口喧嘩
「ロキ。さすが」
「ミリア? そっちは無事だったのか?」
「出番無かった」
後ろからミリアの声がして振り向くと、既に剣をしまったミリアとルカ、そしてアイリスがいた。
誰も怪我一つ負っている様子は無い。アイリスだけは腰でも抜けたのか、ルカに肩を貸して貰いながら歩いている。
「ルカさん。この世界では不死身の人間が当たり前のようにいるんですかね?」
「当たり前とは言わないねぇ。というか、この人達ここに来る前から死んでたみたいだし。わざわざ武器の刃を鈍くさせなくて良かったよ?」
「ここに来る前から死んでた?」
「うん。呪いを解呪したら、ぱたりと倒れたよ。魔剣ペールで動かなくなったのは、死体とは言え人の身体だからね。ペールから流し込まれた毒で動けなくなったんだと思う。んじゃ、こいつらも成仏させてやらないと可愛そうだし、さっさと解呪するとしますかねー」
ルカはざっくりと敵の症状について説明すると、倒れている敵の頬を平手で叩いて回った。
すると、体の痙攣は無くなり、今度こそ全く動かない死体と変化した。
「ま、ロキ君も気に病まないようにね。死体を操り人形のように魔法で動かしていただけだから、わざわざ急所を外したり、刃を鈍くしたり、毒を弱めてくれたみたいだけど、最初から手遅れだったのよ」
「それが……テュールの力なのか」
「みたいだねー。さて、それじゃ、話を戻さないとね」
ルカは事務的に話題を切り上げると、手を二度叩いてミリアに振り向いた。
「ミリっちはどうしたいの?」
「ロキと一緒にテュールを倒しに行く」
「へぇ? 依頼は断るって言ったのに?」
「依頼は受けない。これは私の意志で勝手にやること。アイリスを巻き込む訳にはいかないから、ルカに預けて行くつもりだった」
「へぇー。ミリっちは友達思いだったんだねぇ」
ミリアが依頼を断った理由を聞いて、ルカはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながらミリアに近づいた。
「……そんなんじゃない。私は私に従うだけ。足手まといがいると戦いにくい。だから、ルカ、アイリスを預かってて」
「ミリア……あんた」
ミリアの気遣いにアイリスは目を丸くして静かに驚く。
俺も何でミリアがアイリスのお願いを拒否した理由が分かった。
アイリスはミリアに初めて出来た友達だ。
アイリスを守りきれずに殺されてしまうのが怖いのから、アイリスに安全な所にいて欲しいんだ。
「ミリっち。それはちょっと出来ない相談かも。私も一緒に行かないといけないし」
「何で? ルカがいなくても、ペールの毒があれば敵は倒せる」
「こんなメモ書きが死体に握られていたんだよね」
ルカが一枚の紙切れを広げると、そこにはダンジョンの最奥にて待つ。お互いの願いを叶えるには最適の場所だ。と書いてあった。
ダンジョンの最奥は神がいて、倒すことで願いを叶えられる。
テュールは神を自負しているとでも言うのだろうか。
「アイちゃんのお母さんをダンジョンで助けられる人が、このルカ姉様以外にいる? いつこの人達みたいに操られるか分からないし、ミリっちの魔剣で止めたら死ぬよ?」
「む……」
ルカの提案にミリアは口を尖らせた。
ルカがミリアと行動を共にするとなると、アイリスが一人取り残されてしまう。襲われてしまえば助かることは無いだろう。現に今朝も捕まっている。
俺達を釣り出したら、アイリスはもうテュールにとっては用済みだろう。
ルカは分かっていて意地悪な提案をしているのだ。
「私とアイちゃんを二人とも連れて行ってよ」
「うー……」
「ミリっち。一人じゃ出来ないこともあるよ?」
「ロキ……」
ミリアが自信の無さそうな声で、俺の目を上目遣いで見つめてくる。
あの夜の呟きを聞いた俺は、何でミリアがアイリスを連れて行くのが嫌なのか分かる。
ミリアの身隠しの能力は誰かを守る戦いに向いていない。
だから、俺がいるんだ。
「大丈夫。ミリアの友達は俺が守るよ」
俺はミリアの顔を見て、笑って頷いた。
お前の不安なんて打ち消してやる。それだけの力をミリアは俺にくれたんだ。
必要としてくれるミリアのために、俺は力を使うよ。
「アイリス。私のロキをあなたに貸してあげる。だから、絶対に離れずついてきて」
「ミリア……本当に良いの? だって、私はあんたを……」
「私もアイリスを見殺しにするつもりだった」
二人の少女は見つめ合ったまま動かない。
アイリスは辛そうな表情で、ミリアはいつもの無表情だ。
見つめ合うこと五秒程度、先に口を開けたのはアイリスだった。
「ミリア。私はあんたが大嫌いだった。同い年ぐらいなのに、A級探検者で私が無力だと思い知らされた。私にあんたと同じ力があれば、ダンジョンの神様倒してお母さんを助けられるのにって思った」
「私もアイリスが嫌い。弱い癖に私の持ってない物を持ってる。お荷物の癖に戦う勇気を持ってるとか、護衛対象としては邪魔でしかない」
「護衛? あんたにそんなの出来るの? 身を隠した卑怯な戦いしか出来ない癖に」
「私のは高度な戦術。アイリスみたいに無能で無鉄砲なバカはすぐ死ぬ」
口を開けたと思えば、お互いに悪口を言い合い始めた。
ルカは必死に笑いをこらえているし、俺は意味が分からず二人の顔を行ったり来たりしていた。
そこは許し合うところじゃないのか?
「ちょ、ちょっと二人とも」
「ロキは黙ってて」
「ロキは口を挟まないでください」
止めようとしたら二人揃って止められた。
やっぱりこの二人息ピッタリで実は仲良いだろ!?
「ミリア、時間も無いし。次であんたへの言葉は最後にする」
「ん。私も最後に一つだけ言う」
二人は同時に深呼吸すると、お互い真剣な顔で目を真っ直ぐ見つめ合った。
「あんた達を信じる」
「私とロキを信じて」
アイリスとミリアの声が被り、二人が小さくフッと笑みをこぼした。
「お母さん助けて戻ったら、一緒にご飯食べよ。今度はちゃんと話し聞きたいから」
「ん。分かった」
先ほどまで繰り広げられた悪口の応酬はどこへ行ったのか。二人は晴れ晴れしい表情で俺とルカの方に振り向いた。
「ロキ、ルカ。ダンジョンに行くよ」
ミリアは自信に満ちあふれた表情でそう言った。
寂しがり屋の子が一日で随分と成長しちゃったな。俺もがんばらないと。
そう思ったら、何となくミリアの頭に手を置いていた。
「ロキの言う通り大丈夫だった。でも、まだこれからだから、ロキお願い」
「任せとけって。俺はミリアが必要としてくれた最強の剣だからさ」
ミリアの言う通り、まだこれからだ。アイリス達を守り、アイリスの母親を救い出すことで、ミリアは初めて孤独から解放される。
俺を必要としてくれるミリアのために、俺は改めて最強の剣であることを誓った。




