裏切りの儀式
洞窟の奥まで入れば転移魔法が使えない冒険者たちは適当な場所でキャンプするしかない。
むろん、近くに組合の店があれば、そこにある簡易宿泊施設が使える。
だが、そのような場所があるのは洞窟のメインストリートだけであり、支線に入り込めばその場に寝場所を確保するしかなくなる。
安全な場所を選ぶが、魔物の襲撃が絶対にないと言いきれない以上、交代で寝ることになる。
セルシウスが発見したその場所は比較的平坦な場所であり、睡眠を取るには都合の良い場所といえた。
「まず、アーベルとセルシウスが寝ろ」
「ああ」
「では、そうさせてもらう」
カッシーニの提案にまずセルシウスが応じ、続いてアーベルもそれに続く。
「まあ、魔物がいる様子はないが、警戒は怠るなよ」
「心配するな」
「そのとおり。ぐっすり眠れ」
やがてアーベルが寝息を立て始める。
優秀な冒険者の条件のひとつに、どのような場所でもすぐに熟睡できるというものがある。
そういう点においてもアーベルは優秀な冒険者といえるだろう。
だが、この日ばかりはそれが仇となる。
少し離れた場所で横になっていたセルシウスが焚火の火の薄暗い光でアーベルが寝たことを確認したところで音を立てずに起き出す。
「……カッシーニ。アーベルは寝たぞ」
「わかった」
そして、その声とともに、ダレストとともに物音を立てずにアーベルに近づいたカッシーニが、懐から透明な球体を取り出す。
「では、始めるぞ」
「我、メヘレトに願う」
「この男、アーベルの剣技をカッシーニに、アーベルの魔法をすべてダレストに、アーベルの秘儀をセルシウスに奪い与えよ」
その言葉とともに、球体は青色の光を放ち始める。
「やはり、これも魔法を封じ込めた魔法水晶と同じ原理のようだな」
「ああ」
そう。
実をいえば、人間界にもメヘレトと同様の秘宝は存在する。
上級魔術師が水晶に魔法を封じ込める魔法水晶と呼ばれるものだ。
だが、魔法水晶で封じ込められる魔法は魔術師がいれば不要なもの。
つまり、魔術師のいない駆け出しの冒険者ならともかく、多くの冒険者チームにとって魔法水晶はあまりありがたみのないものといえる。
「もし、使い方が違っていたら、この計画は頓挫するところだったが、どうやらうまくいったようだな」
「ああ。魔力が増えていくのを感じるぞ」
「俺も力が湧いてくる」
「俺は何もないな」
そして、その能力の移動が終わったことを示すようにメヘレトは粉々に砕ける。
「さて……」
「抜け殻になったアーベルはどうする?」
「いいだろう。放置で。さすがにここで殺すのは気が引ける」
「そうだな。それに無能力者になった今のコイツでは暗闇の洞窟から出られることはないだろう」
「では、荷物も奪ったうえで放置ということでいいな」
「ああ」
「これまでのことは感謝する。そして、ありがとう。おまえの能力はありがたく使わせてもらう」
「おまえが生きて洞窟を出ることができることを祈っているよ。アーベル」
「剣の腕も魔法も失いだけでなく食料も水も金もない状態で洞窟から出られるのならおまえは真の勇者だ」




