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不死人との戦闘

「アイリスは何してたの?」


 静かにアイリスに詰め寄ったミリアが、抑揚の無い声で尋ねた。

 感情のこもっていない言葉遣いと表情。端から見ていれば、ミリアは興味を一切持ち合わせていないように見える。


「私も捕まったけど、隙を見つけて逃げてきたのよ。頼れるのは二人しかいないの。お願い。お母さんを助けて」


 アイリスは泣き出しそうになるのを必死にこらえながら、俺達に頭を下げてきた。

 それでもミリアは眉一つ動かさず、アイリスを見下ろしている。


「それは依頼?」

「違う。私にはあなたにあげられるものなんてない。だから、こうやって頭を下げてお願いするしかない」

「断る」


 ミリアは拒絶の言葉をハッキリと口にした。

 それでも、アイリスは頭を下げたまま上げなかった。


「あんたが私を嫌いなら、ここには二度と顔を出さないから。あんた以外に頼める人がいないのよ。だから、お願い」

「その依頼は断る。だから、私に頼まないで。ロキ準備して」


 アイリスの横を通り過ぎたミリアが俺に声をかける。

 見捨てるつもりなら、ここからどこに行こうって言うんだよ。

 それに必要とされているのに、自分からその繋がりを捨てようとしているんだよ。そんなもったいないことをしないでくれよ。


「ルカ。アイリスを外に出さないで。紐で椅子に縛り付けてもいいから」

「まったくミリっちは仕方の無い子だなぁ」


 戸惑う俺を放って、ルカは言われた通りにアイリスの手を引いて店の奥へと移動させている。

 そして、急にミリアは宿屋の真ん中で剣を抜いて、黒い霧に身を隠した。


「ロキも構えて。来るよ」

「そういうことかよ。アイリスは俺達を見つけるためのエサか」


 足音は聞こえない。それでも、ミリアは警戒を解こうとしていなかった。

 殺気。

 肌がぴりぴりするような空気感から、敵の気配が感じられる。

 恐らく、敵が使う魔法や魔法武器と、俺の依り代である魔神が反応しているのだろう。

 そして、その時は突然やってきた。

 一階の窓ガラスが同時に割れ、二階からも窓ガラスの割れる音が聞こえた。そして、同時に扉が勢いよく蹴破られ、武装した男達が一気に飛び込んできたのだ。

 全ての敵が全身を隠す黒いコートに、室内戦用の短刀を手にしている。

 正面扉から三人、左右の窓から二人ずつ、キッチンの裏手の方からも二人はきている気配がする。


「ロキ、左右をお願い」

「任せとけ!」


 黒い霧の中から聞こえたミリアの声に頷き、俺は左右に炎の魔剣と螺旋の槍を二本ずつ具現化させる。


「さすがに昨日の今日だ。命までは取らないけど、容赦しねぇぞ!」


 左右へ同時に武器を矢のように飛ばすと、男達はひるまず突っ込んで来た。

 しかも、二人一組を活かしてなのか、先に武器が刺さった仲間を盾にしながら、もう一人が飛びかかってきた。

 うめき声一つあげてないけど、感覚や感情が無いのかこいつら!?


「ちぃっ!」


 左右から同時に投げられた短剣を、舌打ちしながら具現化したペールとメールでそれぞれ防ぐ。

 いくら痛みや仲間を無視した行動が出来ようとも、俺の魔神の力の方が上だ。


「いけっ。ペール、メール!」


 防御から一転、反撃に移ると、敵はズタボロになった仲間の身体を俺に向かって投げつけてきた。

 ペールとメールがそれぞれ動かない身体に突き刺さり、勢いを失う。

 同時に男達は俺の身体まで、後一歩というところまで接近してきた。

 かなりの勢いで飛び込んできたのか、フードが外れ素顔が見える。


「昨日の奴ら!?」


 アイリスの家を襲おうとしていた奴と同じ顔をしているが、目に生気がない。

 傷つける前から死体のような顔をしていて、かなり気味が悪かった。


「ちっ!」


 足下に生み出した二股の槍の中央を足場にして、一気に高度を上げた俺は二人の攻撃を避けた後、後方にジャンプして距離を取った。


「これで寝てろっ!」


 そして、上から槍を四本男達の手と足に突き刺し、床へと縫い付けた。


「ロキ。こっちも終わった」


 ミリアの声がした方に顔を向けると、前のめりにゆっくり男が倒れ、その影からミリアから姿を現した。


「ロキ気付いた?」

「あぁ、こいつら昨日の奴らが混じってる」


 だが、気配が明らかに違った。こんなに静かで冷徹な奴らではなかったはずだ。

 まるで誰かに操られている人形のような。


「きゃあああ!?」

「アイリスっ!?」


 アイリスの悲鳴が聞こえた途端、ミリアがカウンターの奥に向かって飛び出した。

 だが、ミリアは一歩目で足を掴まれて倒れてしまった。

 盾にされ、先に倒れて動けなくなった男が突然手を動かし、ミリアの足を掴んだのだ。


「ミリアッ!?」


 姿を晒してしまえば、ミリアはただのすばしっこい女の子だ。

 単純な力は大人の男に大きく劣ってしまう。


「離せ。私はアイリスをっ!」


 ミリアは必死に男の手を蹴るが、男は手を離すことなく短剣を抜こうとしている。


「させるかっ!」


 胴体目がけて槍を射出し、衝撃で敵を吹き飛ばすことで何とかミリアを解放する。

 だが、敵はダメージを受けている様子もなく立ち上がった。

 それも一人だけではない。俺が床に縫い付けた二人も立ち上がったのだ。


「ミリア、ここは俺に任せてルカとアイリスを頼む」

「ロキ。死なないで」

「分かってる」


 俺はミリアを送り出し、ゾンビのように立ち上がった敵と対峙した。


「こいつら不死身か?」


 ミリアの通った扉を守るように俺は八本の剣と槍を展開しながら、敵を見渡した。

 倒れたまま動かない敵もいる。

 あれはミリアが戦った奴らか? だとすれば、もしかして。


「ペール。死なない程度の毒を流し込め」


 真っ直ぐ黒い短刀ペールを敵の一人に飛ばし、足を切りつけると敵は痙攣しながらその場に倒れた。


「やっぱり毒は効くのか。ピクピク動いている辺り、生きているみたいだけど、動けないのなら十分だ」


 展開した武器を全て解除して、俺は魔剣ペールだけを四本召喚した。


「本当に便利な能力だよ。ミリアに感謝だな。行けっ!」


 猛毒の剣を恐れもせずにつっこんでくる敵が、刃に触れた途端ばたばたと倒れていく。

 攻略法さえ分かればあっさり勝てた相手に、俺は短く息を吐いた。

 さすが魔法の異世界だなぁ。何が起こるか予測不能だよ。

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