動き出すチーム負け犬
始まりの町ゴクレニウスからコラシまで徒歩で三日。
そして、洞窟に潜って十日間。
当初の目的であるふたりの剣士の技量見極めを終了した「負け犬」は洞窟近くにある拠点コルディリネに戻ってくる。
食糧や水などは十日分だけ持参していたので予定通りといったところだ。
そして、戻ってきたその日の夜。
コルディリネ最大の酒場「ピクロセニア」で三人は祝杯を上げる。
「それで、俺たちは合格か?アーベル」
アルキタスはそう尋ねるものの、むろん、ここまでの間にアーベルの口から洩れる言葉から合格を疑っていない様子であった。
「むろん合格だ」
「だが、修正する部分もたくさんある。それはこれから厳しく鍛えていく」
「そうか。よろしく頼む」
兄弟はむさ苦しいその見た目では信じられないが十八、十六だという。
若い。
いや、幼いと言ってもいい。
もっとも、彼らの年齢を聞いてそのような感想を持ったアーベルも冒険者になって四年の経験を持つものの年齢は十九。
だが、これが冒険者の現実なのだ。
ここで冒険者の現状を少しだけ説明しておけば、いわゆる正規軍所属の騎士や兵はこの洞窟探索には殆ど加わっていない。
その代わりが一攫千金を求めて冒険者になる若者たち。
といっても、その大部分は少年。
そもそも剣に生きる少女が少ないのだから当然ではあるのだが。
そして、その二割は一年も経たずに脱落。
さらに一割は洞窟で一生を終える。
冒険者を始めて三年が過ぎる頃には半数以上が姿を消す。
そして、残った者がベテラン冒険者と認定される。
むろん、命を削る仕事だけあり探索を始めて五年もすれば相応の蓄えができ、二十歳、少なくても二十五歳には生き残った者の多くが冒険者稼業から足を洗う。
だが、心配はいらない。
彼らの代わりはすぐにやってくるのだから。
冒険者が少年ばかりの理由。
それがこのような事情となる。
もちろん、何事にも例外はある。
冒険者たちの憧れの的である大レジェンド、アベルフェーダのように三十歳を過ぎても現役である者もいるのだが。
そして、冒険者チームに欠かせないのが魔術師である。
むろん、アーベルのようにいわゆる魔法剣士と呼ばれる魔法を使う剣士もいる。
だが、多くの冒険者は剣士。
そうなると、魔術師の同行が必須となるのだが、剣士の数に比べて魔術師の数は少なく、魔術師を含まない冒険者チームも多い。
そのような者たちが持参するのが、魔法が込められた水晶球である魔法水晶となる。
ただし、この魔法水晶は使用回数に限りがあるうえ、非常に高価である。
ちなみに、探索に加わる魔術師の男女比はほぼ同じである。
「ところでアーベル」
弟剣士の肉の塊に食らいつきながら話しかける。
「残りはどうするのだ?」
「残り?」
「魔術師とマッピング担当だよ」
「魔術師は最悪、魔法水晶で代替させるにしても、マッピング担当はそうはいかないだろう」
そう。
冒険者チームを構成するもうひとつの要素が探索係や索敵係とも呼ばれるチームに先行して探索をおこない経路を確認するマッピング担当である。
一見地味ではあるが、暗闇の洞窟を進む探索活動においては、このマッピングは非常に重要で、彼らなしで洞窟探索をおこなうのは自殺行為といえる。
やみくもに洞窟を進めば、あっという間に迷子。
そして、洞窟内で迷子になれば、死を待つのみ。
当然ながら、有能なマッピング担当は引く手あまた。
その多くは高給で金持ちチームへ移籍していく。
逆に言えば、金さえ払えば引き抜きが可能というわけである。
「どこかのチームの者を引き抜くのか?」
「それでもいいが、そいつが本当に役に立つかを確認してからだ。それまでは俺がやる」
「なるほど」
ふたりはようやく気づく。
狩場まで三人で出かけ、そこから迷うことなく戻ってきた。
その時は不思議に思わなかったが、自分たちにはいるべき先導する者がいなかったのだ。
つまり、先頭を進んでいたアーベルがその経路を把握していたのである。
「……アーベル。あんたは本当にすごいな」




