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第二話

  二  誰かの為の俺の人生



 夕暮れの空の下、歩道橋の上で悔いるように葵は立っていた。

 ――誰だ。牡丹を助けるとか言っていた大馬鹿は。

 どこからか、吐き捨てるように出された言葉が聞こえる。

幻聴だと頭に吹き込み、首を横に振って、下を走る車を眺める。

 高校に入学してから一ヶ月が経ち、直に夏になる。

新しく出来た友達とこれからの予定を相談し合う学生の姿や入社したての営業している会社員が自分の後ろを通り過ぎる。相変わらず葵には、一緒に帰る友達がいなかった。

 さて、結論から言わせてもらう。

 駄目だった。

 牡丹は、不治の病にかかって亡くなった。

 医者でも無いのに、いや、医者でもできないことを高校生がすることなど、無理な話だったのだ。

 まだ、鮮明に覚えている。

 病室で言った牡丹の最後の言葉。

 

 

――あの四年生の、夏の終わりの出来事である。

『もし、また会えるなら、葵の花を持ってきてよ。……もちろん、葵が咲かせた花だよ?』

 牡丹のために、内緒で花を育てていたのに気付いていた牡丹。

 悔しい思いで、何もできない現状が悔しくて、でも、牡丹の手を握っていてやることしかできないのが居た堪れない。

『葵が咲かせた花、見たかったなぁ……』

 葵は牡丹の言葉に最後まで頷くことはなく、動かなくなった牡丹に死ぬなと叫び続けていた。

 これで四度目だった。

牡丹の両親が遅れて来て、母親は泣きつくように牡丹へと寄り添い、父親は、「最後まで牡丹を見ていてくれてありがとう」、と葵の肩に手を置いた。

疲れたような言い方、諦めたような顔。

とっくに分かっていたのだろう。

牡丹の体が動けなくなることを。

最後は、自分たちが生まれ育った村で、一生を終わらせてあげたいとでも思ったのだろうか。

そして、葵の心はその時だけ子供に戻った。

「どうして最初から最後まで、牡丹を見ていてあげられなかったんだ」

 声が枯れる程に叫んで、まともに声が出ないはずなのに、この時だけは抑え切れなかった。

子供の戯言だと思っていても、涙を止めない父親と母親。

 伝わっているのなら、どうして何度も同じことを言わせるのだろう。

 これも四度目だった。

 牡丹の葬式には、一度も行っていない。今回も行かないつもりだ。

 綺麗な花で飾られた棺を葵は見ることができないだろう。

「俺が咲かせた花じゃないと」

 牡丹自身がそれを望んでいたのだ。だから、叶えてあげたい。

 今、牡丹の体は日向寺の墓地にある。

 だけど、そこに牡丹が居るわけじゃない。

 牡丹の魂は、そこにはいない。



 葵は今、隣町の高校に通っている。

 寮生活もできる高校なのだが、実家があるのだし、寮生活を選択する理由もなかった。

 他の学生は家が嫌いだからと、寮を選んでいる割合が高い。

 葵自身も、友達(居たらの話だけど)と一緒に共同生活ができたら楽しいだろうな、と想像していると普段の寺内のイメージが割り込んできた。

 一緒の服を着て、寝食を共にし、同じ主を信仰する人たちの姿が見える。

 考えてみれば、それも一種の共同生活なのだろうか。

「何か違うな」

 二つを隔てる何かを模索してみるが、年齢層以外に大きな違いが見つからない。

 そして、深い溜め息。

最近になって、溜め息の数が増えてきた。

「また、夏が来るのか」

 牡丹がいなくなったあの夏から、年々、夏が近付くに連れて溜め息が多くなっていることに気付かない筈がない。いや、気付きたくないだけなのかもしれない。

偉そうなことを言って、結局何もできなかった自分が許せないのだ。

「電車はまだ、来ないな」

後一時間以上は待たなければ来ない電車をベンチに座って待つ葵。

 駅のホームも、仕事終わりには些か早い時間帯で、学生と一般人の姿しか見ない。

 皆、村に帰る人たちだろうか。いや、途中で降りるのか。

 頭の中で思考を巡らせていると、一人の女が声をかけてきた。

「こんばんは!」

 声の方を見る。

 隣に、すっかり大人びて、良く分からない香水を漂わせ、長く伸ばした薄紫色の髪を後ろで結んでいる菖蒲が居た。

 いつからか眼鏡をかけるようになっていた菖蒲。参考書を方手にして、葵の隣に腰掛ける。

 すぐに公英の姿を探すが、今日はいないらしい。

 小学校の頃の班員は全員で同じ学校に進学し、同じクラスに居る。葵は帰宅部で、菖蒲は文芸部、公英はサッカー部に所属していた。

 正直に言うと、ここに居づらい。

 別に菖蒲のことを男として好いているわけでは無い。

ただ、公英という彼氏が居る菖蒲と一緒に居るのは、クラス内で噂にされること間違い無しのはずだ。

他人の良し悪しの噂なら、聞くに堪えないものではないが、自分の噂だと知るとこうも不愉快になるのは何故なのだろうか。

 極力人との関わりを避けてきた葵であった。が、この二人とは切るにも切れぬ縁で無かったため、諦めて一緒に居ることにしていた。

 何故、人との関わりを避けているのか。

 数十年後までの未来が分かっている葵にとって、一緒に過ごしている内に気が緩み、注意していても未来に起きるはずの出来事を話し兼ねないからだ。

 昼ドラで例えるとすれば、登場人物たちの相対関係が話を聞く前から描けてしまう、更にそれを口にしてしまうとかだろう。

 構想するのが楽しいのに、もしそんな奴が出てきたとすれば、張り手をプレゼントしよう。

 ……じゃあ、張り手をプレゼントされなければならないのか。

「どうしたの、葵君? 頭を抱えて」

 参考書を閉じて、難しい顔をしている葵に声をかける菖蒲。

 まさか、他人を不安にさせてしまったのかと一応謝る。続けて、丁度良いと、今ひらめいた名案を菖蒲に伝えてみた。

「何でも無い、ごめん。心配ついでに、頬を叩いてもらっても良い? 一回で良いから」

「い、嫌だよ!?」

 引いている菖蒲に、残念そうにした葵。残念そうな姿を見て更に引いている菖蒲の目が汚物を見るような目になる。

 すかさず、菖蒲が葵との間を拳五個分に空ける。

 以降、口を開くことも無い。会話が止まると、菖蒲は再び参考書を開いた。

 葵は携帯を取り出し、植物について調べている。

 趣味のガーデニングは、相変わらず継続している。

 牡丹との約束もあるし、野菜以外に花を育てる知識や技術をネットから学んでいた。

 けれど、中学生の頃からだろうか。それだけでは無くなっていた。

 花屋を、あの村で営もうと考えていた。

 最初は、農業を村でできれば良いかなと考えていた。すると牡丹が、「花も育ててみると楽しいよ」、と言っていたため、花について調べるに連れて、興味が野菜から一気に花へと移ったのだ。

 花屋を営むことができれば、一年を通して牡丹に花を見せてあげられる。

もちろん、葵自身で育てた花を、だ。

 高校を卒業したら、花について学べる専門学校に進む予定である。

 一度目と二度目はそんなことを考える暇も無く、牡丹のことを忘れようとガムシャラに生きていたけど、ちゃんと向き合おうとしていた。

 自分と。

 そして、牡丹と。

 だから、三度目は期待していたのだけれど、夢を叶える前に人生が先に終わってしまった。

 今度こそ夢を叶える。

 そう決心して、三度目と合算して二十数年経ってしまっているが、もうすぐなのだと心の中で断言するように頷いた。

「あ、電車来た」

 菖蒲の言葉と、踏切の音が重なる。

遠くから、古めかしい電車が走ってくるのが見える。

 しばらくして停車し、扉が開いた。

 降りてくる者は大勢いたが、乗る者は十人にも満たなかった。平均しても、一日で百人くらいしか利用しないのではないだろうか。

「早く乗ろうよ」

「ああ」

 ホームに居た他の人は皆、既に乗り込んでいる。

 葵と菖蒲も、慌てるように駆け足で電車に乗った。



 駅で菖蒲と別れた葵は、寺への帰路についている。

 小学校時代と何も変わらない田んぼ道を、飽き飽きしながら帰る葵。

 ここに生まれてから、一度目を含めると百六十五年か。これだけ長く過ごせば、何かしら変化してもおかしくないと思うけど、兆しは一向に無い。

 ――はずだった。

 先に続く田んぼ道。太陽は完全に山に隠れ、今は不規則に設置された街頭の下を忍者のように走って移動していた。別に、暗い夜道が怖いわけではない。

 その最中、一人の少女を見た。

 麦わら帽子に、季節を先取りしたかのような白い薄手のワンピース。ここまでなら、割とよく見かける組み合わせかもしれない。

 けれど、少女の髪は燃えるような長い赤毛であったのだ。

 見覚えが無いわけが無い。

あれは、牡丹のものだ。

声をかけようと近寄ってみる。すると、少女は何かから逃げるように走り去ってしまう。

――追わなければ。

心臓が高鳴る。

葵の帰る時間帯は、基本的に誰とも出会うことが無かった。ましてや、長い赤毛の少女などと出会った覚えが無い。

つまり、数百年ぶりに新しい出来事が起きたことになる。

どこで何をしたのかは知らないが、もしかしたらバタフライ効果のような、過去に、未来で何か大きな事態を引き起こしてしまいそうな小さな出来事でもあったのかもしれない。

凄まじい高揚。

強い使命感と責任感が葵の心を駆り立てる。本能と呼ぶべきものが疼いているのだろう。

(あっちは、日向寺の方だよな)

 ほぼ一本道であるけれど、村の人は田んぼ同士の間に作られている道を通って各々の家へと辿り着けるような土地運用をしていた。

日向寺は、駅から伸びる大通り(田んぼ道)の最も奥にあった。それから後ろは山が連なっている。

(やっぱり、寺の方に何か……?)

 少女は一向に曲がろうとせず、道のど真ん中を走っているところを見ると、少女はどうやら寺に向かっているらしい。

 それよりも、あんなに慌ててどうしたのだろうか。まるで、後ろから恐ろしい化け物でも迫ってくるような慌て方だ。

 葵から逃げているのかと推測してみるが、あの、時々振り向いて後ろを確認する余裕があるのを見る限り、もっと遠くから迫ってくる者に対しての動作だと伺える。

 もしや、と後ろを振り返ってみる。

 初めは違和感に気付けなかった。

街頭の灯りがただ揺れているだけ。そうだとしか捉えていなかった。

違うのだ。

人の顔。

 青白い、女の顔だ。街頭に照らされる度に顔が姿を見せている。どうやら姿を見せられるのは灯りに照らされている時だけらしい。

 その顔が空中に浮かんでいて、物凄い勢いで迫ってきていた。

「い、いやぁあああああああ!?」

 暗い夜道に、葵の悲鳴が響き渡った。

軽いランニングフォームから、一気にオーバーランに切り替える。

 全力疾走だ。

 少女を追いかけるつもりだったが、予定の変更をしなければいけなくなった。

 あれから逃げなくてはならない。無論、怖いからだ。

 しかも、真顔で迫ってくるから尚怖い。

 いや、怖い顔をしながら迫ってくるのはもっと怖いが。

「ちょっと、あれ、何! ドッキリ!? あれ見るのは生まれて初めてなんだけ……いやぁああああああああああ!」

 向こうも加速を始めた、想像推移で約四十メートルまでには近付いているはず。

 少女とも、二十メートルまで距離を詰めることができた。

 これは、選択肢が一つしか用意されていないみたいだ。

 体力を使い切るつもりで更に加速。自分の身体能力の高さに、帰宅部で終わらせても良いものだろうかと悩んでみるが、後ろの顔を見るとそんな悩みも消えてしまう。

 そして、完全に少女との距離を縮めた。その瞬間だった。

「腰を失礼!」

「え」

 返答よりも先に、少女の体を抱きかかえ、肩に乗せる。妙な軽さに違和感を覚えるが、今重要なのはそれではない。

 倒れないように体制を維持して、見えてきた寺の階段を思い切り駆け上がり、門を通ってスライディングするように敷地へと入る。ダイナミックな帰宅に自分でも爽快感を覚えた。

 そして、すぐに振り向く。

「顔は、来ない!」

 門を通った時点で勝利は確信しているが、だとしても心配である。

 いくら強い結界が張られているとは言え、万全とは言えないのだから。

「は、離してよ」

 懐かしくて、優しい声が聞こえる。

 発生源である少女が、早く降ろしてと言わんばかりに背中をぽかぽかと叩いていた。

 慌てた葵は、肩から少女を下ろす。

「ごめん、ちょっと確認させてもらっても良いかな?」

「なに?」

 腕を組んで頬を膨らます少女に一度謝罪し、葵は尋ねる。

遠目から見れば、兄妹の関係に見えなくもない光景ではあるが、近くから見ると、抵抗している少女に無理矢理尋問している危ない男という絵面にしか見えない。

 いや、乱暴する気はさらさらないよ。

「君さ、名前は?」

 回りくどい言い方はしない。

 もし間違えていたら、謎の顔を警戒して簡易結界用の札を用意して少女を家へと帰らせれば良い。

 だけど、仮定論は時に断定論へと移り変わるものなのだ。

「牡丹。藤堂牡丹だよ」

 麦わら帽子を外しながら、少女は名乗った。

 名前にも驚いた。同姓同名なんてありえない話でないけれど、村の人口が墓地の数よりも少ない村ではほぼありえないだろう。

 けれど、一番に驚いたのは頭の上に生えた、

「角?」

 二本の黄色と黒が渦を巻くようにペイントされた角にであった。

 人間に、角なんて生えない。

 だとすれば、少女は人ではないことになる。

 牡丹の姿をした、何かだ。

「お兄ちゃんは葵を知らない? ここの家の男の子」

 日向寺に指を向けて、小首を傾げる牡丹。

葵。それは間違いなく自分を指しているはずだ。

だけど、この牡丹が今の葵を示しているのか、小学校四年生の葵を示しているのかは分からない。

もしかしたら、巡り巡って奇跡が起きてしまったのか。

「ちょっと来い」

 早くした方が良い。

 後にも先にも傷つく未来しかないのなら、見せた方が良い。

「わ、どうしたの?」

手を握り、牡丹を連れて移動する。

 急に様子が変わった葵に、牡丹は不安そうな声を出した。

「ねぇ、どこに連れて行くの?」

「……」

 牡丹の声を無視して、その場所へと迫る。

 そこには、すぐに着いた。

「……え? どうして、私の名前が書いてあるの?」

 祖母から聞かされていたし、間違いでは無いだろう。

嘘偽りの無い藤堂牡丹の墓地だ。

 牡丹は墓石をなぞり、自分の名前を一文字一文字よく確かめている。

 この事態が何なのか分からない。当人も分かっていないようなのだから、どうすることもできないか。

 ただ一つ、牡丹が分からないのだとすれば、葵が確認しなければならないことがある。

「寺側は、何をやっている?」

 これが、因果を歪みかねない事態であることだ。

 物事は全て、選択によって運命が決められているという。

葵の輪廻する人生も然りで、ある程度の選択である程度の事象を変えるのには異変は起きない。例えば、その日は朝食を抜かないはずなのに、あえて抜いたとしても何も変わらない。世界を変える大きな変化ではないからだ。

 しかし、流石におかしい。先ほども言ったバタフライ効果についてもだが、人事ができる範囲を超えている。

 未曾有の天変地異が来てもおかしくないレベルだ。

 死者が歩いているのだから。

 いや、死んでいるのかさえ分からない。

 よし。

確かめてみよう。

「南無三!」

 頭を撫でる。

「ふぇっ?」

 一瞬驚いて、すぐに心地良さそうな顔になる。

 手を放す。すると、もう終わりなのかと残念そうな顔になる。

 感情の変化は確認できた。

体温も、冷えているとは到底言えなかった。

「い、生きているのか?」

 心臓の鼓動を確認したい。手で触れるか。耳を胸に当ててみるか。どっちにしようか。

いや分かっている。

それをやったら犯罪だよ。

「じゃあ、牡丹ちゃん、手を出してもらえる?」

「うん、こう?」

 右手を前に出した。握手をするような感じで、前に向けてきている。

 牡丹の細くて小さな手首を握り、親指で脈を測る。

 脈を。

「脈が、ある?」

 さっきの頭を撫でる場面はいらないのではないかと思えるくらい単純だった。

 目の前にある牡丹は生きていて、間違いなく存在してしまっている。

 じゃあ、墓の下に埋まっているのは誰なんだ。

 背後で砂利が擦れる音が聞こえる。

 はっとすぐに振り向くと、そこには制服姿の公英が居た。

「日向。その子は……?」

 青冷めた顔で公英は牡丹を指す。

度々、公英と菖蒲が遊びに来たときに会っていた少女の姿。会っただけでない、幾度となく遊んだこともあるはずだ。

途端に公英は怯えたような、この世のものでは無いものを見るような目つきで、札を取り出した。

札には対霊用の文字と模様が描かれていて、公英が持っているのはその最下の能力しか出せないものだ。

何故そんなものを持っているのかと聞かれれば、公英は学校に行きながら、日向寺で修行をしているからと答える。

朝早く起きて、日向寺で弟子たちと一緒に修行をし、それから学校へと行っているのだ。跡取りである自分が言うのもなんだが、いっそのこと公英が跡を継いでくれれば良いのにと毎度思っている。それだけ修行に勤しむ姿が真剣だったのだ。

「俺も驚いているよ。つまり、お前の考えていることは間違っていない」

「な、なんだ、それは! 俺、牡丹の葬式に参加したんだぞ!?」

 公英は普段からポーカーフェイスを決め込んでいるが、自分が納得できないことには真っ向から立ち向かう人間であった。

そのせいだろう。今の状況にも冷静に対応できないのは。

 と言うか、それ扱いなのか。

 一緒に遊んだ仲なのに、とんだ言い草だ。

 頭を冷やさせるために、葵は口を開いて説得を試みる。

「少し冷静になれ、そして考えろ。死んだ人間が生きて歩く。この矛盾は並行しているだろ? なら、下に埋まっているのは誰だ? 紛れもない藤堂牡丹のはずだ。なら、ここにいるのは誰だ? 藤堂牡丹と似たり寄ったりしているが、別人かもしれないじゃないか。墓が荒らされた様子も無いし、な」

 説得と呼べたものではない語りを終える葵。

 公英は少しだけ落ち着きを取り戻したらしい。いや、葵が冷静過ぎて、恐怖を抱く対象が変わったのかもしれない。

 とにかく、札をしまわせるのには成功して良かった。最下位などと説明したが、結界内でそんなものを使われたら他の弟子たちに見つかり、大騒動になってしまう。

「分かったら、用事を済ませてとっとと帰れ」

「で、でもそれは……」

「いいから帰れ」

 威圧。

 二度も同じことを言わせるなと後に続けようかと迷ったが、止める。

 公英は不審がりながらも引き返してくれたからだ。

 事態を察してくれたのだと信じたい。

「牡丹、良いか?」

 月明かりが照らし始めた頃。

 牡丹は墓の前で俯いていた。

「……なに?」

「俺が――日向葵だ」

 驚いた牡丹が葵の方を向いた。

 やはりというのか、最初から気付いていたのか。

堪えきれなくなった牡丹が葵に抱きついて、静かに泣いた。

 六年振りの再開が、こんな形になってしまったのは誰のせいなのか。

 犯人を突き止めて、牡丹を静かに眠らせてあげたい。

 夢が、また一つ増えたのだった。


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