撒き餌
それからまもなく、前線でこのような噂が流れ出す。
勇者アーベルが第三洞窟ヴァシスの魔物たちの討伐に乗り出す。
彼らの言葉を借りれば、勝利を確実にする手段はあるが、長い訓練が必要。
そのための訓練場として選ばれたケーポスコキノに暫く留まるそうだ。
むろん、それは魔物を呼び寄せる撒き餌であるのだが、問題はそのケーポスコケノは冒険者たちが命名したものであり、どこを示すのかは当然魔物たちにはわからないことだった。
「来るのか?本当に」
魔物にその情報を手に入れ、さらにその場所を特定する手立てはあるのか?
いや。
そもそもアルキタスとタウルスは、魔物たちの中に人間の言葉を解する者がいることすら知らない。
ふたりの新入りがそう言って疑うのは当然である。
だが……。
「まあ、奴らが俺たちの動きを知る術があるかどうかは知らないが、例の魔法を使って俺たちの背後を取ろうとしているのは間違いない。そういうことであれば、待っていればそのうちやってくる。俺とアーベルの話し合いの結果、そういう結論に達した」
「そういうことだ。奴らが当たりを引けば、俺たちのもとにやってくる」
不満顔のアルキタスとタウルスを、カッシーニに続き、アーベルもそう言って宥める。
「来なかったら?」
「まあ、その時は奴らに幸運があり、そして、俺たちにはそれがなかったと諦めるしかないだろう。俺たちがケーポスコキノについて二十日経ってもその兆候がなければ戻ることにする」
そうは言ったものの、もちろんアーベルには自信があった。
あれだけ煽り文句まで加えてあるのだ。
早々に動き出す。
そして、奴らがケーポスコキノを見つける方法などひとつしかない。
洞窟を探索中の冒険者を捕え、情報を聞きだす。
そして、当たりをつけたところでしらみつぶし転移する。
「つまり、最初の兆候が出ればまもなくやってくるということになる」
そして、アーベルたちが罠を張って待ち構えてから五日後。
前線からこのような情報が流れてくる。
探索中の冒険者が多数の魔物に襲われる事件が多発している。
もちろん、それは日常茶飯事。
それだけであれば取り立てて聞き耳を立てるものではない。
だが、その中のいくつかには、殺さずに生きたまま拉致された者が数人いるというものがあった。
アーベルはニヤリと笑う。
「間違いなく掛かったな」
「そうなれば、次はこれからこの周辺で魔物を見かける事例が出てくる。そうなれば……」
そして、アーベルの言葉とおり魔物を見たという情報が二件ほど届く。
「まもなくだな」
それから二日後。
遂にそれが現実のものとなる。
「来たか」
アーベルはその様子を見ながらそう呟いた。




