洞窟で待ち受ける物
「めでたく話しもまとまった所でロキ君。ちょっとこれ複製してもらって良い?」
すると、ルカがいつもの眼鏡を取り出して俺の前にある机に置いた。
武器じゃないけど、眼鏡も複製出来るのか?
俺はそんな疑問を抱きながら眼鏡を見ていると、頭の中にぼんやりと名前が浮かんだ。
「出ろ。アナライグラス」
口に出してみると同じ眼鏡が机の上に現れた。
装備品ならコピー出来るのか。
「んー、やっぱり魔法系の武具ならコピー出来るんだねぇ。ほい、アイちゃんにはこっちの複製品を使ってね」
「え? 私に何か出来るの?」
「うん。ルカ姉様は解呪で疲れるから、アイちゃんが敵の解析してね。色々な情報が文字や数字で浮かび上がるから、必要なことをミリっちとロキ君に教えてあげて。それがアイちゃんのパーティとしての役割」
「分かったわ。ミリア、ロキ、私も二人の役に立つよう頑張るよ」
剣士系の俺、暗殺者タイプのミリア、敵ステータス解析のアイリスと役割分担が出来たけど、ルカって本当に何者なんだろう。
「ルカさんは何者なんですか?」
「ちょっとした魔法使いってところかな? ま、時間も無いし、私のことは置いておいて行くよー」
ルカはまだ何かを隠している気がする。
でも、今回も逃げられた。
ルガールのスパイではないと思うし、ダンジョンの中に一緒に行っても大丈夫だよな。
○
ダンジョンに突入すると、ミリアはすぐさま剣を抜いた。
「こっち。姿勢を低くして、離れずについてきて」
罠の気配を感じているのか、ミリアはいきなり注意を促してきた。
言われてみれば、回りに人が一人もいない。
ダンジョンの一階層目なら駆け出し組がいてもおかしくないのに。
つまり、誰かが人払いをしたということだ。
「大広間に出るよ。この階層なら魔物は弱いけど、アイリスは油断しないで」
細い通路から広間を覗くと、ルガールの手下も小型の魔物もいなかった。
代わりにいたのは、四メートルぐらいある石の巨人だった。
「……でかいな。ゴーレムってやつか」
「おかしい。ゴーレムは中層以降の魔物。奇襲をしかける。ロキはアイリス達をお願い」
ミリアは霧で姿を隠すと、小さな足音を残して走り去った。
結晶龍の時と同じように背後から回り込んで、魔剣ペールを刺せば一撃で仕留められる。
単独行動が出来ればミリアは強い。余裕で仕留めてくれるはずだ。
「っ!?」
ゴーレムの目の前で突然霧が弾け、ミリアの身体が吹き飛ばされた。
「「ミリア!?」」
俺とアイリスの驚く声が重なり、頭が衝撃で固まっているとルカの叱責が飛んできた。
「ぼけっとしない! アイちゃん! あのゴーレムの情報を早く解析して!」
「は、はいっ! ジャイアントゴーレム、個体レベルA+級! スキルは魔法耐性とオートカウンター? 自己の周囲に来ると、気配を感知して殴りかかってくるよ。ルカさんA+級ってどういうことですか!?」
「C級が基本値、強さが十倍になるとB級、さらに十倍でA級。特殊能力がプラスだよ。魔神にかなり近い力を持ってるね」
「って、それ良く分かんないけど、ヤバイやつ!? ミリア大丈夫!?」
アイリスが必死に呼びかけるが、広間の奥に吹き飛ばされたミリアから返事は返ってこない。
「って、やっば!? こっちに気付いた!? えーっと、えーっと、狙いは……うわっ!? 私!?」
「っ! すぐ倒してミリアの所に行くぞ!」
不意打ちをもろに貰ったせいで、ミリアは気絶しているかもしれない。
打ち所が悪ければ……。くそっ、考えるのは止めだ。
相手は人じゃ無い。全力でぶつけてやる!
「ペール! いけっ!」
ゴーレムの頭上に向けて魔剣を射出する。
だが、魔剣はゴーレムの手前で掴まれた。
「白羽取り!? くそっ、なら炎帝の剣の魔法でっ!」
宿屋に居た時は部屋を燃やす危険があったけど、ダンジョンなら問題無い。
俺は自分の周りに四本の炎をまとう剣を展開し、同時に振るった。
剣から放たれた四羽の火の鳥がゴーレムに向けて飛翔し、紅の業火がゴーレムを包んだ。
「ダメ。まだ生きてるっ! ダメージは与えているけど、ひるんでない!」
「くっ、遠距離がダメならっ!」
俺は魔剣ペール・メールを両手に構え、自分の周りに炎帝の剣と螺旋の槍を滞空させながら、ゴーレムに向けてつっこんだ。
「ロキ! 右手のパンチが来る!」
アイリスの声が聞こえた瞬間、俺の頭目がけて岩のような拳が振り下ろされる。
「遅いッ!」
槍を射出し、ゴーレムの手に槍を突き刺す。そして、生まれたヒビに向けてペールの刃を差し込んだ。
するとゴーレムの腕が砂に代わり、ボロボロと崩れ落ち始めた。
「やったか」
「まだ! 右腕を自分で捨てただけ!」
「ちっ、地味に賢い!」
毒が回る前に腕を捨てる判断力は、敵ながらあっぱれだ。
痛覚が無さそうな石人形ならではの行動だ。
「ロキ。左腕をお願い」
「ミリア? 了解した!」
ミリアの声がするが姿は見えない。
でも、それがミリアの戦い方だ。なら、俺はそれに合わせて前に出る。
腕が一本なら、カウンターは一人にしか出来ないはずだ。
「でえええい!」
俺に向けて振り下ろされるゴーレムの左腕に向けて、渾身の力を込めて魔剣を放った。
すると、今度は腕だけでなく胴体からゴーレムが砂に変化し、砕け散った。
「さすがロキ。ゴーレムの攻撃を相殺出来るほどの腕力もあるんだ」
砂煙の中からミリアが姿を現すと、ミリアは目を輝かせながら俺の側に近寄って来た。
「言われてみれば、普通に受け止めたな」
「私だったら押しつぶされてた」
魔神に憑依している俺と違って、ミリアの身体自体は普通の人間の女の子だし、って、その普通の女の子が吹き飛ばされたんだ。
怪我一つ無しで無事な訳がない。
「って、ミリア怪我してるじゃないか!? 頭から血が垂れてる!」
「ん? これぐらい平気。良くあること。このマントのおかげで衝撃は大分抑えたから問題無い」
「問題無いじゃないよ。ルカさんそのでかい鞄に何か薬とか入ってないですか?」
戦闘を終え、周囲の安全が確保出来たので俺はルカ達を近くに呼び寄せた。
「あるよー。というかこういう時のためのルカ姉様なんだよね」
ルカはそういうと、白い手袋を手にはめ、ミリアの頭をネコでも可愛がるように撫で始めた。
「ルカ。もうちょっと優しく」
「ハッ。しまった。ついつい楽しくなっちゃって。でも、血は止まったでしょ?」
「ん。もう大丈夫」
ルカが手を離すと、確かにミリアの血は止まっていた。
これもきっと魔法の力なのだろう。
「その手袋の力ですか?」
「そそ。ユニコーンの毛皮で出来た癒やしの手袋。ロキ君も複製出来るように覚えておいて」
「分かりました」
「素直でよろしい。ロキ君がなでてあげた方がミリっちも喜びそうだしね。そして、私は魔力の温存が出来るし一石二鳥だよ」
本音は後半部分か。どうしても魔力を溜めておかないといけない理由があるのだろう。
あんまりミリアに無茶をさせる訳にはいかないな。と思った矢先、ミリアが尖った石を手に持ってじっと見つめていた。
「ミリア?」
「怪我すればロキがなでる……」
「ちょっ!? そんな怪我しなくても、帰ったらいくらでもなでるから落ち着けっ!」
「ん。分かった」
ミリアは頭の打ち所が少し悪かったのか、それともルカが触れて冗談でも言えるようになったのか、とんでもないことを言い出した。
ん? というか、ミリアに対するつっこみならアイリスがやりそうなもんだけど、何かさっきから静かだな。
気になってアイリスの方を見てみると、アイリスはまだ戦闘の高揚感が抜けないのか、どこか落ち着かなさそうに視線を泳がせている。
「アイリス大丈夫か?」
「だ、大丈夫。ちょっと緊張しちゃって。その……ミリアも怪我が治って良かった」
「ん。問題無い。それよりアイリスもロキの役に立った。急ぐよ」
「う、うん。私にも力になれることがあるんだね」
ミリアなりの感謝の言葉で、アイリスは落ち着きを取り戻したのか、小さく頷いた。
予想以上に時間を取られたし、この先も今みたいに罠が待ち受けていることが考えられるけど、引き返す訳にはいかない。
その想いを胸に先へ進むと、今度は黒いフードを被った一人の男が立っていた。
「やるもんだねぇ。さすが僕が目を付けた商材だ。結構強いペットだったんだよ。さっきのゴーレム」
「テュール=ルガールか?」
「うん。中身は僕だよ」
昨日会ったテュールと声が違う気がして、俺が名前を確認すると、男はゆっくりフードを外した。
中から現れたのは痩せた狼ではなく、太った豚といったような印象を受ける男だった。
「肉体は奴隷の物だけどねっ!」
おどけた様子で小太りの男はその場でくるりと一回転した。
この狂った感じは確かにテュールだ。
ダンジョンの奥から、あの身体を操っているのだろうか。
「アイリス。解析出来るか?」
「う、うん。えっと、トロス=クディッチ……状態は死亡になってる」
「……やっぱり死体を操ってるのか」
それならば、魔剣ペールの毒で動けなくしてやれば良い。
「おっと、ロキ君。僕は何も今すぐもう一戦やろうとしている訳じゃない」
「何だと?」
「ルールを追加しに来たんだよ。だって、聖痕持ちの魔女に、魔神がいる。人間が率いるには随分度が過ぎたパーティだよ。だから、後五分以内にダンジョン最奥まで到達しなかったら、捉えたお母様は僕のお人形になって貰うよ」
「ダンジョンをたった五分で突破しろだと!?」
「ククク。良い驚きっぷりだ。でも、出来るはずだよ。ミリアは一度踏破している。第一階層にある転移陣で最奥まで一気に飛べるはずだ」
それでも転移陣のある場所まで五分で行くとなると、走って間に合うかどうかだ。
魔物の相手をしている暇は無いし、襲われてもひたすら避けて、真っ直ぐ転移陣に向かうしかない。
「さぁ、僕達の遊戯を再開しようか!」
小太りの男が手を広げながら高らかに宣言すると、四つの通路から黒いフードを被った男達が現れた。




