勇者との別離
洞窟内点在する冒険者組合直営のキオスクのひとつ。
当然そこで働いている者ならアーベルの顔と名は知っている。
さらに、洞窟内でアーベルが行方不明になったと残った三人から報告があったばかり。
その三人が洞窟の出口へ向かってからそう時間が経たないうちに、そのアーベルがやってきたのだから、驚かざるを得ない。
そして、クロエはここでようやく自分を助けここまで連れてきたアーベルという名の男が勇者チームとも呼ばれる「黄金の盾」のリーダーであり最高の冒険者で勇者の称号を得ている者だったと気づく。
「……アーベルさんは、勇者だったのですね」
「元、勇者だな」
クロエが眺め直しながら呟いた言葉にアーベルはそう言い直す。
「勇者なら駆け出し冒険者に飯をたかるなどという恥ずかしいことはしないだろう」
「今の俺は、本当に『元』勇者なのだ。金だけではなく、剣技、そしてある程度は使えた魔法も完全に失っているのだから」
「どうして?」
「さあな。おそらく魔物の秘宝の影響ではないのか?」
「ですが、そうであっても……」
これまで一緒にやってきた仲間を見捨てるなど許されることではない。
クロエの顔はそう言っていた。
だが……。
「『黄金の盾』はこれからも勇者チームであり続けなければならない。そうであれば、才能が無くなった奴と一緒に探索はできない」
「しかも、そいつははぐれてどこかに行ってしまったのだ。それこそ、これ幸いだろう」
「ですが……」
「こうなってしまった以上、俺もあいつらと一緒にはいられない。荷物持ちとして同行するなど御免被りたいからな」
というより、これは俺とあいつらの問題。
いずれどこかで借りは返させてもらうが、そのためにも俺の力を抜いた奴らに対抗できる力を手に入れないうちは返り討ちに遭うだけだ。
こちらこそ今は顔を合わせたくないというものだ。
ただし、奴らの情報は逐次手に入れておくつもりだが。
クロエに対してはきれいごと並べながら、アーベルは心の中でそう呟く。
「まあ、そういうことで、俺はこの洞窟を出たら暫く休養しながら次の探索の準備を始める」
「クロエはまず魔術師協会に出向き、奇襲について詳しく報告すべきだろう。その後、再び探索に出向くのなら、剣士三人と相応の経験を持った魔術師を仲間に加えるように要求すべきだ。そうでないと、今回せっかく助かった命を失うことになるからな」
「はい」
そして、出口。
太陽の光のもとでみたクロエは、薄茶色の髪、水色の瞳をした薄明りで見た数倍の美少女であった。
何度も頭を下げながら去っていくクロエを見送ったアーベルが向かったのは、もちろん冒険者組合本部。
そこに預けていた私物と金を取り出すのが主目的だった。
そして、知る。
三人はその金を回収しようとしていたことを。
もっとも、それは冒険者組合にある行方不明を報告してから五十日が過ぎないと本人以外は手をつけられないという制度により阻まれたようなのだが。
ということは、五十日後、金の回収にやってきたところで俺が無事であることがわかるわけか。
「ところで、その三人はどうしている?」
「ヴァシスに潜ると言っていた。アーベルが行方不明になった縁起の悪い場所の探索はやめると言って」
「なるほど」
さすがのあいつらでもそうなるか。
「それで、アーベルも後を追うか?」
「いや。俺はコラシの探索を続ける」
「ただし、ひとりで潜るのは厳しい。仲間を集めてということになるが」




