やってきた者は
「ところで、会長。もうひとり推薦者がいるということだったが、その者にはいつ会えるのかな」
「さあな。あれは気まぐれ。だが、勇者アーベルのことは伝えてある。そのうち現れるだろう。その者が使えるかどうかは自身の目で確かめてくれ」
「私もクロエも何も言わない。その方が余計な先入観がなくていいだろう」
「つまり、あなたたち親子に近い者ということか」
そう言ったアーベルはニヤリと笑うものの、相手は動じることなくこう返す。
「まあ、察しのいい勇者アーベルならそう言うだろうと思った。だが、その上でそう言った可能性も考慮に入れておくべきだろう。すべてが会った時のお楽しみというところだ……」
そして、二日後、その者はアナクシマンダーの言葉どおり、何の予告もなく突然アーベルたちの前に立つと、こう言い放つ。
「こんにちは。『負け犬』の皆さん」
負け犬。
それは、仮称とはいえ、アーベルたちのチーム名であるのだから、その言葉に間違いはない。
だが、その言葉はあきらかに本来の意味を強く感じさせるものだった。
そして、それ以上に感じたのは殺意。
いや。
強烈な殺気。
それを感じたタウルスがまず剣を抜き、それから兄もそれに続くが、アーベルはそれを制す。
そして……。
「いやいや。こちらこそ」
「お初に……いや」
「『黄金の盾』時代に何度かお目にかかっていますね。チーム『暁の乙女』のリーダー、フランシーヌ。いや。有名な冒険者殺しとして最高の賞金首だった『幻の女殺し屋』グレイシー」
そう。
目の前に立っているのは女性。
年齢は二十代半ば。
金髪、青い目。
そのハッキリした顔は十分に美人と表現できるものであったのだが、その美しい顔でさえ首から下のフォルムの魅力には到底敵わない。
しかも、あからさまにそれを強調する服装。
これが自分自身さえ武器としているこの女性の戦略である。
これまで戦いに明け暮れていたため、そのようなものの魅力にあまり縁のなかった兄弟剣士は固まっているが、むろんこの手の者に対する耐性はふたりよりも格段にあるアーベルは興味なさそうに視線を逸らし言葉を吐き続ける。
「あなたへの賞金はすでに支払われたと聞いた。それなのに、なぜあなたは生きている?もしかして、この世に未練があったので幽霊にでもなったのか?」
強烈と言えるアーベルのに皮肉。
それに対して女は笑みで応じる。
「まさか。実際のところ、私の顔を知っているのは、私の襲撃を三回撥ね退けたあなたとあなたの仲間だけ。適当な獲物を狩って冒険者組合に提出して賞金を貰っておきました」
「あなたが生きているということはそういうことなのでしょう。ですが、そんなことはどうでもいい」
「三回も見逃してやったというのに懲りもせずまたやってくるということは、余程首を落としてもらいたいらしい。そういうことであれば、今度こそその願いを叶えてやることにしようか」
「それは楽しみ」
女はそう言って笑う。
「ですが。今のあなたは三回にわたって私の剣を折ったあの時の実力を失ったただの口だけ男。そのあなたがどうやって私の剣を止めるのでしょうか。できるものならやってみなさい」
「と、言いたいところなのですが……」
「今日、ここに来たのは……」
「そこのお嬢さんの護衛をしろという依頼を受けるため」
「本当は受けたくなかったのですが、多額の借金のある父親からの頼み。そして、可愛い妹からも懇願されたから」
「……なんだと」
アーベルは振り向き、クロエに目をやると、相手は大きく頷きそれを肯定する。
つまり、自分の命を狙っていたこの賞金首はクロエの姉。
「くそっ。図ったな。あの爺」
自身の権力保持の足枷となる面倒ごとをまとめて押しつけてきた魔術師協会会長を心の底から呪ったアーベルは相手の顔を睨みつける。
「たしかに今の俺は以前のようには強くない。だが、このふたりは昔の俺と同等だ。その気になれば……」
「無理ね」
相手はアーベルの言葉を遮ってそう断言すると黒い笑みを浮かべる。
「あの時だって剣の腕だけなら私はあなたと互角。ですが、あなたには魔法があった。だから勝てなかった」
「あの時ほど魔法が使えないこの身を恨んだことはなかったわよ」
「つまり、剣だけの勝負ならそこのガキ程度ふたりでも三人でも負ける気がしない。そのガキを倒すことがチームに加わる条件ならすぐに承知するけどどうかしら」
「アーベル。やらせろ。俺がこいつを斬る」
「いや。兄である俺がやる」
むろんグレイシーの言葉は軽い挑発なのだが、すっかり彼女のペースに嵌ったふたりは完全にそれに乗ってしまう。
「いいわよ。ふたり一緒でも。お姉さんがたっぷりと可愛がってあげる。まずは全裸になりなさい」
「ふざけるな」
「殺す」
「やめろ」
更なる挑発にいきり立つふたりが一歩踏み出したところで、アーベルが止める。
「わかった。俺の指示に絶対に従う。それから揉め事は起こさない。それを誓えるのなら入れてやる」
「どうだ?」
「もちろん。いいわよ。そのつもりで来たのだから。私は」




