魔術師の矜持
「……でも」
少しだけ長い沈黙の時間を破ったのはフランシーヌの言葉だった。
「本当は剣での暗殺などより魔法を使ったほうが確実に、そして、準備や逃走という点においてもいいのだけどね」
「たしかに」
そう言ったアーベルは反射的にチーム唯一の魔術師へと視線を動かすと、相手は必死に首を横に振る。
「わ、私はそういうことはやりません。それに……」
「大部分の魔術師も同じだと思いますし、もし、魔術師が魔法を使って暗殺をおこなったとわかれば、魔術師協会は全力で犯人捜しをすることになりますからその後はずっと追われる身になります」
「それは本当」
クロエの言葉をフランシーヌが肯定する。
「魔術師が人間に対して魔法を使うときは自身や家族を守る時のみ。それ以外が使用するときは必ず魔術師協会に許可を取ることになっている。それを破った者は例外なく罰せられる」
「協会の会長であっても?」
「当然でしょう」
「そのための監視体制もあります」
「……ほう」
アーベルは疑わしそうに目を細め、その言葉も冷気を帯びる。
「どのような?」
「簡単に説明すれば、監視組織はふたつ。ひとつは協会直属のもの。もうひとつは協会に属していない者たちが運営するもの。そして、同等の力を持つ両者は相互を監視している」
アーベルからやってきた問いに答えたのは再びフランシーヌ。
彼女はさらに言葉を続ける。
「まあ、それくらいやらないとダメだということね。だけど、そのおかげで少なくても魔術師協会の影響下にある場所で冒険者に関わるものに関しては、魔法を使った暗殺は極端に少ない。毒も解毒剤の普及と治癒魔法の発達によりほぼ成功しない」
「その点、首を刎ねれば、どんな治癒魔法も利かない。もちろん心臓を貫くような致命傷も。剣による暗殺が主体なのはそういう理由」
「もしかして知らなかった?」
「ああ」
「それは残念。そう仕向けていれば魔術師協会のお尋ね者にできたのですから」
もっともアーベルだってそのようなことをする必要が出てきた場合には間違いなく自信のある剣を使い確実に仕留めることになるので、魔法を使うということはないだろう。
そもそも、そのような事態になるのは相手からの攻撃を受けているということになるのだから、魔法を使おうがお咎めなしということになるのだろうが。
「だが、今の話は非常に参考になった」
「今後何かの機会に使えそうだ」
「それは結構なことで」
黒い笑みを浮かべてそう言ったアーベルに対し、フランシーヌも同じ種類の笑みで応じると、仲間全員を見渡す。
「ところで、今後はどのような体形で戦うのか決まったのかしら。リーダーさん」
「もちろん」
フランシーヌの言葉にそう応じたアーベルは、その相手を見る。
「まず、斥候役。フランシーヌ。戦いの最中は最後衛」
「前衛はアルキタスとタウルス」
「おう」
「その後ろに俺とクロエ。クロエは俺の指示に従って魔法を使う」
「はい」
「剣の攻撃が足りない場合は?」
「フランシーヌか俺が加わるしかないだろう」
「あなた、剣を使えるの?」
「もちろん」
フランシーヌの驚きの声にアーベルはすまし顔で応える。
「魔力を完全に失った以上、魔法はもう使えないだろうが……」
「剣は鍛錬を重ねればそれなりに使えるようになる」
「さすがに以前のように重い大剣を振り回すことはできないのでマイムーやアグリオスのような力自慢の魔物は厳しいが、そうでなければそれなりに対応できることだろう」
「だが、それは緊急時のこと。俺の役目はあくまで命令を出すこと。そして、おまえたちは俺の命令に従って戦うことになる」
ちなみにこの世界の戦闘は、剣士と魔術師でおこなう。
そして、生まれつき魔力を持った者だけがなれる魔術師が使うこの世界の魔法は火球や氷剣を作り出し飛ばすような攻撃魔法、一時的な盾のようなもので攻撃を防ぐ防御魔法、それから治癒系の類だけであり、いわゆるバフ、デバフと称される支援魔法や、精神系魔法、探知系魔法、召喚魔法などは存在しない。
だからこそ、魔物たちが使用し始めた第四の魔法と呼べる移動系の魔法はそれを使うことができない人間たちにとって脅威となるのだ。




