最下級の剣士になった勇者の始めての戦闘
三人の気配が消えた直後。
「……やってくれたな」
囁くような声が漏れる。
そう。
アーベルは気づいていた。
だが、それはメヘレトに能力を抜かれた直後。
つまり、手遅れだった。
むろん、そこで起き、三人の罪を咎めることはできる。
だが、そこまでやった者たちだ。
当然証拠隠滅を図る。
手元には剣はあるが、カッシーニに能力を奪われた今ではとても勝ち目はない。
そうであれば、ここはやり過ごすしかない。
「後をつけるのは簡単だが、物音で気づかれたらまずい。もう少し待つか」
「とりあえず主道に出ればなんとかなるだろうが、よりによってこれだけ複雑な間道……」
奴らは悪事が露見せず、簡単には抜け出せないこの場所をわざわざ選んだ。
「奴らは相当前から計画していたということか」
「メヘレトを手に入れた直後からということか」
「だが、奴らの思い通りに死んでやることはない。それに……」
「出られないことはないのだ。奴らは気づかなかったようだが」
「俺は勇者。伊達にそう呼ばれているわけではないことを教えてやろう」
アーベルはこのような場合を想定していた。
と言っても、仲間に裏切られ、能力を奪われるということではなく、間道に入っての単独戦闘の最中に道に迷った場合に備えてということなのだが、主道への凡その経路を覚える癖をつけていた。
もちろん、これまではセルシウスという優秀な探索者のおかげでそれを生かすことはなかったのだが。
「……秘儀ではなく、知識と経験と指定されたらどうしようもなかったが、とりあえずなんとかなりそうだ。これもあるし」
そう言って懐から取り出したのは火打石と紙。
「剣に服を巻き付け松明代わりにすればいい」
「では、そろそろ行くか」
自身の言葉どおり、意外に早く、アーベルは主道に辿り着く。
だが、それからまもなく、アーベルは一番懸念していた事態に出くわす。
クヌピと呼ばれる緑の肌を持つ人型の小型生物。
それが三体。
そう。
今のアーベルは最弱者の剣士。
むろん魔法も使えない。
そうなれば、この状況は最悪の中の最悪。
「まあ、それでも出会ったのがこの洞窟では最弱の魔物であるクヌピであったことは助かった。マイムーのような力自慢だったら今の俺では厳しかったからな」
「とにかく今はやるしかない」
巻きつけた燃える服を地面に置き、明るさを確保したうえで三体のクヌピを対峙する。
そういえば、こいつらも人間の言葉を解しているかもしれないのだったな。
つまらない情報は与えると不利になる。
できるだけ……。
いや。
それを利用する手もある。
試してみるか。
「おい。見つけたぞ。クヌピ三体。まあ、六人でやるには物足りないが」
わざとらしく存在しない相手に対し、大声で話しかけると、クヌピたちの挙動がおかしくなる。
やはり、わかるのか。
そう心の中で呟いたアーベルはもう一度口を開く。
「おい。早く来ないと逃げられるぞ」
その声とともに、クヌピたちは敗走を始める。
よし。
アーベルは最後方の一体の背に剣を突き立てる。
呻き声を上げて倒れる仲間を置いて残る二体は闇の中に消えていった。
「とりあえずやったが……」
今までは軽く触れた剣が重い。
さすがに今の状態では扱えない。
「貧相なものだが、今の俺にはこちらの剣がふさわしいようだ」
そう言ってクヌピが使用していたケペシュと呼ばれる小型の三日月の剣を手に取る。
「そして、気は進まないが……」
クヌピの腕と太腿の肉をケペシュで削ぎ落す。
「生きて洞窟を出るためには食わねばならない」
そう自分に言い聞かせると、アーベルは目を瞑ってクヌピの肉に食らいついた。




