲間に裏切られ最低ランクへ落とされた元勇者は謀略だけで生きていく   作者: 田丸 彬禰


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成功の前に準備あり 失敗の前に準備なし

翌日、アーベルはチームメンバー全員を集め出発する。

ただし、出向いた先は洞窟ではなく武具屋だった。


「アーベル。ここに来てまだ何か買うものがあるの?」


このチームに遥か昔からいる小姑のような雰囲気を漂わせるフランシーヌがあきれ顔でそう言うと、いつもは彼女とは正反対の言葉を口にするアルキタスとタウルスも珍しくそれに同意するように大きく頷く。


「それについては同意する」

「俺も」


「アーベルは武具を眺めるのが趣味なのではないのか?どうせ、これからここに並ぶ武具屋全部に入るのだろうから」

「いやいや。それは違うぞ。わが弟よ」


「いつもと同じであれば、この後に薬師の店に行き、治癒剤や解毒剤を眺める。そして、その次は携帯用食料、それから、薪や松明も見る」


「つまり、アーベルは武具を眺めるのが好きなのではなく、品物を眺めるのが好きなのだ。もしかしたら、その店で働く売り子の品定めをしているかもしれない」

「あり得るな。そういうことであれば、薬師の店『カリコーレ』で働く娘が一番だな」

「いや。俺としては果物屋『ウエヌスタ』の娘の方が上だろう」

「たしかに。あの娘も捨てがたい」

「なるほどな。だが、残念だが……」


「俺は店に行って売り子ばかり見ているおまえたちとは違う。それに……」


「自チームに魅力的な女がふたりもいるのに、なぜ眺めるだけのためにそんな手間をかけなければならないのだ」


むろんアーベルのその言葉はふたり分の鼻白む様子を生み出す。


「アーベル。そういうのは忖度という」

「それに、チーム内の恋愛は禁止だというのが冒険者の常識。今の発言は問題だ」


むろん、弟の嫌味に続いたアルキタスの言葉は冗談である。

だが、真実を含んだ言葉でもある。


冒険者の恋愛の禁止。


むろん冒険者組合の定める禁止行為にはそのようなものはない。

だが、それと同時に冒険者の中での暗黙の了解となっている。

チーム内の不和の原因。

それがその理由となる。


だが……。


「……チーム内の恋愛は禁止すべきという話はもちろん俺も知っている。だが……」


「自チームのメンバーを称えるのと恋愛行為は違う」


「おまえたちはその程度のこともわからないのか。それに……」


「アルキタスに問う。もしかして、おまえは彼女たちに恋愛感情を持っているのか?」

「あるわけがないだろう」

「タウルスはどうだ?」

「俺だってないぞ。ちっとも」

「そうであれば、俺が彼女たちと恋愛関係になってもおまえたちは何も不利益になることはない。つまり、俺が彼女たちと恋愛関係になっても全く問題ないということだ」


瞬殺である。


「アルキタスとタウルスに騎士道精神があることがわかったところで、フランシーヌの問いに答えることにしようか」 


「俺が武具屋や薬師屋に頻繁に通う理由。それはより良い品が入っていないか。それを確認するためだ」


「俺たちは今後クロエという才能溢れる魔術師の加護を受けることになる。だが、それに頼ってばかりいてはならない。自身の攻撃力、防御力を上げ、さらに、彼女の能力を使うことなく必要な治癒行為をおこなえるようにしなければならない」


「次にやってくるギリギリの戦いのために彼女には余力を残しておいてもらわねばならないからだ」


「もちろんそのために鍛錬を欠かしてはいけない。だが、それと同時に一日や二日の鍛錬で飛躍的に能力が伸びるわけではないことを事実。それに対し、治癒剤や魔法水晶は対価を払いそれを手にするだけで鍛錬では簡単に手に入らない能力が手に入る。しかも、それが最新のものとなれば、その効果は計り知れない。それが店回りをするだけで手に入るのだ」


「もちろん何も得ることなく終わることも多いし、どれだけ努力しても望んだものがすべて手に入るわけでもないのだが、手間を惜しまず出来るかぎりの準備をする。それが戦いに臨む者の心構えであると俺は思っている。そして、俺と『黄金の盾』のメンバーはそうやって成功し多くの富と名誉を手に入れ羨望の眼差しを向けられた。だが、俺たちの成功を羨ましがった連中の多くは俺たちの半分も準備に時間をかけていなかった」


「むろん、面倒だからといって誰でもできるような準備すら怠り、ノリと勢いだけで戦いの場に向かう奴にだって成功はやってくることはある。だが、それは必然ではなく偶然。つまり、幸運に属するものだ。それに気づかぬまま愚かな行為を続けていると、そう遠くない未来に必ず準備を怠った報いがやってくる。そのような奴らがどのような死に方をしようが俺はかわいそうだとは思わない」


「それは自らが招いた結果なのだから」


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