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魔神対決

 テュールにとっては、無茶苦茶な条件も、この妨害も遊びを面白くするための行動だろう。

 あいつは最初から俺達を陥れようとしているだけだったんだ。

 合計三十人。全てを相手にしてから、移動したら絶対間に合わない。


「ロキ、突破出来る?」

「やるしかないだろ。アイリスを頼む」

「ん」


 転移陣のある方の通路には、六人の敵が大きな盾を構えて横一列にならんでいる。

 俺達を通さないようにする気が満々だ。


「どれだけいようと、最強の剣である俺がこじあける!」


 所詮死体だ。俺の敵じゃない。

 俺は魔法で炎の鳥を飛ばし、衝撃で敵の盾を持ち上げさせると、敵の足下から槍を発生させ、一気に敵を打ち上げた。


「毒が効くってのは分かってるんだよ!」


 無防備に浮いている敵に向けて、俺は飛び込むと魔剣で切りつけた。

 あっという間に敵を無力化し、突破口を開くことに成功する。

 テュールはどうやら俺の力を見誤ったようだ。この程度足止めにすらならない。

 それにしても、聖痕の魔女ってルカのことだよな?

 といっても、考える時間は無いか。


「みんなこのまま行くぞ!」


 目的地までは大広間を二つ抜ければ到着するけど、今は一秒でも時間が惜しい。

 ミリアが心を許して甘えた人が人質にされている。

 間に合わなかったら、ミリアにどれだけ深い心の傷が刻まれるか分からない。

 ミリアのためにも、絶対に助け出さないといけないんだ。


「敵がいない? なら、この広間も一気に駆け抜ける!」


 後ろから敵は追いかけてくるが、次の広間には巨大な魔物は存在しなかった。

 さきほどの広間で俺達を仕留めようとして、他の部屋に戦力を置かなかったのかな?

 最後の細い通路にも敵はいない。体感時間はまだ三分程度だし、間に合うはずだ。

 だが、その考えが甘かったと俺はすぐに思い知らされた。


「やぁ、待ってたよ」

「なっ!?」

「ルガール商会傭兵百五十名、個体レベルA+の火龍に、先ほどのゴーレムを三体だ。彼らと楽しいダンスを踊ってくれたまえ」


 学校の敷地ほどはある部屋の半分を、埋め尽くすほどの敵の軍勢に、俺は思わず足を止めた。


「この数……突破は困難」

「二人でなら決して倒せないことは無いけど、時間が間に合うかどうか……」


 剣を構えたミリアが低い声を出し、憎らしげに敵の軍勢を睨んだ。

 一対多の戦いが出来るとは言え、一人で七十五人と魔物二体は試したことが無い。

 一秒毎に一体倒しても一分以上かかってしまう。

 となれば、俺かミリア、どちらか一人をここに残して、一人がテュールのもとに先行するしかない。


「うわわっ!? 後ろからも来てるよ!」


 アイリスの慌てる声とともに、俺の腕に飛びついてきた。

 アイリスの母親を救い出すにはルカも必要だし、やはり俺が残って、ミリアにはテュールを倒して貰うしか無いか。


「ミリア先に――」

「ミリっち、ロキ君、アイちゃんを連れて先に行きなさい」

「ルカさん!?」


 俺がミリアに先に行けと言おうとしたら、ルカが俺達に先へ行けと告げた。


「二人は戦術的には強いんだけどね。お姉様は戦略的に強いのよ」

「さっき魔女とか言われてましたけど」

「ロキ君と私は同類。混じってるのよ。私も」


 ルカの言葉で肌にピリッと電流が走った。

 ルカの身体から発せられる威圧感が膨れあがり、同時に彼女の腕で炎が燃え盛っている。

 ルカがその腕を振るうと、敵の中央で爆発が発生し、転移陣に続く道が開けた。


「ま、こんな感じに火の神様がちょっと混じった身体してるのよ。巻き込むから早く行って」

「任せても大丈夫なんですよね?」

「ルカ姉様に任せなさい。ぱぱっと終わらせて、追いついてあげるから」

「すみません! ミリア、アイリス行くぞ!」


 敵が隊列を整える前に、俺達は一気に走り出した。

 ルカ姉様に任せなさい。といつも冗談にしか聞こえなかった言葉が、今はすごく頼りに感じる。


「ルカ。ありがと」

「ん。ミリっちは分かってるねー。やっぱこういう時は感謝よね。ロキ君次はちゃんとミリっちを見習ってねー」


 ったく、こんな時にも人をからかおうとしてくる辺り、さすがな人だよ。

 そして、俺達は何とかテュールの罠を抜け、ダンジョンの最奥に転移するのであった。



 ダンジョンの最奥にはどこから持ってきたのか、大きな赤い椅子に座るテュールがいた。


「テュール=ルガール!」

「クカカカ。本当に五分以内に到着しましたか。なら、この女を操り人形にするのは取りやめです」


 やせこけた頬に鋭い眼光、笑っていながらも感じられる圧倒的な異質感は、間違い無く昨日出会ったテュールだった。

 椅子の後ろにはアイリスの母親が倒れている。怪我は無さそうだけど、動く気配が無い。


「良かった……大丈夫。生きてる。気絶してるだけ」

「アイリス。お母さんを連れて後ろに下がれ」


 眼鏡をかけたアイリスが確認しているのだ。間違いは無いだろう。

 後は俺とミリアがテュールさえ倒せば、こんな馬鹿げた遊びは終わりだ。


「嫌だなぁ。僕は約束を守る男ですよ」

「昨日の今日で手を出した奴が何を言う」

「はて、昨日はあの場で戦わないという交渉だったはず。それを勝手に勘違いしたのは君達だよ。でも、そんなことはどうでも良い。殺し合いを楽しもう。先ほどまでの遊びで身体もあったまったはずですし」

「こいつ……」


 テュールは武器を何も持っていない。それなのに、何故こうも背筋が冷たく感じるほどの殺気を放つんだ。


「ロキ、ミリア、この人は人間じゃない! 魔神だよ! 能力は人の――」

「ばれてしまいましたか。でも、それ以上は言わせませんよ? 僕の能力は内緒です」

「あっ……うっ……カハッ」


 アイリスの声が突然途切れ、首を押さえながら倒れてしまった。

 テュールは椅子に座ったままで、何かをした様子はない。


「さて、五月蠅いのもいなくなったことだし、始めましょうか」


 死体を人形のように操る能力を持つ相手だ。

 遠距離に特化した力を持っているに違いないが、作用の仕方が分からない。

 弱点はあるのか?


「僕の能力に弱点は無いですよ」

「なっ!?」


 座っていたはずのテュールが、いつの間にか俺の懐にまで踏み込んでいた。

 テュールの固く握りしめられた拳が、俺の顎に向かって撃ち放たれている。


「ちっ!」


 何とか反応して俺が身体を思いっきり後ろに反らせると、顔に風が吹き付けてきた。

 細身の腕からは信じられないほど強烈な拳だ。俺と同じ魔神と言われるだけはある。


「今のを避けるか。さすが魔神に憑依しただけはあるね。でも、経験は浅いと見た」


 テュールの声は聞こえるが、姿は目の前から消えている。

 代わりに背中から強烈な衝撃が俺を襲った。


「え?」


 俺が声を出した頃には、自分の身体は壁に打ち付けられていた。

 テュールが消えて攻撃してきた。としか表現しようが無い。

 何をされたか理解出来ぬまま、いつの間にか俺の居た場所に立っていたテュールを睨み付けた。すると、テュールは小さくフッと笑い、一歩左に身体をずらした。


「ミリア。素晴らしい隠密性だよ。でも、魔力の反応があるのなら、僕には届かない」


 テュールの奥から黒い霧が俺に向かって迫ってきた。

 ミリアが俺に向かって突っ込んで来ているのか? となると、やばいっ! 間違い無く致死性の毒で攻撃しているはずだ。


「ミリア、俺だ。ロキだ!」

「ロキ? なんでさっきから呆けてるの?」


 ミリアの攻撃を防ぐために展開した槍がミリアの剣を受け止めたが、勢いを殺しきることは出来ず、ミリアは俺に覆い被さるようぶつかってきた。


「ミリア。何があったか分かるか?」

「……テュールが消えた」

「そういうことか。テュールは消えてない」

「どういうこと?」

「ミリアが飛びかかってくる前、テュールは普通に一歩左にずれただけだ。俺の時も急に目の前から消えたと思った。テュールは俺達の視界だけを止めたんだ」


 発想としてはいきなり眩しい物を見た時に、視界にやきつく残像が実体になっている感じか。


「あはは。ご明察。良いね。一発で見抜いたんだ」


 テュールが手を叩いて俺達を褒め称えている。

 どこまでも人をバカにしてくるのが好きな男だ。


「ミリア、挟み込むぞ。タネさえ分かればこんな奴!」

「ん。分かった」


 左右に一旦分かれた俺達は、テュールを挟み込むように斬りかかろうとした。

 俺達のどちらかの視界を操っても、もう片方がテュールを仕留めることが出来る。

 そして、俺達が剣を振り下ろすその刹那、テュールが口元を歪ませた。

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