第6日目(土曜日) 最後の審判
今日が勝負の日だってことなんだけど、いつもの土曜日と何も変わらない朝だった。本当なら悪魔さんと神様の勝負なんだからものすごいことなんだけど、実際には僕とマコトの勝負だもんなぁ。何か戦うスケールがすっごく小さくなっているけど、いいんかいな? 神様と悪魔さんの戦いだったら、急に日食になったり、ありえないような雲がどんどん来たりとか、地震とか、とにかくもうすごい状況になりそうなもんなんだけど、普通にいい天気で何も起きそうも無い普段と変わらない通学路だもんなぁ。
それに今回の勝負って、これからの地球の支配者を選ぶっていうよりも、生きもの係を選ぶだけなんだよなぁ。マコトが勝てば神様で、僕が勝てば悪魔さんが地球の生きもの係。悪魔さんは別に人類を滅ぼしたりする悪いひとじゃないし、実際には神様がいなかった間に起きた地球の危機を救ってくれたいいひとだもんなぁ。
僕は結構いい目にあわせてもらったし、悪魔さんの代理人としてがんばりますか。相手が神様じゃなくってマコトなら、かなり気楽だ。
今日は土曜日だけど、何か私服で学校に入るのって変な感じ。あ、前を歩いているのはみさきちゃんだ。
「おはよう! みさきちゃん。」
「あ、おはようございます、ユウさま。」
え、あれ? みさきちゃんに頭まで下げてもらって、礼までしてもらったんですが? それに、さま? ございます? いったいどうなってんの?
「今日の君は、ユウであって、私でもあるんだよ。」
悪魔さんの声が聞こえてきた。
「それに彼らも今日は普通の状態ではないんだよ、もちろん。」
ふーん、そうなんですか。でも、みさきちゃんにあんなふうに言ってもらえるなんて予想外だったな。うれしいような、何か全然違うような…。
教室に入ると、みんなの声がいっせいに聞こえてきた。
「おはようございます、ユウさま。」
…すっごい違和感。何これ? 僕はこのクラスでそんな位置付けにはいなかったし。
「おはよう、ユウ。」
マコトだった。なんかマコトもいつもと違って、何か輝いて見えるんですけど。
「そりゃ、そうさ。あの子にはあいつがついているんだから。」
そういうことですか。…え、ってことは、僕もみんなからはあんな風に輝いて見えているんですか?
「…そうだと思う。」
なんで自信なさげなんですか、悪魔さん。
「今日は人間に干渉しないようにしているんだよ、勝負だからね。だから、彼らに今の君がどう見えているのかもわからないんだ。」
インディアンポーカーみたいですね、自分の手札は自分以外は知っているっていう。
「皆さん静粛に。今から地球の支配権をかけた勝負を、いわゆる審判を始めます。」
あれ? ヒロシ急にどうしたの? 何言ってんの? ヒロシがいつもとは全然違う口調で話し始めた。 ヒロシだけどヒロシじゃないような…。
「彼には神とも私とも違う、別の仲間に付いてもらったんだ。私とユウ君の様にではなく、ヒロシ君の意識は無いままでね。ヒロシ君自体はまだ寝ているのと同じなんだ。この戦いの判定者が必要だから来てもらったんだよ。完全に公平だから大丈夫だよ。」
悪魔さんの仲間って、神様とヒロシについている誰かさん以外にも何人というか、どれくらいいるんですか?
「数えたりしたことも無いし、正直わからない。新しく加わるのもいるし、どこかに行ってしまうのもいるから。」
何かそっちの世界でもいろいろあるんですね。
「そこ、しゃべってないで!」
ヒロシに怒られた。怒られたけど、何かヒロシに付いている誰かさん、とっても嬉しそうなんですけど。
「ああ。普段は落ち着いたやつなんだが、…明らかにはしゃいでいるな。こういう事ってなかなか無いから、仲間に加われて嬉しいんじゃないかな。」
よくわからないけど、いつものヒロシと変わらない様に思えてきた。
「ではあらためて。これより審判を始めます。ルール説明から行います。」
ヒロシが話し始めた。
「☆◇@・?~と、△●□*^は、お互いに…」
「すみません、それって誰のことですか?」
マコト、ナイス! 僕も誰のことかわからなかった。
「あー、お前らのことって、ここでは何て呼べばいいの?」
ヒロシが何も無い空中を見ながら話しかけた。
「あ、そう。わかった。それでいいんだな。」
ヒロシが壊れた?
「…やり直し。えー、神と悪魔はお互いに、他の人間に干渉しないこととする。そして、神はマコトの、悪魔はユウの指示にのみ従い、自ら人間に指示しないこと。そして指示は口頭によるもののみとし、マコトとユウの考えや意識に干渉しないこと。」
あ、神様と悪魔さんに聞いていたのね。ヒロシに付いている誰かさんが。
「神の代理であるマコトと、悪魔の代理であるユウが競い、この教室にいる人間の魂をより多く自らのものとしたものを勝者とする。そして、その勝者が地球の支配権をこれより持つものとする。異議、疑義については直接私に申し出ること。また、その際に私の決定には必ず従うこと。この条件で誓いますか?」
「ああ。」
悪魔さんじゃないから、これが神様か。
「ところで、引き分けの場合はどうなるんだ?」
「そうだな、その場合は今まで通りお前、じゃなかった。神が支配権を持つこととする。それでいいな。」
「わかった。」
悪魔さんはいつもの声だった。
「では、これより審判を始める。現在、この場所の時間で午前8時50分になる。通常の授業と同じ時間で進めることとし、あの壁に貼ってある時間割に沿って行う。1時間目は今から50分後の9時40分に終わる。その後10分間にその時の獲得予想魂数を通知する。2時間目が9時50分から10時40分まで。その後10分間で中間報告を行う。3時間目が10時50分から11時40分まで。その後最終報告を行い、11時50分から12時40分までが最後の4時間目。それから最終結果を君たちに知らせる。それで決定だ。よろしいか?」
ヒロシが僕とマコトをみてから厳かに言った。
「それでは、始めよう。1時間目だ。」
言い終わったと同時にチャイムがなった。
1時間目
うーん、どうしよう。始めようって言われても、魂集めるのっていったい何をすればいいのかな? マコトはわかっているのかな?
マコトを見ると、マコトもこっちを見ていた。どうやら、お互いに何をしていいのかわからないようだった。そりゃそうだよね、魂集めなんて普通の人間は見たこともやったことも無いんだから。クラスのみんなはいつもの休み時間みたいに、しゃべったりしている。
どうすればいいのかわからないまま、時間だけが過ぎていっていますが…。
「えーっと、悪魔さん?」
「何?」
「どうしましょうか?」
「それは言えない。私達はあくまで君たちの指示には従うが、指示はできないというルールなんだから。」
そうだった。そういえば大事な事をまだ聞いていなかった。
「審判が始まってから聞くのも何なんですが…。」
「何です?」
「魂を自らのものにするって、いったいどうすればいいんでしょうか? それと、怖くてあんまり聞きたくないんですけど、魂を取られちゃった人は、…まさかとは思いますが死んでしまうんですか?」
人殺しになんかなりたくない。
「いやいやいや、全然違います! 特に今回はこの場の勝負なので、死んだりとか通常ありえません。そんなことしたら、終わった後が大変です。前にも言ったと思いますけど、私たちにも時間は戻せません。つまり、死んだものを生き返らせることはできないのです。」
じゃあ、誰かが死んじゃったりとかは、無いってことでいいんですね。
「もちろんです。今回の魂を取るっていうのはですねぇ、うーん、どう説明すればわかりやすいのかなぁ…。えーっと、心を奪われるってやつです。」
「はい?」
「ですから、例えばその人がユウ君にメロメロになって、ユウ君に心を奪われたっていう状態にさせることです。」
メロメロって古っ! 死語です、それ。
「…やさしく説明している相手に、その言い方はないんじゃないかと。」
「ゴメンナサイ! 悪魔さん、今ちょっと怒ってましたよね?」
「すごい、気が付きましたか。実はちょっとじゃなくて、結構怒ってました、今。」
「以後、気をつけます! とにかく、相手の心を奪ってしまうようなことをすればいいんですよね。」
「そういうことになるかと。」
それは困った。
「では、あらためてお聞きしたいことがあるのですが?」
「はい、何でしょう。」
「どうしましょう?」
「はい? すいません、質問の意図がわからないのですが。」
「えーっとですね、相手の心を奪うって言われてでもですね、そんなこと僕の今までの人生で、一度たりとも経験したことがないんですよ。という事はですね、どうしたらいいのか全くわからないままなんです。」
言ってて情けないと思うけど、事実なんだから仕方が無い。
「なるほど、そうですか。どうやら私、最初の人選を間違えましたね。」
「そうはっきり言われると、ちょっと申し訳ない気持ちに…。」
「もう審判は始まっています。何とか考えてください。」
「そんなこと言われてもなぁ。どうしよう。」
そうだ、マコトはどうしているんだろう? あいつも困っているはずだ。あれ? いない。マコトはどこに行ったの?
「彼は、あの人だかりの中心にいます。」
悪魔さんが教えてくれた方をよく見てみたら、さっきまでは無かったのに女の子が囲んでいる輪ができていた。その中心にマコトがいた。
「あれ? 何かマコトのやつ、顔がさらにイケメンになったような?」
「どうやら、周りからそのように見えるようにしたようですね。」
「そうか、あいつモテるもんな。…あいつは女の子の心を奪った経験があるってことか。さすがイケメン。」
自分で言ってて。むなしくなってきた。
「えーっと、それでユウ君はどうしますか?」
「ちょっと待ってください。考えますから。」
今のクラスの状況は、どうなってんだ? マコトの周りには女の子が群がっているけど、そういえば男子はどうなっているんだろう?
うーん、なんか教室のあちこちで、遠巻きにマコトのハーレムを見ているな。気持ちはわかるけど。
「えっと、悪魔さん?」
「はい。」
「僕の姿を、かわいい女の子に見せかけることはできますか?」
「もちろんです、こんな感じでどうですか?」
えーっと、僕のままですよ、男の。…特に何にも変わっていませんけど。
「ああ、どう見えるかということなので、ユウ君が自分で見る姿はそのままにしています。鏡か窓に映った姿を見てください。」
鏡はロッカーにあったな。
うわっ、何このかわいい子? こんな子クラスにいたっけ?
「…話の流れでわかると思ったので説明しませんでしたが、それは他の人から見えてるユウ君の姿です。」
なんか少しあきれたような感じで悪魔さんが言った。
「この子が僕なの? こんなにかわいい女の子が? 自分で自分に惚れてしまうってこういうことなのか…。」
「それとは言葉の意味が違います! …えーと、そろそろ周りを見てみた方がよろしいかと思います。」
周り? うわっ、クラスの男子が何か変な目でこっちを見ていますよ…。しかも、こっちにだんだん近づいてくるんですけど。
「大丈夫です、安心してください。彼らにはユウ君がさっきの女の子の姿に見えているだけです。普通の男性の反応ではないかと。」
だ・か・ら、安心できないんだっつうの。どうみても獣の目じゃないですか、あれは。
「悪魔さん、今から僕の言う事を、さっきの女の子が言うのにふさわしい声と内容に変換してください。」
「了解です。ユウ君は男の子を狙うんですね。さえてますね、さっき人選を誤ったなんて言って失礼しました。」
えーっと、では始めますか…。
「みんな、聞いて欲しい。僕はみんなと友達になりたいんだ。」
そう言った瞬間、うぉ~っていう歓声が僕の周りで鳴り響いた。
みんなの目がさっきよりも怖いんですけど…。女の子からはこう見えるんだ、僕もこれからは気を付けよう。
でも今はもっと惹きつけないとダメなんだよね。
「僕は、みんなのことが好きだよ。」
なんかすごい歓声。アイドルになるとこんな感じになるのかなぁ。…ますますみんなが怖くなってきたけど。
結構いけてるんじゃないの、これ。ねぇ悪魔さん。
「ええ、今ははっきりと二つに分かれています。女子はマコト君、男子はユウ君に心を捉えられています。互角に持ち込めましたよ。…しかし。」
しかし、何です?
「ユウ君、マコト君、ヒロシ君の3人を除くとこのクラスは男女の数が同じなので、このままでは勝負がつかない可能性があります。」
その時チャイムがなって、1時間目が終わってしまった。あっという間だった。
ヒロシが全くヒロシらしくもなく、相変わらず厳かな口調で話しだした。
「現時点での魂の獲得予想数は、神が15人分で悪魔が17人分だ。今のところ、魂2人分悪魔が優位だ。」
あれ、僕とマコトが20人ずつじゃないの? 僕たち3人を除くと、ちょうど20人ずついるはずなんだけど。
「マコト君に心を奪われていない女の子がまだ5人いて、ユウ君に心を奪われていない男の子が3人いるってことだね。次の時間はもっとがんばってくれ。」
なるほど、そういうことなんだ。でもどうすればいいんだろ? マコトよりは多かったから良かったけど、あいつはどうしているのかな。
あ、何かこっちを怖い目で見ているんですけど。負けていることが悔しいのかな? そういえばあいつが負けているところなんて、見たことないもんな。
今の結果だと、男の方が単純で惹きつけられやすいってことなのかな。僕がやったことって、かわいい女の子の姿で話しかけただけだもんな。まぁ、そういうことって確かにあんまり無いからなぁ、僕もそうだし…。
チャイムがなって2時間目が始まった。次はどうしよう?
2時間目
まだ、17人分か。あと男子3人分は増やして、男子全員分は獲得しなきゃ。その3人には、僕の(正確には悪魔さんが作った架空の女の子の)魅力が足りないってことだよね。何が足りないんだろ?
「僕に足りないところは何かな?」
すぐに周りから返事があった。
「えー、そんなところ無いよ。」
「でも。僕のこと好きじゃないやつもいるんだよ。」
なんかざわめきだした。
「前田じゃないの?」
「前田?」
「ほら、あそこ。」
指された方を見ると、確かに前田がいた。なんかいつも通り静かに本を読んでいる。あんまり女の子には興味なさそうな感じだもんな。さっきからこっちの方を全く見ていないし。
あと2人は誰だろう? あ、前田の近くでこっちを見ている2人組がいた。浅井と佐藤だ。なんかこっちを冷めた目で見ているんですけど。
あの3人を惹きつけなくちゃいけないのか、…結構難しそうだな。あいつらと話をしたことほとんど無いんだよなぁ。
それに、他のみんなも見ているのに、あの3人だけに近づくのもマズイような…。どうしよう?
「ねぇ、悪魔さん。」
「はい、何でしょう。」
「分身って、できます?」
「分身? すみません、具体的にはどのようなものでしょうか?」
具体的? 説明するの難しいな。
「えーっとですね。あの3人を何とか惹きつけたいんですけど、残りの17人をほかっておくわけにもいかないじゃないですか。そんなことしたら、たとえ3人分増えても、17人から相当減ってしまうと思うんですよ。」
「そうですねぇ。」
「なので、こっちのみんなには今まで通りのかわいい女の子の姿を見せておいてですね。あの3人には別の姿を見せられないかなと。僕自身が複数になって、相手に応じて適切な姿になれれば対処しやすいんじゃないかと。そして複数になっているのがバレないように。」
この説明で、わかってもらえるかな?
「えーとですね。整理しますと、あの3人以外にはこれまで通りの女の子を見せておくと。で、あの3人には別の姿を見せるようにする。そうしておいて、彼らにはユウ君が違う姿になっているところはわからないようにしろと。」
「そうそう、そうです。さすが悪魔さん、分かりが早い!」
「ありがとうございます。で、どのような姿になりますか?」
「すいません、それはこれから考えます…。」
「十分です。なかなかいい考えだと思います。頑張ってください。」
なんか誉めてくれた。がんばろう。
まずは前田からだな。あいつどんな本読んでいるんだっけ? いいや、直接本人に聞いてみよっと。
「悪魔さん。いつもの僕の姿で前田の前にお願いします。」
「はい、わかりました。かわいい女の子の姿の方は、どうします? 指示してもらわないと何もできませんから。」
「…困ったな。そうだ、みんなと握手会をしてください。ニコニコ笑って。それで時間を稼いでください。」
「わかりました。何かあったらお知らせします。」
「ええ、お願いします。」
さて、前田を惹きつけよう。
「なぁ、前田。」
前田は少し経ってから、読んでいた本を置いてこっちを見た。
「え、あぁ、ユウか。お前は変わっていないな、普段のままだな。」
「普段のまま?」
「今日さ、なんかみんなちょっと変な感じじゃないか? いつもとは違うよ。」
お前は影響されていないのか。そっちほうがすごいというか、普通じゃないのかもしれないんだぞ。
「そうかな? 僕は特に感じないけど。」
「そうか。まぁ僕が感じているだけかもしれないからな。で、何?」
「何?」
「いやいや、お前が話しかけてきたんだろ、ユウ。だから、何って聞いたの。」
そうだった。急に話題が変わったんで、わからなかった。
「あぁ、悪い、悪い。前田が何の本を読んでいるのか聞こうとしてたんだ。すごく熱心に読んでいたからさ。」
「え、この本のこと? SFだよ。『幼年期の終わり』っていう題名。」
「へぇ、どんな話なの?」
「知らないの? 結構有名な本なんだけどな。」
なんか、悲しそうな表情になった。
「ごめん、知らないんだ。」
「簡単に言っちゃうと、人類が存在している意味を提示しているお話かな? 知性そのものは肉体とは独立して存在していて、人類も肉体から離れた純粋知性となって宇宙に出ていくっていう話なんだ。人類よりもはるかに科学技術が進んだ宇宙人も出てくるけど、彼らは純粋知性にはなれなくて悩んでいるっていう皮肉な存在なんだ。」
肉体から離れた純粋知性って、悪魔さんみたいな存在のことなのかな? 自分のことを意識体って言っていたし。
「その話って、おもしろいの?」
「おもしろいよ! この本を読むのはもう3回目だから。」
前田は急に笑顔になった。とっても無邪気な笑顔だった。
「同じ本を何回も読むの? それってつまらないんじゃないの、だってあらすじとか覚えているんだろ?」
「もちろん覚えているよ。でもさ、全部を完璧に覚えているわけじゃないから、読むたびに新しい発見もあるんだよ。だから読み返しているんだ。」
前田が力説している。
「そうなんだ、じゃあ今度読んでみたいな。」
「ああ、その時には僕に言ってくれよ。この本を貸してあげるよ。」
前田とこんなに話したのは初めてだった。結構熱く語ってくれたし、そして何よりおもしろかった。なんだ、こんなおもしろい奴だったんだ。もっと早く話しかければよかった。前田には僕のそのままの姿で接するほうがいい。
もうちょっと前田と話したかったけど、時間が無い。あと2人、浅井と佐藤のところにも行かなくっちゃ。
「悪魔さん、今度も僕の姿のままでお願いします。」
「了解。ユウ君、君の判断は正しいと思うよ。」
浅井と佐藤か、手ごわそうだな。
「なぁ。」
「うん?」
浅井がこっちを振り返って言った。
「なんだ、ユウか?」
「なんだとはひどいな。どうしたんだ、あっちを見ていたけど?」
「ああ、あれを見てみろよ、ひどいもんだぜ。」
佐藤が言った。
「あれ?」
「ほら、あそこ見てみろよ。たしかに客観的に見てもかわいらしい外見だ。だが、それしかわからない。彼女に何らかの知性があるのか否かもわからない状況で、あいつらの熱狂はどうしたもんだか。」
「かわいいだけじゃだめなのか?」
自分を非難されているようで言い返してしまった。まあ、自分の分身なんだけど。
「いや、外見ももちろん一つの才能だと思っているよ。努力だけでは得がたい才能の、特性の一つだ。それを別に否定なんかしていないよ。僕たちは外見ではなく、外からは見えない部分に才能を与えられたと思っているんだから。」
君達は自分達が秀才だと思っているってことですね。確かにそうかもしれませんが。
「君らに聞いてみたいことがあるんだが?」
「何? ユウ。」
「君達はどんなことに、興味や魅力を感じるの?」
「うーん、ユウに言ってもわかってもらえるかな?」
浅井が困った様な表情で、失礼なことを面と向かって言った。
「知らないことだよ。僕達が知らないこと。知らないことを知るって、こんな楽しいことはないじゃないか!」
「その通り! だから僕たちは勉強が好きじゃないとか、嫌いだって言う奴のことをを理解できないんだ。そもそも勉強の本質は知らないことを知ることだし、勉強って知らないことを理解するために必要なものなのだから。」
いや、二人してそんなキラキラした目で言われても困るんですよ、ホント。
こいつらの知らないことなんて言われても、僕なんかの知識じゃ太刀打ちできないよ。どうしよう? あ、そうだ!。
「悪魔さーん、この2人がまだ知らないことで、こいつらが興味持ちそうな話って何かありませんか?」
「そうですねぇ、彼らが理解できるレベルでというと、結構難しいですね。」
「そこを何とか。」
「何とかって言われても難しいというか、どこまで教えていいものやら…。あんまりたいしたことじゃないことでもいいですかね。」
悪魔さんの「たいしたことない」は、人類にとっては「大変なこと」ですよ。いい加減に自覚して下さい。少なくとも僕が話す内容よりははるかにましです。
「たいしたことじゃないことで十分ですから、何か話をお願いします。あ、でも僕の姿だと何を言っても信じてもらえそうにない可能性が高いので、もうちょっと頭がよさそうな姿にしてもらえませんか?」
「はい、わかりました。ただ、これってルール違反になりませんかね? 私が自主的に動くとみなされませんかね。」
急にヒロシの声が聞こえてきた。
「問題無い。悪魔が指示を与える訳ではないのだから。」
「そうですか、それなら安心です。では始めましょう。私の言う事をそのまま彼らに言って下さい。それらしい姿を投影しますので。」
「わかりました。お願いします」
何か緊張してきた。
「君たち人類はこの世界を三次元空間、時間を加えて四次元とも言っているが、そもそもそれは本末転倒ではないのかな? この世界は独立して存在しているのではなく、別の世界から一定の条件で投影された結果、言い換えればこの世界で言う影と同じではないのかと。三次元の世界で、光で切り取られた結果として現れる2次元の影。同じように投影されて残ったものが三次元空間と時間で、独立して三次元空間と時間があるわけではないとしたら? この世界に自然界の定数と言われるものがあるのは、その条件で投影されているからなのかもしれない。それならば、その「元」となった別の世界では、その「定数」は存在していない。それらは元は変数であり、投影された条件で固定化され定数となっただけ。これが意味することが、君たちにはわかるかな。」
「…あなたはいったい誰なんですか? 何を言っているんですか?」
浅井と佐藤は呆然としてこちらを見ている。
「一つの考え方だよ。そして、この世界ではまだ知られていないことだよ。このことをすぐには理解は出来ないかもしれない。だが、これが事実なんだよ。私たちは知っているが、君たちは知らない。だけど、安心してくれ。我々も全ての中心にいるわけではない。我々も別の世界の投影に過ぎないんだ。君達と違うのは多少なりとも仕組みの近くに存在しているから、君達よりは分かっているだけなんだ。君たちの世界よりも変数の多い世界にいるんだ。」
すみません、悪魔さんが話した通りに言いましたが、いったい何のことやらさっぱりわからないんですけど。
「私や神がユウ君達の世界に影響を及ぼすことができるのは、今彼らに話したことが説明になるんですよ。『私たちの世界の一部』を『ある条件』で固定化し投影した世界が、ユウ君達のいる世界なんです。直接ユウ君達の世界に干渉はできませんが、私たちの世界で行ったことが結果としてユウ君達の世界に影響を与えているんです。」
ふーん、やっぱりよくわかんないんですけど、僕らは悪魔さん達の世界の影みたいなもんなんですか?
「そう考えてもらってもいいです。実際には君達1人1人の存在は私達には小さすぎて、厳密には細かく制御しにくいんです。できない訳じゃないんですけどね。」
ものすごく上から目線で話されているみたいだけど、神様や悪魔さんなんだからそういうことなんだよな。
「彼らはすっかり考え込んでいますよ。」
悪魔さんに言われて浅井と佐藤を見ると、難しそうな顔をして考え込んでいる。
「どうしたんだい?」
佐藤がこっちを見ていった。
「違う世界の投影が僕達だとすると、僕たちの世界の変数が固定化されることで投影される世界も存在することになる。さっきの説明が正しいなら、最後に投影された世界では変数が存在しないことになる。何の変化も起きない固定化された世界もあるってことだ。でも僕達の世界には変数が存在している。変数が僕たちの世界よりも少ない世界では、僕達も神のような存在なんだ。おもしろい、その考えはおもしろいよ。」
「そうだ、非常に興味深い。すると、世界は神に、超越しているが聖なる存在ではないものに満ちていることになる。八百万の神だ。日本の神の考え方だ。おもしろい。」
浅井も興奮気味に話し出した。
「君はすごいな。考え方が大胆で、しかも興味深い。また話をする機会を是非設けてくれないかな?」
「えっ?」
「はっきり言わせたいのか? 君を尊敬しているんだよ。」
うーん、まいったな。尊敬しているなんて、初めて言われたよ。
浅井や佐藤とまともに話したこと自体初めてだったけど、とっても面白かった。もちろん悪魔さんの力があっての事だけど、1人1人個性があるし、僕の知らない話や考え方を教えてもらって楽しいや。
そうか、そうすればいいんだ!
「悪魔さん。僕の姿を、話を、行うことを、クラス全員の1人1人が惹きつけられるようにしていきましょう。」
「…いいですけど、今は時間切れです。」
チャイムがなって2時間目が終わった。
今の段階でどうなっているんだろう。2時間目はあの3人にかかりきりだったからな。
ヒロシが前回にもまして、厳かな口調で話しだした。
「現時点での魂獲得予想数は神が15人分、悪魔が19人分。前回と変わらず悪魔が優位だが、差は広がった。」
マコトの獲得数は変わってない。まだどうすればいいのか気が付いていないんだ。3時間目になれば一気に女子の魂も獲得するぞ。男子のあと1人分は前田だな。さっきは話をしただけだから惹きつけるところまではいってなかったもんな。もっと早く気が付けば一気に差を広げられたのに。…マコトはどうしているのかな。
お、結構あせっているな。あいつのあんな顔見たこと無いや。
なんか、楽しくなってきた。悪魔さんの力のおかげだけど、前田や浅井達のいろんなことを知ることができておもしろいや。悪魔さんの力を借りなくても、話しかけることはできるんだから、もっと早く始めていればよかった。僕に惹きつけられるようにするってことだけど、逆に僕の方こそみんなに惹きつけられていくような気がする。
チャイムがなって3時間目が始まった。
3時間目
よーし、一気に勝負をつけてやるぞ。
「悪魔さん、さっき言ったことを始めましょう。」
「クラス全員それぞ1人1人が、惹きつけられるようにするんだね。」
「そうです!」
「とりあえず1人1人の前に、君の姿がそれぞれ見えるようにしたよ。君が何人もいるようなものだが、彼らには自分の前にいる君しか見えてない。」
え、そんな簡単に? しかも何も変わっていないような気が…。まぁいいか、では。
「みんな、僕の声が聞こえている?」
みんながいっせいにうなずいている。今度は女の子も反応している! 成功だ。
「じゃあ、悪魔さん。女の子から始めましょう。」
「具体的にはどのように?」
「僕がいろいろ質問していくので、その答え通りにしていってください。まずは外見から好みに合わせていきます。」
「なるほど、わかりました。ではどうぞ。」
さて、始めるか。
「君の憧れの人って誰なの?」
「☆△○ん。」
「えっ、何? 同時にしゃべりかけられて、何がなんだかわからないよ。」
「大丈夫です。私にはわかりました。」
悪魔さんがそう答えた時、女の子達の歓声が聞こえた。
「きゃー、きゃー、※□◆!!」
何言ってるのかさっぱり分からないけど、どうやら彼女達1人1人の憧れの人の姿に僕がなったようだ。
僕には聞き分けられなかったけど、悪魔さんは女子全員分を聞き分けて対応してくれたらしい。今のは共通の質問だったから良かったけど、これ以上は個別に話をしないと僕には難しいや。これからどうしよう?
そう考えていたら、女の子たちがいっせいに話しかけてきた。
「*>~#$?<@」
…何を言っているのか全然わからない。僕は一人で、女子は20人。これじゃあ会話にならないよ。このままじゃ、この先何にもできないや。いい考えだと思ったんだけどなぁ。
「悪魔さーん。」
「はい、何でしょう。」
「会話にならないんです。このままじゃ、どちらかというと逆効果です。憧れの人が目の前にいて、それなのに話しかけても無視されている状態です。喜ばせるどころか、悲しませている状況です。どうしましょう?」
「何度も繰り返しになりますが、私からアドバイスはできません。ユウ君が考えて指示してくれないと。」
「そうは言っても、どうしたら…。姿だけは憧れの人になったのに、会話ができないんじゃなぁ…、あ!」
そっか、別に姿だけにする必要はないんだった。でも、そんなことって悪魔さんにできるのかな。
「悪魔さん、今みんなの前にいる憧れの人が本物の様に、話をしたりするようにはできませんか? できれば好意的に。僕には誰がいるのかすら分かりませんが。」
「了解しました、姿と会話を合わせます。好意的にですね。」
急にあちこちで、にぎやかに話が始まった。僕には彼女達が誰と話をしているのかさっぱりわからないけど、みんなとっても嬉しそうに話をしている。見ている僕まで、なんだか嬉しくなってきた。
「悪魔さん、僕自身は何もしゃべっていませんけど、女の子たちはうれしそうに会話しているみたいです。これって、どうやったんですか。」
「人間の言葉で言うとシミュレーションです。」
シミュレーションなんですか、これって。
「ええ、対象の人物がどのような応対をし、対象者を目の前にした時にどのような会話をするのかを過去の事例からシミュレートして再現しています。シミュレートには『好意的に』という条件も付け加えています。
「説明はわかりますけど、過去の事例ってどうやって知ったんですか?」
「最初から知っていましたよ?」
最初からって、過去の事例なんですよね。さっき自分でそう言っていましたよ。矛盾しているじゃないですか。
「私は人類を観察していたんですよ。だからいろいろ知っています。それに過去は既にあったことですからね。さかのぼる事は容易です。未来は何も決まってはいないので、可能性が無限にあります。だから観察していて楽しいんですよ。」
悪魔さんの話は時々ついていけなくなる。いくら観察していたからって、個別の人間のことを覚えていられるなんて…。
「私にとっては大したことではありませんから。」
わかりました。では、安心して進めさせてもらいます。
「悪魔さん、男子にも同じようにやります。じゃあ質問から。」
「了解! うまくいきそうですね。」
今度は男子のほうから歓声が上がった。
どうやらうまくいきそうだ。クラスのみんなが嬉しそうに話をしている。このままいけば悪魔さんの勝ちは決まったようなものだ。こんなにあっさり勝てるなんて意外だけど。そういえば、マコトはどうしているんだろうか?
マコトは教室の真ん中あたりにいて周りをきょろきょろ見ている。さっきまで取り巻きみたいにいた女の子達もそれぞれ僕の分身というか、彼女達の憧れの誰かと楽しげに話している。マコトは周りの状況を見ていたけど、特にあせった様子もなく観察しているようだった。そして空中の見えない誰かにうなずき、何かを始めたようだった。
男子と女子それぞれから歓声が上がった。
「えー、マジこれ。」
「うそ、信じられない!」
どうやらマコトが何かをして、僕のした事を台無しにしてくれたようだった。きっと僕がしたことと同じことを、僕よりも上手にしたに違いない。コロンブスの卵の話じゃないけれど、気が付いてしまえばもっと上手くやることはできる。どうやら僕は勝負を仕掛けるタイミングが早すぎたようだった。呆然とした状況でチャイムが鳴った。
ヒロシが厳かに告げた。
「3時間目が終了した。残るは4時間目のみ。現時点での魂獲得予想数は神が36人分で、悪魔が4人分だ。初めて神が悪魔を逆転し、しかも大差をつけた。おもしろい、非常におもしろい。次はぜひプレーヤーで参加したい。」
ヒロシに憑いてる誰かさんは、興味津々で楽しそうだ。
マコトはどうしているのかな。
くっ、余裕で笑っていますよ、あいつ。何とかしなきゃ。
2時間目は直接前田や浅井達と話をして手応えがあった。でも今の時間は手っ取り早かったけど、なんか上滑りしていたのかな? 相手が望む容姿にして、そう望んでいるように受け答えしてくれれば嬉しいだろうけど、実際の僕とは何の関連もないし、そもそも誰になっているのか僕にはわからない状況なんだもんな。他に方法も無いし、とりあえずこのまま進めるしかないけど、このままじゃマコトと2人で同じことを極めていくだけだしなぁ。悪魔さんと神様は同格って言ってたから、…ひょっとして。
4時間目のチャイムが鳴った。最後の時間だ。
4時間目
「どうしますか、ユウ君。」
「悪魔さんならどうします?」
「質問に質問で答えるのはやめて欲しいですね。それに私はルールによって答えられないのですから。」
「少し考えていることはあるんです。でもそれでいいのかは…。」
「とりあえず聞きましょうか?」
「いや、もう少し考えてみます。それに悪魔さんに聞いてもらっても、わかってもらえるかどうか。」
「気になりますね。まぁ、いいですよ。ではこれからどうします。」
「まずはこのまま進めます。マコトよりも完璧に近づけていきます。」
「わかりました。では、どこから?」
「面倒くさくなってきたんでアイウエオ順で、みさきちゃん以外。」
「みさきちゃんはどうするんですか?」
「最後にします。」
「了解。では浅井君からですね。始めましょう。」
それから僕たちはクラスの1人1人それぞれが完璧に惹きつけられるようにしていった。1人1人に完璧に合わせた僕が目の前にいるように。時間はかかったけど、これで大丈夫だと思う。あとはみさきちゃんだけだ。僕は意を決してみさきちゃんのところに行った。
「ねぇ、みさきちゃん。」
「何ですか、ユウさま?」
「みさきちゃんが好きな人は、…誰?」
「そ、そんなの恥ずかしくて言えません。」
こんな風に恥ずかしがっているみさきちゃんって、今まで見たことなかった。すっごくかわいい!
「教えてくれれば、それをかなえてあげられるかもしれないよ。」
「えっ。でも、…本当に?」
「うん、もちろんだよ。」
そう言いながら、誰の名前が出るのかドキドキしてきた。
みさきちゃんは僕の顔を見て、微笑みながらこう言った。
「ユウさまです。」
えっ、僕? 僕のことが好きなの? あれ?
ん、ちょっと待てよ。今みさきちゃんは「ユウさま」って言ったよね。これって僕じゃなくて、…僕+悪魔さんのことじゃ。
「まあ、そういうことになりますね。申し訳ないですが。」
やっぱりそうなんですか、悪魔さん。嬉しいような、嬉しくないような。
「今はどうしてもわたしの影響が加わりますから、ユウ君単独での存在を人間が認識できることはありません。」
そうですか、僕単体はいないも同然ですか。じゃあみさきちゃんが僕のことを好きなのかどうかはわからないってことなんですね。
「そういうことになりますね。」
悪魔さんの力はすごいからな。悪魔さん抜きの僕のことを、みさきちゃんがどう思っているのかは、全然自信ないな。…振られてるし。
「どうします?」
えっ、どうしますとは?
「いえ、みさきちゃんがユウ君に惹きつけられるように、どのように進めますか?」
そうだった、審判の途中だった。
なんかちょっとむなしい感じもするけど、「ユウさま」をもっと魅力的にあわせていきましょう。今後の参考になるかもしれないし。
「今後の参考? あぁ、そういうことですか。わたしの影響が無い、ユウ君だけになった時のためにってことですね。その時は頑張ってください。」
えぇ、頑張ります。ヒロシに負けないように。
「ねぇ、みさきちゃん?」
「何ですか、ユウさま。」
「僕のどこが好きなの?」
みさきちゃんの顔が真っ赤になった。
「は、恥ずかしくて、そんなこと言えません。」
「僕もみさきちゃんのことが好きだよ。」
あっさり告白?できた。でもこれって違うんだよなぁ。今の僕は悪魔さん分が上乗せされているんだもんな。
「そ、そんな。ユウさま。」
みさきちゃんはうれしそうに、でも恥ずかしそうに僕を見つめてくれている。だけど、なんかむなしい…。みさきちゃんの相手は僕であって僕じゃないからな。
「えーっと、ユウ君。」
「はい、悪魔さん。」
「先ほどから全く進展していませんが。それに大変自嘲的になっていますよ。」
いやいや、この状況なら僕じゃなくたって自嘲的になりますよ。
「僕単体の力の無さを痛感しているんです。悪魔さん無しの僕って…、ちっぽけですね。」
「何を言っているんですか? 1週間前までのユウ君は、わたし無しでずっと生きてきたんですよ。」
そうですよ。だから、今との違いがありすぎて…。
「ユウ君はやはり大変自制的ですね。わたしが以前契約を交わした人間とは全然違います。彼らはわたしの力を使って省みることは全くありませんでしたから。だからこそ、わたしと契約したのだとも思いますが。」
「そうだったんですか。」
「えぇ。彼らはわたしの力に酔いしれていました。そして他の人間を見下すようになっていきました。彼らが崇拝している『神』と同じ力を使うことができたのですからね、わたしの力を借りてなのですが。」
「悪魔さんと神様は、全く同じ力を持っているんですか?」
「正確には少し意味合いが異なりますね。わたし達は全く同一の存在なのです。」
「え、同一の存在ってどういうことですか?」
「わたし達には違いが無いということです。同じ世界に住み、同じことができる。するかしないかの違いはありますが、わたし達にできることに個体の差はありません。だからこそユウ君とマコト君に代理をお願いしたんじゃないですか。」
そうでしたね。でも、それならやっぱり前回の結果が…。
「それよりも、みさきちゃんのことはどうするんですか? もう残り時間は少なくなってきましたよ。」
そうだった、急がなくちゃ。僕たちは負けているんだし。
「みさきちゃん。」
「はい、ユウさま。」
悪魔さん抜きの僕にこう言ってもらえるよう頑張ろう。
「僕はもっとみさきさんの理想に近づきたいんだ。」
「え、でも。今で十分です。」
悪魔さん抜きの僕なら不足だらけだろうな。今は神様と同じ存在の悪魔さんがついているんだから普段の僕とは全然違うもんな。でも、他のみんなの反応はこうじゃなかった。僕+悪魔さんじゃなくって、みんなの好きな人や憧れている人は僕以外にちゃんといた。その人にどんどん近づけて、さらに仕上げていったから完璧に好みにあっているはずだけど。
「ねえ、ユウさま?」
考え込んでいたら、みさきちゃんから話しかけてきた。
「なに、みさきちゃん。」
「ユウさまはさっき、みさきのことを好きだって言ってくれましたよね。」
「うん、そうだよ。みさきちゃんのことが好きだよ。」
みさきちゃんは急にうつむいて小さな声で言った。
「ホントですか?」
「え、なんでそんなこと言うの? もちろんホントにみさきちゃんが好きだよ。」
みさきちゃんはうつむいたまま、さっきよりは少しだけ大きくなった声で言った。
「みさきにはユウさまが必要です。大好きです。いつもそばにいて欲しいです。…でも、ユウさまにみさきは必要ですか? ユウさまは…、ユウさまは神様みたいに何でもできて、だから、他の誰もいなくてもいいんじゃないんですか? みさきがユウさまのそばにいなくても大丈夫なんじゃないですか?」
最後の方は泣きながらだった。こんなことをみさきちゃんに言われるなんて思ってもいなかったし、胸が締めつけられるようだった。
「そんなことはないよ。僕はそんな存在じゃない。間違いだって、失敗だってする。みさきちゃんの気持ちがわからなくって、悩んだりしているんだよ。」
「ユウさまが?」
「そうだよ、僕はそんな完璧な存在じゃない。今の僕は完璧に見えるかもしれないし、実際に完璧なのかもしれない。でもそれは僕の力じゃない。僕自身はそんなものじゃない。みさきちゃんと同じ人間なんだから。だから…、僕はみさきちゃんにそばにいて欲しい。いつでも、いつまでもそばにいて欲しい。みさきちゃんがいてくれれば、僕はもっともっとがんばれるんだ。僕には君が必要なんだ。大好きだよ、みさきちゃん。」
「うれしい…、ユウさま。」
手をのばして、みさきちゃんの手を握った。みさきちゃんは強く握り返してきた。
「みさきちゃん。」
「はい、ユウさま。」
「僕は君のそばにいるよ。君の力に少しでもなれるように。」
「ありがとうございます、ユウさま。お願いです。遠くにいかないでください。わたしがついていけないような遠くへ。」
そうか、やっぱりそうなんだ。
悪魔さんが急に話しかけてきた。
「ユウ君。せっかくの盛り上がりに水を差して申し訳ないんですが、みなさんの様子が何か変です。さっきまでとは違って、みなさんきょろきょろしています。」
そう言われて周りを見てみると、僕の分身と見えない何かを見比べているようだった。
「こっちも、やっぱりか。」
「どういう事なんですか、これは。」
「完璧に合わせてきたんですよ、マコトも。完璧だから僕と全く同じになるはず。だからみんなの前には、僕とマコトが全く同じ様に見えているんですよ。それできょろきょろしてるんだと思います。」
「そういうことですか。…えっ、じゃあ彼らはどちらを選ぶんですか。」
「選べないはずです。全く同じなので。」
「それでは勝負がつかないってことになりますね。」
「このままなら、そうなりますね。」
でも今の状況は、僕が3時間目の終わりに予想した通りだった。
「あれユウ君、何か余裕を感じられるんですが。」
「こうなることは何となく予想できていましたから。完璧に同じ力を持つ神様と悪魔さんがついているんですよ。最終的には僕とマコトが代理として、全く同じような完璧な存在になることは当然です。」
何か自分でもかっこいいんじゃない、今のところ。
「このままなら勝負がつかない、神様と悪魔さんの直接勝負と同じです。だから、今から変えます。」
「変える? いったい何を変えるんですか?」
「今までやってきた方法をです。みんなの希望に合わせることをやめます。」
「どうして? 魂を惹きつけられなくなりますよ。」
「大丈夫です、きっと。僕を信じてください。残りは何分ですか。」
「5分と少しです。」
「じゃあすぐに始めましょう。悪魔さん、みんなが自分の長所だと思っていることを調べてください。そして短所だと、欠点だと思っていることも。本当は僕が知っていなければいけないことですけどね、…クラスメートなんだから。すみませんが、全員分がわかったら教えてください。それから始めます。」
「了解。5秒くらい待ってくれ。」
悪魔さんの身体が何か光って見える。みんなは相変わらずきょろきょろしている。そりゃあそうだろう、目の前に自分の理想とする存在が2人もいるように見えるんだから。
「ユウ君、お待たせしたね。準備できたよ。次はどうするんだい。…何か私も楽しくなってきたよ、次に何が起こるのかわからない世界がこれほど楽しいとはね。人間はこんな楽しい世界にいるんだね。」
「何が起こるのかわからないから、いろいろ悩んだりもするんですけどね。…もう時間が無い。悪魔さん、みんなの前に僕の姿を出してください。さっきまでのみんなの好みにあわせた姿じゃなく、ふだんの僕の姿を。そして今から話すことを伝えてください、ただ、長所と短所はみんなのそれぞれの当てはまる言葉に。悪魔さんにさっき調べてもらったことにあてはめて伝えてください。いいですか。」
「いいよ、じゃあ始めよう。」
悪魔さんがニヤリと笑って言った。
「おもしろいね、すごくわくわくしてきた。」
「みんな、聞こえているかな。僕だよ、ユウだよ。」
みんながうなずいている。
「今、みんなの前には僕と、もう1人いるよね。もう1人は本当はマコトなんだ。でも今はみんなの理想の存在になっていると思う。さっきまではそれが2人いたと思うんだけど、もう1人の方は実は僕だったんだ。」
僕と何かを見比べている。
「僕とマコトは今、どちらかを選んでもらうゲームをしているんだ。で、みんなに選んでもらえるように、みんなの理想に合わせていったら、当然だけど僕もマコトも同じになっちゃったんだ。さっきまでがその状態で、全く同じ存在が2人もいて、なのにどっちかを選べって言われても困っちゃうよね。だって全く同じってことは、そもそもどっちが僕でどっちがマコトなのかも分からないもんね。」
みんなちゃんと聞いてくれている。僕の横には理想の姿をしたマコトがいるはずなのに。
「そして気が付いたことがあるんだ。だから僕は元に戻ったんだ、いつもの僕に。」
「みんなの理想、1人1人の理想であり全員の理想にもなりえるのは、完璧な存在なんだ。僕達が普段神様って呼んでいる、僕達を超越した存在。僕たちはそれぞれ異なるのに、それなのに僕たちみんなにあわせることのできる存在。」
見えない何かの方を見ている。
「僕達には神様が必要だよね。だって僕達にはわからないことや不安なことや、自分達ではどうしようもできないこともあるんだから。そんな時には一生懸命頑張ってみて、どうしようもないところは神様にお願いするしかないもんね。」
何人かが、うなずいている。
「だからさ、僕達には神様が必要だけど、いて欲しいけど…。でも、神様には僕達は必要なのかな? 僕達は、別にいなくてもいいんじゃないのかな? だって神様は完璧な存在なんだから、他に何も必要ないんだよね。」
みんな真剣に聞いてくれている。
「マコトは神様の化身になった。さっきまでの僕もそうしていた。でも、僕はそれじゃいやなんだ。僕にはみんなにいて欲しいし、みんなにも僕がいて欲しいと思ってもらいたいんだ。一方的な存在じゃなく、お互いに認められる、大切な存在でいたいんだ。だから僕は僕の姿に戻ったんだ、神様の姿ではなく。」
教室の中はとっても静かで、僕の声だけが聞こえている。
「僕には君が必要なんだ。長所だけじゃなく、短所もあっていい。それが君なんだから。そして、…できれば僕のこともいて欲しいと思ってもらいたいんだ。あんまりたいしたことはできないかもしれないけど。」
チャイムが鳴った。
「時間だ。」
ヒロシの声がした。終わったんだ。
「ユウ君。」
「何ですか、悪魔さん。」
「いろいろ失礼なことを言ったこともありましたが、謝ります。ユウ君を選んで良かった。たとえ負けても後悔はありません。私は貴重な経験を得られました。ありがとう。」
ど、どうしたんですか悪魔さん、急にそんなこというなんて。しかも、どちらかというと負けたこと前提に聞こえますけど…。
「最終結果を伝える。」
ヒロシ、急に言うなよ。びっくりしたじゃないか。あ、ヒロシじゃなかった。
「魂は全員で40人分あった。神が獲得した魂は7人分で、悪魔が獲得した魂は30人分だ。よって悪魔の勝ちと決まった。」
勝ったんだ。
悪魔さん。僕、頑張りましたよ。
「そんな、私が負けるなんて。引き分けで十分だったのに。」
どうやら神様は納得できないようだった。そりゃ、そうだろう。悪くて引き分けのはずなんだから。そうすれば今まで通り、神様が支配権を持ったままのはずだったんだから。
「どうして私が負けたんだ。」
神様が聞いてきた。
「前回は、人間ができないことをやって見せた。人間を上回る存在として私は多くの魂を獲得できた。今回も結局は同じことをした。ただし、大きなキセキではなく、個別にあわせた小さなキセキだが。」
「前回って、古代の頃に悪魔さんと争った時の話ですよね。前回も悪魔さんが神様と同じ方法を取っていたら、きっと勝負はつかなかったと思います。本当なら神様と悪魔さんは完全に同じ、完璧な存在なのでどちらかを人間が選ぶことはできません。さっきの僕とマコトの様に、どっちが神様でどっちが悪魔さんなのかさえ区別できないはずなんですから。…前回は悪魔さんが選んだ方法がまずかっただけです。だから、もし勝負をつけたかったら、同じ方法はダメっていうルールを加えないと。」
「言ってくれますねぇ。」
今度は悪魔さんだ。
「神様や悪魔さんには理解できない理由だと思います。僕たちは神様たちと違って、もっと不完全で足りないところばかりです、すごい力も持っていないし。だからこそ僕たちはほかの誰かを必要とするし、ほかの誰かに必要とされることで頑張れるんです。神様たちの世界では、きっとお互いが必要な存在なんていないんじゃないですか? だってそれぞれが完璧な存在なんですから。」
「確かに、自分以外に必要な存在は無い。それは私たちにはどうしようもないことだ。不完全なものに戻ることもできない。私たちは何かに依存することなく、完全に独立して存在しているのだから。…だが、君の説明は理解できたよ。『お互いを必要とする』か。私達には存在しない、有りえない理由で負けたのだから仕方がない。私は君に負けたのだ。それならば納得できるよ。」
いや、あの、その、神様にそんな風に言われると困るんですが…。
「いやー、おもしろい勝負だったよ。」
あ、ヒロシに付いている誰かさんだ。
「今度またやるときは、ぜひ誘ってくれ。できれば勝負に参加したいな。別に2人で勝負じゃなくたっていいんだろう。」
すみません、次回がもしあったとしてもその頃まで僕は生きていないはずですから。前回から一体何年経っていると…。悪魔さん達には関係ないのかもしれませんが。
「もう次回は無いよ。これからは私が目を離さずに見守っていくからね。」
悪魔さんだ。くれぐれも、よろしくお願いします。
「そうか、じゃあしかたがない。他のところでも探してみるよ。では、今回の審判を締めくくるとしよう。」
ヒロシに付いている誰かさんは少し残念そうだった。
「審判は、そう『最後の審判』は下った。これにて閉会する。」
終わったんだ。




