治癒魔法
「そして、これから探索をおこなううえで大事なこと。それは……」
「治癒魔法だ」
「もちろん死ねば助からないのはわかる」
「そして、魔法で治せるのは切り傷と骨折くらい。これが自分の経験と周りの冒険者たちの様子からの知識となる。魔術師協会では治癒魔法についてどのような知識を授けているのか?」
そう。
冒険者に同行する魔術師の重要な役目は治癒行為となる。
魔術師がいないパーティはその代替として大量の治癒剤を洞窟内に持ち込まねばならない。
むろん効果の価格は比例するのだが、これは命に直結するものだからケチるわけにはいかない。
だが、それとともに大きな負担になる。
多くのパーティが魔術師を勧誘するのはこのような理由があるからだ。
以前アーベルが属していた「黄金の盾」では、魔術師であるダレストのほかに、アーベルも魔法の使い手であった。
そのため、戦いの主はアーベル、治癒を担当するのが主にダレストと魔術師の役割を分担できた。
だが、新しいチームである「プロドロモス」ではクロエひとり。
つまり、戦闘と治癒、その両方をおこなわなければならない。
もちろん魔力は十分。
だが、魔法はその知識がなければ行使できない。
その知識をどれだけ得ているのか?
アーベルが尋ねたのはそういうことである。
いうまでもなく、正式な魔法の勉強をしていないアーベルやダレスト、そして、多くの冒険者チームに属する魔術師は仲間うちの情報交換で覚えたものが主であるため、扱うことができる治癒魔法は初歩的なもの。
多くの毒に対する処置や重篤な状況から回復させるには高価な治癒剤が必要だった。
クロエは魔術師協会会長の娘。
当然最高位の治癒魔法の知識も得られているのではないか。
それがアーベルの推測であったのだが、むろんそれは外れようもない事実となる。
「死亡。それから切り離された部位の接合はできませんが、そうでなければほぼ確実に治癒できます」
「毒の方は?」
「知られている毒。つまり、治癒剤が完成しているものについてはできます」
「魔力の消費は?」
「簡単な傷の治癒は魔力の消費は五ウニタース。解毒は十五ウニタースから最も高度なものとされている解毒では二百五十ウニタースとなります」
「それと……」
「私の治癒魔法は、身体だけではなく、武具に対しても対応できます。こちらについては剥離したものも修復できます。こちらの魔力消費は五十ウニタース程で済みます」
「……それはいい」
実をいえば、武具の破損は多くの冒険者たちにとって悩みの種だった。
多くの予備武器を持ち込み、それでも結局刃こぼれした武器と壊れた防具で戦いを続ける。
これが多くの冒険者たちの日常であり、その修復のために後方に下がらなければならないため、長く前線には留まれなかったのだ。
だが、魔法によって武具の修復が可能であるのなら、予備武器の持参は不要となり、常に完全な状態で戦えることになる。
アーベルだけではなく、アルキタスとタウルスも大喜びするのは当然のことであろう。
「ちなみに……」
兄弟剣士の弟タウルスがそう言って差し出したのは、愛用の剣。
ただし、よく見れば盛大に刃こぼれをしていた。
「よくこんな剣で戦うつもりでいたな。タウルス」
「こいつは力任せに剣を振るっているのだ。だからこうなっても問題ないのだ」
「そういう兄貴の剣だって相当なものだろう。本来武具屋に払うべき金まで酒代になっているのがその証拠。出してみろよ」
渋々と音を立てながらアルキタスが差し出した剣は弟のもの以上にひどい状態だった。
「治せるか?」
「もちろんです」
そう言ったクロエは両手を二本の剣に翳すと、一瞬で新品同様の状態になる。
「汚物兄弟は妹に相応の金を支払うこと」




