転移魔法の弱点
最初はぼんやりとしていた姿が徐々に実体化してくる。
その様子を表現するのならそのようなものだろう。
アーベルはその様子を観察する。
動かずに。
だが、目の前に敵が現れればすぐに動いてしまう猪武者はそうはいかない。
「先手必勝」
その怒鳴り声とともにアルキタスとタウルスは猛然と姿を現したリュコスの群れに斬りかかる。
「馬鹿。やめろ」
同じ猪武者ながらこの策の本質を理解していたカッシーニは当然動かず、そう叫ぶものの、ふたりの勢いは止まらない。
「貰った」
アルキタスの大剣がリュコスの群れを薙ぎ払う。
だが、リュコスたちは大剣が迫っても抜剣はもちろん、避けることもせず、ただ斬られるまま。
タウルスに斬られたリュコスの反応も同じ。
「くそっ」
「感触がない。偽物か。ということは、貴様の魔法か」
そう。
確かに斬った。
だが、感触はなく、倒れる様子もない。
言ってしまえば、まるで幻影を斬っているようだ。
怒号とともにふたりはあらたな獲物としたのは、その集団の最後方にいた前線に現れることが珍しい剣の代わりに杖を持つ魔物マギア。
その身体をふたつの剣がほぼ同時に貫くものの、再び感触なし。
「くそ。こいつも幻影か」
タウルスがそう言って舌打ちした瞬間だった。
魔物たちの身体は実態化した瞬間に切り裂かれ、次々に倒れていったのだ。
むろん、まだ多数のリュコスが残っている。
だが、まだようやく本物の敵を見つけたとばかりにふたりの若者は転移直後で戦闘態勢に成り切れていない敵に斬りつけ、次々に打倒していく。
さらにここでようやく動き出したカッシーニも戦闘に加わり、さらにダレストも火球を撃ち込む。
戦いが終わった後に残されたのは三十四体のリュコスと一体のマギアの死体。
そのうちのマギアを含む二十七体を兄弟剣士が討ち、三体をカッシーニ、残りをダレストが仕留めた。
「……なるほど」
アーベルはすべてを理解した。
「結果的にはアルキタスとタウルスの盲進によってわかったわけなのだが、転移魔法は完全に実態化するまで身体の自由が利かない」
「すなわち、狙うのならこの時ということだ」




